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安倍首相の米議会演説に期待できる内容とは? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2015年2月24日 17時29分

 今年「戦後70年」の節目にあたって、安倍首相がアメリカに対してメッセージを出すなら、5月25日の「メモリアルデー」に真珠湾内の「アリゾナ記念館」で献花を行うのが最も効果的、という私の主張に変わりありません。

 ですが次善の策として、もし米議会で首相が演説するのであれば、それはそれで大きな意味を持ってくるでしょう。ですが、追悼のセレモニーにおけるスピーチと、議会での演説とでは意味合いもボリュームも変わってきます。

 かなり注意して演説を組み立てないと、好印象を与えるのは難しいと思います。

 まず議会では、歴史認識の変更は不可能だと思います。村山談話や河野談話を継承するのは前提として、それでも「日本国内で言っていることとは違う」から「二枚舌ではないのか?」という批判は、議会関係者からもメディアからも出るでしょう。それも含めて、ここでの選択の余地はほとんどありません。

 軍事外交を通じたテロ対策に関しても、それほどチョイスはありません。ISILをめぐる混乱に関して有志連合との協調を述べ、難民救済活動を中心として援助を継続することを述べ、何らかの後方支援的なものへの努力を慎重に行うというような言い方になると思いますが、この問題に関して日本のできることには限界があり、またアメリカの期待もそれほど幅広いものではないと思います。

 問題は経済です。

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 2014年4月の消費税率アップを受けた景気の反動減に関しては、さすがに10~12月期は「プラス2・2%」と持ち直したものの、GDPが予想を大きく下回ったことへのアメリカの失望感は強いものがあります。

 アメリカが日本の景気を気にするのはどうしてでしょうか? 日本株に投資していて儲けたいからでしょうか? あるいは外資として日本に進出して儲けたいからでしょうか? 個別にはそうした事情もあるとは思いますが、国家のレベルでは違います。

 日本経済回復に期待するのは、日本経済の強さがアジアの安定につながるからです。国力のバランスとして、日中が均衡していればアジアの安全保障におけるリスクが低減されるからです。その意味で、「アベノミクス」に関するアメリカの関心は極めて高いものがある一方で、厳しい見方も出始めています。

 現時点ではかなりあてはまらなくなっているのですが、日本の永田町や霞が関には、アメリカでは「共和党の方が民主党より親日」という思い込みがあるようです。今は、その共和党が米議会の上下両院で過半数を占めています。では、米議会は「アベノミクス」にも好意的かというと、この点に関しては注意しなくてはなりません。



 というのは、アベノミクスの「第一の矢」である流動性供給、そして「第二の矢」である景気刺激のための公共投資に関しては、どちらも共和党の根本方針である「小さな政府論」の立場からは、認められない考え方だからです。

 イデオロギー的に認められない政策を出動させ、しかも異次元緩和の「バズーカ」まで日銀に打たせ、禁じ手であるはずの「為替操作」に近い自国通貨の価値毀損をやって、「それでも実体経済の戻りが遅い」ということですと、共和党の議員団は、安倍政権に対して冷淡になってもおかしくありません。

 そこで必要になるのが、改革をしっかり進めること、つまりより高付加価値型の産業にシフトすること、競争力を喪失した産業に関してはスクラップ・アンド・ビルドをしっかり行うこと、労働時間の短縮を含むオフィスワークの生産性向上を行うこと、海外からの投資や企業活動の進出にあたっての規制や障壁を除くこと、といった「目に見える」そして「経済成長に直結する」改革を進めているという姿を見せることです。

 仮に安倍首相の「米議会演説」が実現した場合、実はこの点が一番神経を使う点だと思います。一方で、歴史認識に関しては表現上の選択の余地はほとんどありません。テロ対策に関しても実現可能なことは限られており、従って言及できることは限られていると思います。

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