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誰も驚かない「ヒラリー出馬」、その勝算は? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2015年4月14日 11時9分

 今週12日、SNSを通じて「プロモーションビデオ」を配信するという形で、ヒラリー・クリントンは2016年の大統領選への出馬を事実上表明しました。そのビデオですが、いかにも「イメージビデオ」といった作りで、「アメリカのミドルクラス」が「困難な中で再スタートをする」というのがテーマになっています。

 その「再スタート」というのが、2008年の予備選に敗北した彼女の「再挑戦」とイメージ的に重なるという演出でした。全体的にあくまでイメージ中心でリアリティがなく、またヒラリー自身の登場は最後の方だけという「軽い作り」でしたが、一点、登場人物の平均年齢がどう見ても30代以下ということから、若年層に弱いヒラリーの必死さは伝わって来たように思います。

 いずれにしても、この「出馬宣言」は、アメリカでは当然至極として受け止められています。1993年に夫のビル・クリントンがホワイトハウスに入って以来、ファーストレディーとして、そして上院議員、国務長官と切れ目なく国政に参加し、2008年にはオバマ大統領と熾烈な予備選を戦い、僅差で敗れた彼女の出馬は、アメリカどころか世界中でも「誰も驚かない」ニュースに違いありません。

 では、彼女は勝つのでしょうか? 勝って初の女性大統領になるのでしょうか?

 まず民主党内での予備選についてですが、現時点で圧勝は間違いないと言われています。ですから問題は本選で、共和党の候補との勝負になります。この点に関しては、以下の2つのファクターを考えなくてはなりません。

 第1のファクターは、国際情勢です。自称「イスラム国(ISIL)」やイエメン、イランなどの情勢が平穏であれば民主党の外交が信任されてヒラリー、国際情勢の動揺が激しいようなら「オバマの失政への批判」で共和党が有利という見方が一部にありますが、私は逆だと思います。

 共和党の側の大統領候補達は、いずれも内政重視という顔ぶれです。ですから、国際情勢が激しく動いている場合には、90年代から軍事外交の最前線にいたヒラリーの重みが出てきます。一方で、国際情勢が安定していると、共和党の新人に政権を委ねるような「ギャンブル」が可能になるというわけです。共和党は「アラブの春」を支持したオバマとヒラリーへの批判を続けていますが、では何か代案があるのかというと「ない」からです。

 第2のファクターは国内情勢、とりわけ景気の状態です。好況が曲がりなりにも続くようなら、オバマの延長でヒラリーに有利になります。格差是正などの問題で、オバマより「やや左」であり、したがって「少しだけ余計に大きな政府論」であるヒラリー政権が誕生する条件は「好況」です。

 反対に不況になれば、歳出への監視が厳しくなり、共和党候補が有利になるでしょう。特に、経済に「大乱」が起きるようですと、小さな政府論者であるティーパーティー系の、ランド・ポール、スコット・ウォーカー、テッド・クルーズなどの勢いが増すと考えられます。また不況になれば、若年層の不満が増大し、若年票の投票率が増加します。これもヒラリーには不利になるでしょう。

 またアメリカが再び不況に陥るようですと、不況脱出のためには「中国頼みの経済」という話が出てきて、共和党の若い世代による「対中国の関係改善」という流れが出てくる可能性もあります。その際には、中国との「対決姿勢」に固執するヒラリーには不利になるでしょう。このシナリオは日本への影響が大きいだけに、要注意です。中国との電撃和解をやったニクソンが共和党だったことは忘れてはなりません。

 今のヒラリーは「史上初の女性候補」という新鮮味は持ち合わせていません。人道や人権に敏感だが、軍事力の使用も躊躇しない「リベラル・ホーク(リベラルなタカ派)」で、オバマよりやや左の「大きな政府論者」という立ち位置の経験豊富なベテラン政治家として、自分より若い世代の分厚い有権者層の審判を受けることになるわけです。

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