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中国主導のAIIBに急いで参加する必要はない - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2015年4月9日 13時1分

 日本はAIIB(アジアインフラ投資銀行)の創設メンバーには入りませんでした。アメリカも同様でしたが、その一方でヨーロッパ各国は出資することになりました。日米が孤立したように見えるとか、中国主導の経済に乗り遅れていいのかといった議論もあるようです。

 ちなみに、アメリカでは経済界を中心に「オバマがアッサリと無視した」ことへの反発が出ています。中国経済との結びつきの強い現在のアメリカ経済においては、自然な発想とは言えるでしょう。ですが、今のところは大きな論争にはなっていません。アメリカとしては、政界も財界も静観の構えです。

 現時点で日本もアメリカもAIIBに入った方が良かったのでしょうか? あるいは事態の推移を見守るのがいいのでしょうか? 現時点で言えば、私は「静観」で良いと思います。

 というのは、おそらくは理念という意味でも実務という意味でも、このAIIBという金融機関の立ち上げは全くの準備段階で「海のものとも山のものとも分からない」からです。

 そのことはAIIBのホームページを見れば一目瞭然です。まず内容が全く薄いのです。これからドルベースで10億ドル(日本円で1000億円レベル)とか更にその100倍、あるいはそれ以上、といったカネを動かす機関としてPRの体裁はできていないのです。

 そのホームページの中には、理念として「リーン(引き締まった)、クリーン(清潔な)、グリーン(環境に優しい)」というスローガンが掲げてあるのですが、これが何とも心細い感じを与えます。官僚組織の肥大化を避け、腐敗を避け、環境破壊を避けるというのは、話としては良い方向には違いないのですが、このように列挙されると、反対に「肥大化、腐敗、環境破壊」といった内外の懸念に対して「受け身」のように見えるのが気になります。

 また同じホームページの中には設立の経緯として、「習近平国家主席が......」とか「李克強首相が......」といったリーダーのイニシアチブが大げさに書かれていたり、実際に設立を決めた調印式における習近平主席を中心とした集合写真が掲げられていたりという具合です。

 その写真を見ただけで、まるで途上国の政府系機関が指導者を持ち上げているという感覚で、心細くなります。これは金融機関なので、利用者と出資者にとってどういったメリットがあるのかがホームページで宣言すべき最も大事なことだと思うのですが、そうではなく「とりあえず国威発揚のノリ」でホームページを作ってしまうという感覚には、「肥大化、腐敗、環境破壊」的な危険性を感じてしまうのです。金融機関としての可能性は、全く白紙と考えるべきでしょう。

 こうした点に関しては、日本が中心となって設立したフィリピンに本部を置くアジア開発銀行(ADB)の発足当時の状況とはだいぶ違うように思います。ADBは1966年に設立されました。それから3年強を経過した時点で、初代の渡辺武総裁が世界銀行のロバート・マクナマラ総裁と対談した内容が、1970年4月13日の朝日新聞の第2部に掲載されています。

 この中で、両総裁は「途上国の自助努力が先進国からの援助を刺激する」という好循環を作らねばならないとか、「途上国の負債削減が急務だ」という認識に立って、「融資と技術訓練をセットで行う」あるいは「途上国が輸出産業を育成できるように指導する」といった長期的な観点からの「目標」をしっかりと掲げていました。

 AIIBもそのホームページで、「現存の開発銀行(複数形、つまりは世銀とADBのこと)や民間セクターの経験に学んで自行の基盤を整備してゆく」ということを述べています。ですが、そのことの本当の意味、つまり短期的な自国への利益還流や、自国の影響力強化では「ない」ような、本当に「開発のための銀行」としての存在意義を学ぶまでには時間がかかるでしょう。

 AIIBは構想が生まれてからまだ2年も経過していない「純粋に新規のプロジェクト」です。この先、本当に優秀な人材を集めて、確固たる理念と公明正大な業務体制を整備してゆけるのか、AIIB自身が警戒している「肥大化、腐敗、環境破壊」を回避することができるのか、見極めには時間がかかると思います。

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