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反イスラム団体代表、ヒトラーに扮した罪

ニューズウィーク日本版 2015年1月22日 17時8分

 ドイツで急速に支持を拡大している反イスラム団体ペギーダ(PEGIDA、「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者」の頭文字)の指導者ルッツ・バッハマン(41)が21日、代表を辞任すると発表した。

 バッハマンは轟々たる非難の渦中にあった。髪を黒く染めて横分けにし、ちょび髭をつけて、ヒトラーそっくりに扮した自撮り写真をフェブックに載せていたことが発覚。さらに、フェイスブックのメッセージ機能による個人的なやりとりで、難民申請者を「げす野郎」、「家畜」、「人間の屑」などとののしったことも明るみに出て、ドイツ中から猛反発をくらっていたのだ。

 バッハマンは、伝統的に保守色が強いドイツ東部の都市ドレスデンで、昨年10月から毎週月曜に反イスラムのデモを組織してきた。報道によれば、問題になった個人的なメッセージは、デモ開始2週間ほど前の9月19日に送信されたものだという。

 バッハマンと共にペギーダを創設したカテリン・エルテルは、バッハマンの辞任はヒトラーに扮した写真とは関係がなく、個人的なメッセージが不信を招いたことに対する引責辞任だと説明している。「(指導者の)人格が高潔でなければ、政治的信頼は得られない。ペギーダの運動は続く」

 ドイツでは、刑法の「民衆扇動罪」で、人種的憎悪をあおったり、ナチスを賛美する行為は禁止されている。21日には、ザクセン州の検察当局がバッハマンの刑事告訴を視野に入れて捜査を開始したことも明らかになった。

 ペギーダのデモには極右の活動家が多数参加していることから、彼らの運動はネオナチと密接なつながりがあるとみられてきた。しかし、バッハマンらはこれまでそうした見方を強く否定していた。

「私の投稿で気分を害したすべての市民に心から謝罪する」と、彼は辞任発表の際に述べている。「配慮が足りないコメントだった」



 ヒトラーに扮した写真は、地元紙に情報が寄せられたことがきっかけでソーシャルメディアで一気に広まった。メディアの問い合わせが相次ぐと、バッハマンは慌てて写真を削除し、冗談で撮ったものだと釈明した。ヒトラーが現代のドイツに生き返るという設定で話題になったティムール・ヴェルメシュの風刺小説『帰ってきたヒトラー』(2012年刊行)に着想を得たおふざけだったというのだ。写真にはこの本のタイトルが添えられていた。

 バッハマンはペギーダのイメージを傷つけたことも謝罪した。ペギーダは難民認定手続きの厳格化など、難民申請者とムスリムの移民に対する規制の強化を求めている。ムスリムはドイツ社会に「溶け込み」、スカーフ着用など公共の場で信仰の誇示を控えるべきだというのが彼らの主張だ。

 月曜のデモが始まった当初、参加者は数百人程度だったが、その後は回を重ねるごとに増加。1月12日には、その前の週にフランスの風刺週刊紙シャルリ・エブドが襲撃され、イスラム過激派への怒りが高まったこともあり、動員数は2万5000人に上った。

編集部注:Timur Vermesの日本語表記と書名を修正しました。

デニス・リンチ

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