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デジタルクリエイターを福岡へ呼び込め!

ニューズウィーク日本版 2015年4月23日 10時30分

地方都市が仕掛ける移住誘致策の新しいスタイルとは

 地元コミュニティの活性化を目指して、地方都市が若者の移住誘致に乗り出すケースが全国で増えている。その中でも注目されるのが、昨年、IT分野のスタートアップなどを支援する国家戦略特区(創業特区)に選定された福岡市の試みだ。若手のIT人材を呼び込むために地元企業での「トライアルワーク(実務研修)」を提供するプロジェクトを、昨年秋から開始した。

「ぼくらの福岡クリエイティブキャンプ」というこのプロジェクト、市内のデジタルコンテンツ企業やITサービス企業と提携して、デジタルクリエイターやITエンジニアなどの移住希望者を全国から募り、実際に福岡で2カ月の実務研修を体験してもらうというものだ。

 研修に参加した15人は、いずれもIT業界の職務経験がある移住希望者で、福岡県出身者だけでなく、首都圏をはじめとした全国から「Iターン」移住を希望する若者が集まった。プロジェクトの公式サイトに掲載された体験リポートでは、福岡の自然や地元のコミュニティとの交流に魅力を感じたという参加者の感想が寄せられている。

 プロジェクトは一旦、今年3月末に終了したが、2カ月の研修を終えた15人のうち半数以上の9人がそのまま福岡市に移住したという。担当した福岡市企業誘致課の山下龍二郎係長は、「期待以上の成果が上がった。移住を真剣に考えている人が集まったことに加え、IT人材が不足する中で地元企業の採用意欲が高まっていることが背景にある」と、話している。

 今回の成果をもとに、福岡市では15年度も移住を希望するIT人材を全国で発掘するイベントを開催し、地元企業への転職を支援するプロジェクトを実施することにしている。

 またこうした移住誘致活動をサポートする情報提供サイト「#(ハッシュ)FUKUOKA」も昨年末に開設した。サイト上では「クリエイティブキャンプ」関連イベントの実施報告とともに、福岡のローカルフード「焼き豚足」や、正月に3つの神社を参拝するという福岡の「三社参り」の風習を紹介するなど、全国の移住希望者に向けて地元の文化や魅力をアピールする情報を掲載している。

 福岡市には『妖怪ウォッチ』を製作したゲームソフト企業レベルファイブが拠点を置いている他、ウェブサービス企業LINEが新社屋を建設して東京本社に次ぐ国内第2の拠点を整備する構想を明らかにしている。創業特区への選定に伴ってIT企業の集積が進む反面、実務経験のある人材の不足が課題の1つとして浮上してきている。

 今回の福岡市のプロジェクトは、デジタルクリエイターやITエンジニアという最先端の分野に特化して人材のマッチングを進め、それを地元コミュニティの活性化につなげようと試みている点で先進的と言えるだろう。就農支援や移住資金の援助といった既存の誘致策では活路を見出せない全国の地方自治体にとって、1つのモデルケースとなりそうだ。

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