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在宅遺伝子テストでわかること - 瀧口範子 @シリコンバレーJournal

ニューズウィーク日本版 2015年4月22日 19時46分

 アメリカでは、在宅遺伝子テスト・キットがいろいろ出回るようになってきた。妊娠しているかどうかを尿で検査するキットは以前からあるが、遺伝子キットの方はもっと難しいデータ、つまりこれまでなら病院でしかわからなかったデータを手にすることができるものだ。

 つい最近発売されたのは、乳がんや卵巣がんの発生を予測する遺伝子のテスト・キット。発売元はカラー・ジェノミクスという元グーグルのエンジニアらが創業した会社だ。キットの開発には、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、カリフォルニア大学などの研究者も関わった。

 このテスト・キットはオンラインで販売されており、価格は249ドル。キットが届くと、同封の容器に自分の唾液を入れて返送する。カラー・ジェノミクスでそれを分析し、結果がメールで送られてくるという流れだ。

 この遺伝子テスト・キットは、遺伝性乳がんと卵巣がんの発生に関係するとされる2つの遺伝子BRCA1とBRCA2の変異を観察する。これらの遺伝子が生まれつき変異していれば、通常よりも高い確率で乳がんや卵巣がんが発生することが明らかになっている。母親や家族が特に若い年齢で乳がんや卵巣がんになったという女性には、ことに有用なテストである。

 数年前に両乳房を切除し、最近さらに卵巣を切除したアンジェリーナ・ジョリーも、これらの遺伝子の変異が認められたために、予防的処置として切除手術を受けた。こうした遺伝子検査はこれまでは病院でしかできず、またその費用も4000ドル以上と高かった。手術はもちろんのこと、検査にも高額な金がかかる。彼女のケースで明らかになったのは、まさに知識と財力が寿命を左右するという格差の存在だった。

 ところが、在宅遺伝子テスト・キットが数100ドルで手に入るということになれば、簡単に自分の病気を知ることができるようになる。特にアメリカでは、医療保険会社の儲け主義によって複雑化、高額化している検査の手続きが、グンと民主化される。

 また、病院に行くのがおっくうで検査を先延ばしにした結果、がんが進行してしまったというケースも多い。妊娠テストと同様、おっくうなテストも家でできるようになれば、そうした事態はかなり避けられるだろう。カラー・ジェノミクスでは、テスト結果によってカウンセラーに相談ができる費用もキットの価格に含んでいる。

 こうした在宅遺伝子テスト・キットは、他にも販売されている。

 ひとつは、23アンドミー(23andMe)というスタートアップが開発したキットで、発売を開始した2007年当初、250もの健康状態や発病の可能性がわかると謳っていた。こちらは価格がもっと安く99ドル。同じように唾液を送って解析を受ける。

 ただ、判定する病気があまりに幅広いことから、FDA(連邦食品医薬品局)が医療機器としてひとつひとつ同局の承認を受ける必要があるとし、今はテストの種類がかなり限定されている。
 
 もうひとつ、アメリカ人に人気の在宅遺伝子テスト・キットは先祖がわかるというもの。

 アメリカ人は、ヨーロッパ、アフリカ、アジアなどのさまざまな人種から成り立っていて、混血もかなり多い。ところが、日本の本籍登録のような制度がないため先祖を知ることが難しく、ことに曾祖父母より以前の世代になると、どこから来たのか、結婚した相手はどうだったのかといったことがわからない場合がほとんどだ。

 先祖キットはやはり唾液を送るだけで、自分の血縁の構成がわかる。たとえば、アンセストリー・ドットコムのテストを受けた歌手、ヴァネッサ・ウィリアムズの場合は、ガーナ23%、ブリテン諸島17%、カメルーン15%、フィンランド12%、南ヨーロッパ11%、トーゴ7%、ベニン6%、セネガル5%、ポルトガル4%のDNA構成がわかったという。かなり詳細まで把握できるのがわかる。先祖探しが好きなアメリカ人の間で、このキットはけっこう人気になっている。

 もちろん、こうした在宅遺伝子テスト・キットがかかえる危険性もあるだろう。遺伝子情報が広く簡単に手に入ることで、新しいタイプの個人情報が売買されたり盗まれたりするような状況が出てくることが予想される。その結果、遺伝子差別も起こりかねない。

 また、自分の遺伝子なのだからその情報を手にするのが当たり前という主張があって、それも納得がいくのだが、すべての人々がそうした情報を正しく解釈できるのか、安全に扱えるかのかは別問題だ。

 これまで一部の特権を持つ人々や専門家によって独占されてきた情報が民主化されるという面では歓迎だが、すでに一般人への教育が急がれる時期に入っている。


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