アプリケーションのテストサービスを提供するエストニアの新興企業テストリオは先月、アメリカの投資家から100万ドル(94万5000ユーロ)のシード資金を調達した。エストニアは人口125万人の小国だが、最近ではこうしたニュースは珍しくない。
テストリオの資金調達の数週間前には、ピアツーピアの融資サービス会社ボンドラがアメリカの投資家から450万ユーロの投資を受けた。オンライン送金サービスのトランスファーワイズもエストニア生まれのベンチャーだ。ヴァージングループの創業者リチャード・ブランソンとベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ、そしてペイパルの共同創業者ピーター・シールは同社に4800万ユーロを投じている。
ヨーロッパ8カ国で事業展開し、20万人以上の登録ユーザーを誇るタクシーの配車アプリ運営会社タクシファイもエストニアに本拠を置く。同社はアメリカとヨーロッパの投資家から先日140万ユーロの資金を調達した。創業者のマルクス・ビリクがこの会社を立ち上げるのに必要としたものは、エストニア人なら誰でも持っている電子IDカード、1台のパソコン、クレジットカードのみ。ビリクはデスクに向かって、たった数分間で登記手続きを済ませた。
ヨーロッパの辺境とも言うべきエストニア。隣のロシアが常にこの小国に睨みを利かせている。しかし、トーマス・ヘンドリック・イルベス大統領率いる現政権は、こうした悪条件を克服して、世界に名だたるベンチャー王国を築いてきた。現在、発足したての新興企業は350社。人口3700人当たりに1社の割合だ。政府は2020年までに1000社の新企業育成を目指している。
エストニア生まれのIP電話サービス、スカイプが大成功したことで、優秀な人材がベンチャーに関心を持ち、起業ブームが起きたとビリクは言う。「10年前にはみんな大企業に就職したがっていたが、今では僕の友人はほとんど起業している」
シリコンバレーの新興企業はインキュベーター(起業支援事業者)から初期資金を調達した後、ベンチャーキャピタルから何百万ドルもの投資を受けられるが、エストニアの起業家はクラウドファンディングや政府の助成金を頼りに事業を始める。彼らがアメリカとヨーロッパの大手ベンチャーキャピタルから資金を調達できるよう、政府系の起業支援機関が売り込みのノウハウを教えている。
世界繁栄指数を発表しているシンクタンク、レガトゥム研究所(本部ロンドン)のハリエット・モルトビーによると、起業のコスト、法の支配など、起業に有利な環境整備では、エストニアはイギリスにかなわないという。「それ以上にエストニア人の起業を妨げる最大の障害は人々の認識だ」と、モルトビーは指摘する。「昨年の調査によると、自分の国には起業に適した環境があると答えたイギリス人は70%だったが、エストニア人は51%だった。イギリスと並ぶヨーロッパの新興企業の中心地になるには、エストニアはまず自己イメージを変えるべきだ」
まだまだ課題はありそうだが、世界の先陣を切って行政サービスの電子化を進めてきたイルベス政権は、電子政府の特長を生かして世界中から起業家を募るという野心的な計画を進めている。エストニアを1度訪れただけで、電子IDカードを交付され、祖国に居ながらにして、エストニアで会社を設立し運営できる「電子住民」制度だ。政府は2025年までにバーチャル住民を1000万人に増やす計画で、希望者を募っている。
すでにエストニア政府の文書はすべて電子化され、外国の大使館のサーバーにバックアップが保存されている。「書類のない世界は想像しにくだろうが、エストニアではそれが当たり前だ」と、エストニア政府の最高情報責任者タービ・コトカは説明する。「確かに、電子化することで、サイバー攻撃の脅威は大きくなる。しかし、われわれが常に意識しているのは暴力的な隣人の脅威のほうだ」
たとえロシアに占領されても、電子政府が機能すれば、祖国を守れる――エストニアの先進的な取り組みは小国の賢い自衛策でもあるようだ。
エリーサーベト・ブラウ
テストリオの資金調達の数週間前には、ピアツーピアの融資サービス会社ボンドラがアメリカの投資家から450万ユーロの投資を受けた。オンライン送金サービスのトランスファーワイズもエストニア生まれのベンチャーだ。ヴァージングループの創業者リチャード・ブランソンとベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ、そしてペイパルの共同創業者ピーター・シールは同社に4800万ユーロを投じている。
ヨーロッパ8カ国で事業展開し、20万人以上の登録ユーザーを誇るタクシーの配車アプリ運営会社タクシファイもエストニアに本拠を置く。同社はアメリカとヨーロッパの投資家から先日140万ユーロの資金を調達した。創業者のマルクス・ビリクがこの会社を立ち上げるのに必要としたものは、エストニア人なら誰でも持っている電子IDカード、1台のパソコン、クレジットカードのみ。ビリクはデスクに向かって、たった数分間で登記手続きを済ませた。
ヨーロッパの辺境とも言うべきエストニア。隣のロシアが常にこの小国に睨みを利かせている。しかし、トーマス・ヘンドリック・イルベス大統領率いる現政権は、こうした悪条件を克服して、世界に名だたるベンチャー王国を築いてきた。現在、発足したての新興企業は350社。人口3700人当たりに1社の割合だ。政府は2020年までに1000社の新企業育成を目指している。
エストニア生まれのIP電話サービス、スカイプが大成功したことで、優秀な人材がベンチャーに関心を持ち、起業ブームが起きたとビリクは言う。「10年前にはみんな大企業に就職したがっていたが、今では僕の友人はほとんど起業している」
シリコンバレーの新興企業はインキュベーター(起業支援事業者)から初期資金を調達した後、ベンチャーキャピタルから何百万ドルもの投資を受けられるが、エストニアの起業家はクラウドファンディングや政府の助成金を頼りに事業を始める。彼らがアメリカとヨーロッパの大手ベンチャーキャピタルから資金を調達できるよう、政府系の起業支援機関が売り込みのノウハウを教えている。
世界繁栄指数を発表しているシンクタンク、レガトゥム研究所(本部ロンドン)のハリエット・モルトビーによると、起業のコスト、法の支配など、起業に有利な環境整備では、エストニアはイギリスにかなわないという。「それ以上にエストニア人の起業を妨げる最大の障害は人々の認識だ」と、モルトビーは指摘する。「昨年の調査によると、自分の国には起業に適した環境があると答えたイギリス人は70%だったが、エストニア人は51%だった。イギリスと並ぶヨーロッパの新興企業の中心地になるには、エストニアはまず自己イメージを変えるべきだ」
まだまだ課題はありそうだが、世界の先陣を切って行政サービスの電子化を進めてきたイルベス政権は、電子政府の特長を生かして世界中から起業家を募るという野心的な計画を進めている。エストニアを1度訪れただけで、電子IDカードを交付され、祖国に居ながらにして、エストニアで会社を設立し運営できる「電子住民」制度だ。政府は2025年までにバーチャル住民を1000万人に増やす計画で、希望者を募っている。
すでにエストニア政府の文書はすべて電子化され、外国の大使館のサーバーにバックアップが保存されている。「書類のない世界は想像しにくだろうが、エストニアではそれが当たり前だ」と、エストニア政府の最高情報責任者タービ・コトカは説明する。「確かに、電子化することで、サイバー攻撃の脅威は大きくなる。しかし、われわれが常に意識しているのは暴力的な隣人の脅威のほうだ」
たとえロシアに占領されても、電子政府が機能すれば、祖国を守れる――エストニアの先進的な取り組みは小国の賢い自衛策でもあるようだ。
エリーサーベト・ブラウ