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原油暴落でイスラム原理主義のヒズボラが破産?

ニューズウィーク日本版 2015年1月23日 12時12分

 レバノン南部にある、ごつごつした岩だらけの丘は、どう見ても不動産投資に適しているようには思えない。首都ベイルートから100キロほど、イスラエル国境に近いこの地域は、15年に及ぶ内戦と、イスラエルとの激しい戦いに苦しんできた。

 だが過去数年、この一帯に10軒以上の別荘が建てられた。オリーブ畑、羊の放牧地、荒れた農場......。そんな光景の中に並ぶ豪邸は、場違いな感じがする。地元住民によれば、豪邸の持ち主はイスラム教シーア派過激派組織ヒズボラの幹部たちだ。

 アメリカとイスラエルはヒズボラをテロ集団と見なし、EUもその軍事部門をテロ集団に指定している。しかしシーア派のイランからの潤沢な支援に加え、裕福な国外移住者からの送金や、巧妙な駆け引きで、ヒズボラはこの30年間でレバノンの政治と治安を支配するようになった。同時に、貧しかったシーア派住民はかなり豊かになった。

 だがヒズボラとその支援者にとって、良い時代は過ぎ去ったのかもしれない。ヒズボラに年間数億ドルもの資金をもたらしてきたイランは、原油の利益をこれまでのように望めなくなった。

 昨年6月に1バレル=100ドルだった原油価格は、いま50ドルを下回っている。世界的な需要の減少と中東諸国の原油の供給過剰に加え、アメリカのシェールガス、シェールオイルの開発が進んだためだ。イランでは原油輸出量が11年から60%減少しただけでなく、財政赤字も90億ドルに膨れ上がったと報じられている。

 そのため、イランからヒズボラに渡る資金が大幅に減っているという。「構成員への報酬の遅配や減額などの問題が起きている」と、40代のヒズボラ指揮官ハリル(仮名)は言う。

 ヒズボラの資金難は初めてではない。08年夏、原油価格は1バレル=147ドルでピークに達し、その冬に32ドルで底を打った。その結果、イランはヒズボラに提供する資金を半減させたとみられる。だが削減幅は今のほうがずっと厳しいと、ハリルは言う。



最悪だったタイミング

 しかも今回の資金難は、ヒズボラにとって最悪のタイミングだ。ヒズボラのある幹部がイスラエルの情報機関モサドのスパイだったことが発覚した上、シリア内戦では戦闘員1000人近くを失ったという。イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)やシリア反政府軍との戦いでヒズボラの果たす役割が大きくなるほど、人材と資金がさらに費やされる恐れがある。

 いずれにせよ、現在の「石油ショック」はヒズボラにとって最悪の経験だと、ワシントン中近東政策研究所のテロ対策専門家マシュー・レビットは言う。

 原油価格低迷の長期化が予想されるなか、資金難は極限まで進む可能性がある。今の段階では軍事予算に悪影響はないはずだが、シリアの前線で戦う戦闘員の不満は高まるかもしれない。

 資金難は社会サービスの段階的縮小にもつながり、政治的な支持者への支払いも滞る可能性がある。ヒズボラと手を組むイスラム教ドルーズ派のある政治家に流される資金は、月6万ドルから2万ドルに減った。

「ヒズボラは相当に憂慮していると思う」と、レビットは言う。「要求を満たしてくれる組織として、現地の期待を膨らませてきたのだから」。そう、国境沿いの丘に豪華な別荘が立ち並んだときのように。

[2015.1.27号掲載]
ジェフ・ニューマン

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