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パリ連続テロ、分裂するアメリカのリアクション - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2015年1月20日 12時30分

 先週パリで発生した、風刺雑誌『シャルリ・エブド』編集部の乱射テロに続く一連のテロ事件に関しては、まだ衝撃が収まっていない中、アメリカのリアクションは分裂しています。

 かつて2000年代に「反テロ戦争」を戦ったアメリカ、また自由と人権を守るということでは、フランスと同じように高い関心を示すアメリカですが、例えば1月11日にパリで行われた、オランド大統領と各国首脳の主導する中370万人を集めたという『私はシャルリ』デモに賛同する声はそれほど多くはありません。

 この「デモに賛成」というのは、リベラルの中でも相当に左のポジションになりそうです。例えばゴールデン・グローブ賞の授賞式で、デモへの連帯を明言した俳優のジョージ・クルーニー、コメディ番組の中で「オバマ大統領がパリにおけるデモに参加しなかった」ことを非難したジョン・スチュワートが目立つぐらいです。ジョン・スチュワートは、オバマ政権の閣僚であるホルダー司法長官がデモの時点でパリにいたにも関わらず、デモに参加しなかったとして強く批判していました。

 一方で、デモへの参加を見送ったオバマ大統領やホルダー司法長官に代表されるように、全世界の、そしてアメリカ国内のイスラム教徒に配慮する立場というのが、現在のアメリカでは主流になっています。

 例えば、テロ事件の翌週発売の『シャルリ・エブド』誌では、表紙にムハンマドの風刺画を描いて「私もシャルリ・エブド」と言わせるなど、挑発的な姿勢を続けていますが、フランスを中心に300万部(700万部まで刷ったという報道もありますが)を売り上げたという、この号の「表紙」に関しては、アメリカの主要メディアは紹介を避けています。

 テレビ局に関して言えば、主要な局はほとんどが表紙を出さずに報じていますし、ニューヨーク・タイムズに至っては、デビッド・ブルックスというコラムニストによる『私は、シャルリ・エブドではない』というエッセイを掲載して、特定の宗教を貶める表現は厳に慎むべきという主張を行っています。

 一方でアメリカの保守派からは、今回のパリのテロに衝撃を受けて、妙な言動が出ています。例えばFOXニュースのキャスターからは、「ヨーロッパにはムスリム系移民の住む無法地帯があり、そこはムスリム系以外は『立ち入り禁止区域(ノー・ゴー・ゾーン)』になっている」というような「トンデモ発言」が繰り返されていました。



 この「ノー・ゴー・ゾーン」という言い方ですが、今週になって共和党から、2016年の大統領選にも色気を見せているボビー・ジンダル知事(ルイジアナ州)が何度も繰り返して発言していることが発覚して問題になっています。ジンダル知事は、「イギリスのバーミンガムは相当に問題のある都市だ」と言って、キャメロン首相に怒られたり、「そもそもイスラム教自体に問題がある」などと、攻撃的な発言を繰り返しているのです。

 ジンダル知事に関しては、余りに一方的な発言であるわけでCNNなどはかなり問題にしており、キャスターたちが知事に激しく食い下がる映像も放映されています。インド系の俊英として保守の星であったジンダル氏も、これで人気を失うだろうという見方が多い一方で、保守系の世論の中には「良く言った」的な評価がされているという報道もあります。

 つまり、2000年代以来の「草の根保守」が抱いている「イスラム教嫌い」という感覚に加えて、「ヨーロッパのトラブルには一線を画する」というアメリカ建国以来の「孤立主義の伝統」を踏まえているというのです。

 イスラム世界との共存を志向してフランスのテロ事件に関しては平静な態度に努めているオバマ政権と主要メディアが「真ん中」にあり、これに対して『シャルリ・エブド』誌やフランスのデモへの連帯を表明しているのは「左派」の一部のみ、一方で「右派」はイスラム圏やフランスに対して孤立主義を復活させようとしている――。これがアメリカの現在のリアクションであり、良く言えばそのバリエーション自体が「多様性」であり、悪く言えば「分裂」しているとも言えます。

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