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『アメリカン・スナイパー』射殺事件の真相は

ニューズウィーク日本版 2015年2月12日 18時14分

 オスカー6部門にノミネートされたクリント・イーストウッド監督の映画『アメリカン・スナイパー』が社会現象を巻き起こすなか、この映画のモデルとなった英雄の悲劇的な死の真相に迫る裁判がアメリカで始まった。

『アメリカン・スナイパー』はSEALs(海軍特殊部隊)の伝説的な狙撃兵クリス・カイルの回想録にもとづいた映画。カイルはイラクから帰還後、民間軍事会社を経営する傍ら、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ仲間の帰還兵を支援する活動に取り組んでいた。

 ベストセラーになった回想録の映画化の話が進むなか、2013年2月2日、当時38歳だったカイルはテキサス州フォートワース郊外の射撃場で元海兵隊員のエディー・レイ・ルースに至近距離から撃たれて死亡した。

 事件当時、カイルの突然の死は衝撃を巻き起こしたが、犯人の動機など詳細は不明のままで、イーストウッドの映画もこの悲劇についてエンドロールでわずかに触れているだけだ。映画が記録的なヒットとなり、事件から2年経った今週、テキサス州スティーブンビルでルース被告(27)の初公判が行われ、事実関係の一部が明らかになった。

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 アラン・ナッシュ州検察官は冒頭陳述で、カイルは背中と脇腹に5発、頭部に1発の銃弾を浴びていたと説明した。その場にいたカイルの友人で、支援活動を手伝っていたチャド・リトルフィールドもルースに射殺されたが、彼は背中と手と頭を撃たれていたという。

 犯行時にルースがドラッグとアルコールの影響を受けていた可能性があることも明かになった。「(刺激を強めるために死体防腐剤に浸けた)いわゆる濡れたマリファナ煙草を吸い、ウィスキーを飲んでいた」と、ナッシュ検察官は陪審団に語った。

 弁護側は、ルースはPTSD患者で、自分のしたことが分からない状態だったと主張。これに対して、ナッシュは「被告は(犯行後、姉に)2人を殺害したこと、その朝ドラッグを使用し、アルコールを飲んだことを打ち明け、悪いと知りながら犯行に及んだことを認めていた」と反論した。



 弁護側は、犯行時にルースは一時的な心神喪失意に陥っており、責任能力がなかったという主張を曲げなかった。「この悲劇が起きたとき、エディー・ルースは心神喪失に陥っていた。悪いことをしているという意識がなかったばかりか、身の危険を感じて2人を殺さなければならないと思い込んでいた」と、ティム・ムーア弁護士は陪審団に訴えた。

 ムーア弁護士が被告の心神喪失の証拠として挙げたのは、カイルがリトルフィールドに送ったテキストメッセージだ。3人で射撃場に向かう途中、カイルはルースの言動がおかしいことに気づき、「こいつは完全に狂ってる」とリトルフィールドに警告していた。

 これに対し、ナッシュ検察官は「被告に障害があったとしても、精神障害によって必ずしも善良な市民である能力や善悪を判断する能力、法律を遵守する能力が失われるとは限らない」と反論した。

 カイルの妻ターヤも証言台に立ち、亡き夫との関係や事件当日に交わしたやりとりを証言した。地元メディアによると、ターヤはその日、カイルがルースとリトルフィールドと一緒にいるときに送ってきた複数のテキストメッセージから、夫がイライラしていると感じたという。

 陪審団が評決を下すまで今後何週間か、法廷で被告の刑事責任能力の有無が問われることになる。有罪になれば、ルースは終身刑を科される可能性がある。


アレックス・ガラファロ

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