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日本の地方自治に「対立軸」は成立しないのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2015年4月21日 11時14分

 統一地方選が進行中ですが、今回は史上例を見ないほどの「低調」な選挙戦となっているようです。東京や大阪の知事選が「統一」のサイクルから外れたこと、地方議会で無風選挙が横行したことなど色々な要素があるようですが、その根本には、地方自治における「対立軸」が機能していないという問題があります。

 もちろん、戦後の冷戦型対立が良かったわけではないし、その余韻を引きずっている現在の「保守対リベラル」という対立軸が「まとも」だとも思えません。ですが、現在の状態は明らかに異常であると思います。というのは、現在の日本の地方政治には深刻な「選択」が迫られているからです。

 その「選択」を民主的なプロセス、つまり有権者の責任でできるかが、今後の地方の活性化にとって大きな意味があると思います。では、想定できる選択肢、あるいは「対立軸」としてはどんなものが考えられるのでしょうか?

 1番目には「大きな政府」つまり、公共工事から雇用の補助金、教育予算から公務員の人件費まで、予算を大きめにとって税金も高めに行くのか、あるいは「小さな政府」という政府の介入を限定する代わりに、歳入・歳出も限定するという対立軸があります。多くの地方自治体が今後は財政危機に直面する中で、「大きな政府」か「小さな政府」かという選択肢は地方自治の根幹に関わると思います。

 2番目には、地方の「自立」を志向するのか、中央への依存を続けるのかという選択肢があると思います。国と地方の財源の問題は、小泉政権の当時に議論になりましたが、今後はさらに次元の違う論議に入っていかなければなりません。

 3番目には、中規模な都市では、自分たちはその地域の核となる都市となって、消滅自治体の人口や行政サービスの統合の受け皿となるのか、あるいは自分たちの自治体はもっと大きな都市に合流する方向を選択するのかというチョイスがあるように思います。大阪の府市統合案は、この問題の変形と言えます。

 4番目には、カルチャーとして「他の地方からの流入に寛容」な地域を目指すのか、それとも地域の特性を重視する代わりに、他の地方からの流入にはやや「排他的」でも仕方がないとするのかという選択があると思われます。ここには、国際化を積極的に行うかどうかといった問題も入ってきます。

 5番目には、年齢層として中高年をターゲットとした行政をするのか、子育て層を中心とした自治体作りをするのかという問題があります。一部には、介護福祉士と、保育士の「ダブル資格人材」を作って乗り切ろうなどという案もありますが、そうした施策も含めて、高齢者と子育て層に対して、どのような行政サービスの特徴を出していくのかは大きな問題です。

 6番目としては、今後その地方がどんな産業を中核としていくのかという問題があります。工場を誘致するのか、農業の競争力に注力するのか、あるいは都市からの通勤圏として宅地化を進めるのかといった問題です。

 7番目としては都市計画の問題で、「コンパクトシティ」を土地の買い上げまでして進めるのか、あるいは「ライトレール」などの公的交通機関をどうするのかといった争点は、しっかりと選挙の際の対立軸にすべきと思うのです。

 8番目以降には、イデオロギー的な特色を地方自治に入れるのかどうかということも、全く無視は出来ないと思います。そうした色彩が求心力になり、人口を集めることができれば、それはそれで地方の生き残りにはなるからです。選択肢としては、環境、営利企業に対する態度(敵視かフレンドリーか)、教育などの問題があると思います。

 いずれにしても、日本の地方行政は、明らかな岐路に立っており、選択を迫られる状況となっています。そのような中で、選挙という「意志決定のインフラ」を使って、大きな問題の決定に住民の参加を促すことは、これまで以上に重要になっているはずです。

 にも関わらず、地方選挙が全般的に低調だというのは、大きな問題だと思います。実務的に「選択することに意味のある」複数の「実行可能な対立軸」を設定して、地方自治の再生を図ることは急務であると思います。

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