ヒラリー・クリントン氏が自分の「eメール」をめぐるスキャンダルに巻き込まれそうになりました。2009年からの4年間、オバマ政権の国務長官時代に法律に違反して、個人のメールアドレスを使って公務をしていたというのが問題になったのです。
まず、国務長官と言えば国の外交の事実上の責任者であり、最高の外交官でもあるわけです。ですから公務を遂行するにあたって必ず国務省のサーバを通して、公式のアドレスで交信をすることが義務づけられているわけです。
理由は簡単で、国家の最高機密を扱う以上は「最高のセキュリティで情報を保護する必要がある」からです。個人のアドレスを使用したり、セキュリティの甘いサーバを使われたりして、機密が漏えいしたら大変なことになるわけで至極当然の措置と言えます。
但し、個人のアドレスの使用が全く禁止されているかというと、そうではなく、緊急避難的な使用は認められています。その場合はメールのコピーを国務省に提出することが義務づけられています。
さて、このスキャンダルですが、共和党の一部と保守系のTV局「FOXニュース」などが、かなり躍起になって追及をしていました。2016年の大統領選へ向けて、立候補表明前に「最強の民主党の候補ヒラリー」を政治的に葬ることができれば、ホワイトハウス奪還もグッと現実味を帯びてくる、追及にはそんな迫力が感じられたのです。
では、どうしてこの問題が「深刻なスキャンダルになる」可能性があったのでしょうか?
まずアメリカの場合、この種の「単純な法令違反」に対して「法令に違反しているからダメ」という批判はそれほど有効にはなりません。また「情報漏えいの可能性のあるようなITリテラシーの低さを露呈した」ということでヒラリーを追及していたのでもありません。
共和党の思惑は違いました。そうではなくて、このスキャンダルに乗じて、ヒラリーの国務長官時代の「公電」と「私信」を暴露したかったのです。彼らのターゲットは、主として1つの事件でした。それは、2012年の9月11日にリビアのベンガジにあった、アメリカ領事館が武装勢力に襲撃されて、クリストファー・スティーブンス大使など4名が殺害された事件です。
共和党としては、当時の国務長官であったヒラリーが「事件を甘く見ていた」ために「在外公館の警備を怠った」というスキャンダルを延々と追い続けています。その背景には、襲撃の直前にアメリカで「ムハンマド侮辱ビデオ」が出回るという事件がありイスラム圏では広範囲で「反米デモ」が活発化していたという問題があります。
結果的には北アフリカのアルカイダ系武装勢力によるロケット砲などを交えた「武力攻撃」であったわけですが、当時のスーザン・ライス国連大使(現大統領補佐官)などは「大使館襲撃はビデオへの抗議デモ」だというような発表をして、その後に撤回をしています。では、共和党としては何が目的なのでしょう?
3つあります。1つは「本格的な武力攻撃なのに抗議デモだという誤認に至ったという失態」、そして2番目としては「オバマ政権によるビデオ問題に関する謝罪姿勢が、結果的に武力攻撃を招くようなスキにつながったという疑惑」、更に3番目としては「事態が深刻であることが判明した後に、判断ミスの隠ぺい工作があったという疑惑」という3つです。
ヒラリーは、このいずれに関しても丁寧な説明をしているのですが、共和党は特にこの3つの点に関して「自宅のサーバ」に決定的な「やり取り」が残っているのではと見て、その内容を狙っていたわけです。
では、どうしてそんな非常事態における交信について、ヒラリーは国務省のサーバではなく、自宅のサーバを使っていたのでしょう。ここからは私の推測ですが、要するに彼女は「国務省のサーバは信じていなかった」のだと思います。特に2010年に大規模な公電暴露が起きた「ウィキリークス事件」の後はそうです。
ヒラリーは非常に警戒をしていたのだと思います。敵国のスパイ活動による情報漏えいだけでなく、国務省内部からも告発や漏えいがある中で、ヒラリーは1つのことを恐れていたのだと思います。それは非常に個人的なニュアンスの濃い会話が、政敵に渡ると言う危険性です。
もしかしたら、ベンガジの事件の後で自分の落ち度について、何らかの「隠ぺい工作」があったかもしれないし、仮にそうした工作は不要であっても、ベンガジの事件に関して政敵からの執拗な攻撃に対して「こういう言い方で切り抜けよう」とか「共和党の誰々の発言は許せない」というようなことを、カジュアルな言葉遣いで自分の周囲と交信していたという可能性は十分にあります。そして、そうした「生々しいやり取り」は絶対に漏れてはならないことを彼女は知っていたと思います。
だからこそ共和党はその「メールの中身を狙った」のでした。
ですが、この「事件」、ほぼ幕引きの段階に来たようです。ヒラリーの判断はシンプルでした。「法律上求められている約3万通のメールは国務省に提出した」、「その他の60日を経過した個人メールは削除した」、「サーバは必要なら提出する」というのがその対応です。
要するに、個人のメールはプライバシーだから削除するのは自由、公電は全て提出したものの国家機密に関する部分は機密扱いになるから公表は不要というわけです。もちろん、共和党サイドは「何かを隠しているのは明白」だとカンカンですが、世論はそんなに盛り上がってはいません。
この事件、どうやらヒラリーは「ダメージコントロール」に成功したようです。漠然とではありますが、ヒラリーという人は「どこかに秘密主義的な部分がある」という印象を拡大することはあったかもしれませんが、共和党側としての決定的な追及は不発に終わりそうです。
まず、国務長官と言えば国の外交の事実上の責任者であり、最高の外交官でもあるわけです。ですから公務を遂行するにあたって必ず国務省のサーバを通して、公式のアドレスで交信をすることが義務づけられているわけです。
理由は簡単で、国家の最高機密を扱う以上は「最高のセキュリティで情報を保護する必要がある」からです。個人のアドレスを使用したり、セキュリティの甘いサーバを使われたりして、機密が漏えいしたら大変なことになるわけで至極当然の措置と言えます。
但し、個人のアドレスの使用が全く禁止されているかというと、そうではなく、緊急避難的な使用は認められています。その場合はメールのコピーを国務省に提出することが義務づけられています。
さて、このスキャンダルですが、共和党の一部と保守系のTV局「FOXニュース」などが、かなり躍起になって追及をしていました。2016年の大統領選へ向けて、立候補表明前に「最強の民主党の候補ヒラリー」を政治的に葬ることができれば、ホワイトハウス奪還もグッと現実味を帯びてくる、追及にはそんな迫力が感じられたのです。
では、どうしてこの問題が「深刻なスキャンダルになる」可能性があったのでしょうか?
まずアメリカの場合、この種の「単純な法令違反」に対して「法令に違反しているからダメ」という批判はそれほど有効にはなりません。また「情報漏えいの可能性のあるようなITリテラシーの低さを露呈した」ということでヒラリーを追及していたのでもありません。
共和党の思惑は違いました。そうではなくて、このスキャンダルに乗じて、ヒラリーの国務長官時代の「公電」と「私信」を暴露したかったのです。彼らのターゲットは、主として1つの事件でした。それは、2012年の9月11日にリビアのベンガジにあった、アメリカ領事館が武装勢力に襲撃されて、クリストファー・スティーブンス大使など4名が殺害された事件です。
共和党としては、当時の国務長官であったヒラリーが「事件を甘く見ていた」ために「在外公館の警備を怠った」というスキャンダルを延々と追い続けています。その背景には、襲撃の直前にアメリカで「ムハンマド侮辱ビデオ」が出回るという事件がありイスラム圏では広範囲で「反米デモ」が活発化していたという問題があります。
結果的には北アフリカのアルカイダ系武装勢力によるロケット砲などを交えた「武力攻撃」であったわけですが、当時のスーザン・ライス国連大使(現大統領補佐官)などは「大使館襲撃はビデオへの抗議デモ」だというような発表をして、その後に撤回をしています。では、共和党としては何が目的なのでしょう?
3つあります。1つは「本格的な武力攻撃なのに抗議デモだという誤認に至ったという失態」、そして2番目としては「オバマ政権によるビデオ問題に関する謝罪姿勢が、結果的に武力攻撃を招くようなスキにつながったという疑惑」、更に3番目としては「事態が深刻であることが判明した後に、判断ミスの隠ぺい工作があったという疑惑」という3つです。
ヒラリーは、このいずれに関しても丁寧な説明をしているのですが、共和党は特にこの3つの点に関して「自宅のサーバ」に決定的な「やり取り」が残っているのではと見て、その内容を狙っていたわけです。
では、どうしてそんな非常事態における交信について、ヒラリーは国務省のサーバではなく、自宅のサーバを使っていたのでしょう。ここからは私の推測ですが、要するに彼女は「国務省のサーバは信じていなかった」のだと思います。特に2010年に大規模な公電暴露が起きた「ウィキリークス事件」の後はそうです。
ヒラリーは非常に警戒をしていたのだと思います。敵国のスパイ活動による情報漏えいだけでなく、国務省内部からも告発や漏えいがある中で、ヒラリーは1つのことを恐れていたのだと思います。それは非常に個人的なニュアンスの濃い会話が、政敵に渡ると言う危険性です。
もしかしたら、ベンガジの事件の後で自分の落ち度について、何らかの「隠ぺい工作」があったかもしれないし、仮にそうした工作は不要であっても、ベンガジの事件に関して政敵からの執拗な攻撃に対して「こういう言い方で切り抜けよう」とか「共和党の誰々の発言は許せない」というようなことを、カジュアルな言葉遣いで自分の周囲と交信していたという可能性は十分にあります。そして、そうした「生々しいやり取り」は絶対に漏れてはならないことを彼女は知っていたと思います。
だからこそ共和党はその「メールの中身を狙った」のでした。
ですが、この「事件」、ほぼ幕引きの段階に来たようです。ヒラリーの判断はシンプルでした。「法律上求められている約3万通のメールは国務省に提出した」、「その他の60日を経過した個人メールは削除した」、「サーバは必要なら提出する」というのがその対応です。
要するに、個人のメールはプライバシーだから削除するのは自由、公電は全て提出したものの国家機密に関する部分は機密扱いになるから公表は不要というわけです。もちろん、共和党サイドは「何かを隠しているのは明白」だとカンカンですが、世論はそんなに盛り上がってはいません。
この事件、どうやらヒラリーは「ダメージコントロール」に成功したようです。漠然とではありますが、ヒラリーという人は「どこかに秘密主義的な部分がある」という印象を拡大することはあったかもしれませんが、共和党側としての決定的な追及は不発に終わりそうです。