3月5日の朝(現地時間)にマーク・リパート駐韓アメリカ大使が、ソウル市内の「世宗(セジョン)文化会館」で刃物(25センチの果物ナイフという報道もあり)を持った男に襲撃されたというニュースは、アメリカではトップ扱いで報道されています。
CNNやAPのウェブサイトでは、顔から血を流し、シャツとネクタイに鮮血が飛び散った状態の大使の写真と共に報道されています。アメリカでは血に対する抵抗感というのは、日本とは比較にならないものがあり、例えば映画などで「赤い血」を表現した映像は、それだけで成人指定になるぐらいです。
ですから、ショッキングとしか言いようのない写真が報道に使われていること自体が、(他に適切な写真がなかったからかもしれませんが)ニュースとしての衝撃度が高いことを示していると思います。
リパート大使というのは、国務省と海軍での経歴を経て、上院・民主党の政策アドバイザーとしてオバマ大統領と密接に仕事をして以来、大統領と極めて親しい「友人」であると言われる外務・軍事官僚です。現在42歳という若さで韓国という規模の大使に任命されているということは、論功行賞というよりも「具体的な使命」を帯びて任命されたことが推測されます。
事件の直後に大統領はソウルで入院中のリパート大使に直接電話をかけて見舞ったそうです。大統領との「近さ」そして事件の重大性を示すエピソードです。ちなみにリパート大使は、着任以来、韓国の「草の根」との対話を重視しており、公邸から大使館まで徒歩で出勤する間にソウルの市民と毎日挨拶を交わしていたそうです。
そんなリパート大使の襲撃に関して、現時点でのアメリカでの報道では、犯人は「南北統一運動家」であって、米韓の軍事演習に反対する立場から大使襲撃という暴挙に出たという解説がされています。
とりあえず「第一報」はそんなところですが、現時点で伝えられている範囲からこの事件の位置づけを考えてみたいと思います。
まずアメリカですが、この事件は個人の暴発に過ぎないとは言え、衝撃は大きなものがあります。ではアメリカにとって、この事件は何を意味するのでしょうか?
それにはオバマ政権が「2期目」のアジア外交について、何を主眼にしていたのかを考える必要があります。それは、アジアの「リバランス戦略を深化させる」方向性だという説明がよくされます。
この「リバランス」というのは、1期目のオバマ政権が「これからはアジア重視だ」ということを言い始めた時から使用している概念で、要するに国力を拡大し、軍事的な野心を見せ始めた中国に対して「あらためてきちんとバランス・オブ・パワーを確保して抑止しますよ」というメッセージでした。
では、2期目の「リバランスの深化」というのは、どういう意味かと言うと「軍事力だけではない、バランスの再確保」だというのです。それは、外交力を駆使して中国とのバランスを取るというもので、次の4つの意味合いを持っていると思います。
(1) 米国にとってコスト増となるような、日中の緊張拡大を外交で阻止する。
(2) 韓国が日米と距離を置いて中国と接近することで生じる外交バランスの劣化をストップして、日米韓の同盟関係を修復する。
(3) 東シナ海における緊張を緩和することで、台湾海峡の安全も確保する。
(4) 日米韓と中国の関係を改善することで、6カ国協議が機能していた時のように北朝鮮の冒険主義を封じ込めるだけの連携体制を再建する。
リパート大使が韓国に派遣されたのは、こうした「外交のリバランス戦略」を進めていくという大きなテーマがあったと見るべきです。
では、今回の襲撃事件によって、アメリカは「韓国の不安定な姿勢に落胆」して、「リバランス外交戦略」を修正し、「より日米関係を中心にして」アジア戦略を考えるようになるのでしょうか?
逆だと思います。他でもないリパート大使が襲われたことで、大使自身も、国務省も、あるいはアシュトン・カーター新国防長官以下の国防総省も、そしてオバマ大統領も「あらためて外交のリバランス戦略」をより真剣に進めなくてはならないと考えていると思います。
仮にそうであれば、安倍政権に期待されるのは「より真剣に韓国との関係修復を志向する」ことだと思われます。それも喫緊の課題としてです。「反日ナショナリストがアメリカにテロをしかけたので、残念な事件かもしれないが日米関係にはメリットがある」というような安易な発想では、外交は先へは進まないと思います。
CNNやAPのウェブサイトでは、顔から血を流し、シャツとネクタイに鮮血が飛び散った状態の大使の写真と共に報道されています。アメリカでは血に対する抵抗感というのは、日本とは比較にならないものがあり、例えば映画などで「赤い血」を表現した映像は、それだけで成人指定になるぐらいです。
ですから、ショッキングとしか言いようのない写真が報道に使われていること自体が、(他に適切な写真がなかったからかもしれませんが)ニュースとしての衝撃度が高いことを示していると思います。
リパート大使というのは、国務省と海軍での経歴を経て、上院・民主党の政策アドバイザーとしてオバマ大統領と密接に仕事をして以来、大統領と極めて親しい「友人」であると言われる外務・軍事官僚です。現在42歳という若さで韓国という規模の大使に任命されているということは、論功行賞というよりも「具体的な使命」を帯びて任命されたことが推測されます。
事件の直後に大統領はソウルで入院中のリパート大使に直接電話をかけて見舞ったそうです。大統領との「近さ」そして事件の重大性を示すエピソードです。ちなみにリパート大使は、着任以来、韓国の「草の根」との対話を重視しており、公邸から大使館まで徒歩で出勤する間にソウルの市民と毎日挨拶を交わしていたそうです。
そんなリパート大使の襲撃に関して、現時点でのアメリカでの報道では、犯人は「南北統一運動家」であって、米韓の軍事演習に反対する立場から大使襲撃という暴挙に出たという解説がされています。
とりあえず「第一報」はそんなところですが、現時点で伝えられている範囲からこの事件の位置づけを考えてみたいと思います。
まずアメリカですが、この事件は個人の暴発に過ぎないとは言え、衝撃は大きなものがあります。ではアメリカにとって、この事件は何を意味するのでしょうか?
それにはオバマ政権が「2期目」のアジア外交について、何を主眼にしていたのかを考える必要があります。それは、アジアの「リバランス戦略を深化させる」方向性だという説明がよくされます。
この「リバランス」というのは、1期目のオバマ政権が「これからはアジア重視だ」ということを言い始めた時から使用している概念で、要するに国力を拡大し、軍事的な野心を見せ始めた中国に対して「あらためてきちんとバランス・オブ・パワーを確保して抑止しますよ」というメッセージでした。
では、2期目の「リバランスの深化」というのは、どういう意味かと言うと「軍事力だけではない、バランスの再確保」だというのです。それは、外交力を駆使して中国とのバランスを取るというもので、次の4つの意味合いを持っていると思います。
(1) 米国にとってコスト増となるような、日中の緊張拡大を外交で阻止する。
(2) 韓国が日米と距離を置いて中国と接近することで生じる外交バランスの劣化をストップして、日米韓の同盟関係を修復する。
(3) 東シナ海における緊張を緩和することで、台湾海峡の安全も確保する。
(4) 日米韓と中国の関係を改善することで、6カ国協議が機能していた時のように北朝鮮の冒険主義を封じ込めるだけの連携体制を再建する。
リパート大使が韓国に派遣されたのは、こうした「外交のリバランス戦略」を進めていくという大きなテーマがあったと見るべきです。
では、今回の襲撃事件によって、アメリカは「韓国の不安定な姿勢に落胆」して、「リバランス外交戦略」を修正し、「より日米関係を中心にして」アジア戦略を考えるようになるのでしょうか?
逆だと思います。他でもないリパート大使が襲われたことで、大使自身も、国務省も、あるいはアシュトン・カーター新国防長官以下の国防総省も、そしてオバマ大統領も「あらためて外交のリバランス戦略」をより真剣に進めなくてはならないと考えていると思います。
仮にそうであれば、安倍政権に期待されるのは「より真剣に韓国との関係修復を志向する」ことだと思われます。それも喫緊の課題としてです。「反日ナショナリストがアメリカにテロをしかけたので、残念な事件かもしれないが日米関係にはメリットがある」というような安易な発想では、外交は先へは進まないと思います。