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マイケル・ムーア「『アメリカン・スナイパー』は卑怯者」?

ニューズウィーク日本版 2015年2月6日 12時26分

 スナイパー(狙撃兵)は卑怯だと僕たちは教えられてきた。後ろから撃つんだ。スナイパーは英雄じゃない──そんなマイケル・ムーア監督のツイートがちょっとした騒ぎを呼んでいる。

 ムーアのおじは第二次大戦で日本人狙撃兵に撃たれて死んだという。明言はしていないが、クリント・イーストウッド監督作『アメリカン・スナイパー』を念頭に置いた発言だろう。だがこのツイートが強い批判を浴び、本人は慌てて釈明。「『アメリカン・スナイパー』とはひとことも言っていない。映画の感想は──ブラッドリー・クーパーの演技がすごい。今年最高の一本。見事な編集。衣装も髪形もメークも素晴らしい!」

 しかし攻撃はやまず、ニュート・ギングリッチ元下院議長は「マイケル・ムーアはISIS(自称イスラム国、別名ISIL)やボコ・ハラムと数週間過ごすべきだ。『アメリカン・スナイパー』の真価が分かるだろう」とツイート。サラ・ペイリン元共和党副大統領候補も同作を批判する「ハリウッドの左翼」を批判した。さらには共和党全国上院委員会が、ムーアがアメリカ軍を侮辱するのをやめるよう求める署名運動まで起こす騒ぎに。

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『アメリカン・スナイパー』はイラク戦争に4度従軍し、米軍史上最多の160人を射殺したSEALs(米海軍特殊部隊)隊員クリス・カイルの物語。既にイーストウッド作品史上最大のヒットになっている。ただし「パワフル」と絶賛される一方、リベラル派を中心に「160人もの命を奪った人間を美化している」などの酷評もあった。その対立の火にムーアがさらに油を注いだわけだ。

 話題沸騰のなか、当のイーストウッドは先日、ある会合でこう述べた。「映画にできる戦争反対表現の最たるものは、クリス・カイルのように市民生活に戻らなければならない人々やその家族に、戦争が与える影響を見せることだ。私の戦争映画『硫黄島からの手紙』でも、家族や日常から引き離される悲劇について描いた」

 彼の意図が分かったら、批判合戦もやむだろうか。

[2015.2.10号掲載]

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