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依然として止まらない米警官による黒人殺害事件 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2015年4月28日 10時39分

 昨年、発生したマイケル・ブラウン事件(ミズーリ州)、エリック・ガーナー事件(ニューヨーク州)は大きな社会問題となりましたが、今年に入っても、警官による治安維持行動の中で、黒人が事実上殺害されるという事件が続いています。

 この4月だけでも殺害事件が2件発生しています。まず、4月4日にはサウスカロライナ州のノースチャールストンでウォルター・スコットさんという元沿岸警備隊員の50歳の黒人男性が、「自動車のストップランプが点灯しない」ということでパトロール中の警官に尋問を受けたところトラブルになり、逃走したところを背中から撃たれて死亡しています。

 スコットさんは武装してはいなかったのですが、尋問に抵抗する中で警官からスタンガンを奪ったところ、警官が激昂して最悪の事態になったようです。この事件に関しては、目撃者が撮影した決定的なビデオがあったことと、警官の行動をすべて可視化するための音声記録もあったために、事件の解明が進んでいます。

 結果的に、このウォルター・スコット事件では警官は「第一級殺人」で起訴されており、抗議行動は起きたものの暴徒化することはありませんでした。

 一方で、4月12日にメリーランド州のボルチモアで、25歳のフレディ・グレイさんという男性が死亡した事件は、未だに解明が進んでいません。グレイさんは、パトロール中の警官に尋問を受けてもみ合う中で逮捕され、護送される途中で意識不明に陥り、直後に死亡しています。診断は「脊髄の損傷」ということですが、原因は解明されていません。

 グレイさんに関しては、麻薬取引の前科がある一方で、生まれ育ったコミュニティが汚染されていたことで、慢性の鉛中毒に苦しんでいたという報道もあります。その病気のために、行動が落ち着かないという面があったという説もありますが、真偽のほどは分かりません。分かっているのは、6人の警官がグレイさんを取り押さえようとしたこと、結果的に逮捕されたグレイさんが直後に急死したということだけです。

 この事件は、情報公開が進み警官も起訴されたウォルター・スコット事件の直後に起きただけに、特にボルチモア市警の不透明性が批判を浴びました。事件から2週間を経た現時点でも、死因の解明や6人の警官の容疑について、一貫した説明はされていないのです。

 このため大都市ボルチモアには不穏な雰囲気が漂うこととなりました。4月の25~27日にかけて抗議行動が暴徒化し、警察車両が破壊されたり、放火されたりして夜間は危険な状態が続いています。メリーランド州は、ボルチモア市に非常事態宣言を適用して警戒にあたっていますが、住民の警察への不信感は根強いものがあり解決は程遠い状態です。

 この「白人警官による黒人不審死」ですが、ミズーリ州ファーガソンでは、マイケル・ブラウン事件への抗議行動の暴徒化があり、一方でニューヨーク市のクイーンズ区では、ガーナー事件への「報復」としか思えない2人の警官射殺事件があり、これに対する市警察サイドの抗議行動があり、という具合に昨年は大変な社会問題となりました。

 ファーガソンでの暴徒化を抑えられなかったことも契機となって、6年以上にわたって司法長官を務めたエリック・ホルダー氏が辞任するなど、オバマ政権にとっても一連の事件は重荷としてのしかかっています。

 ホルダー長官辞任を受けて、ロレッタ・リンチ氏が初の黒人女性司法長官に就任しましたが、これはオバマ政権として「リベラルな人事」をアピールするためでも何でもなく、ここまで「もつれた」白人警官と黒人コミュニティの相互不信を解決するには、黒人で女性、しかも仕事のできるリンチ氏のような人物に期待するしかないのだろうと思います。

 就任早々、大変な任務を背負ったリンチ司法長官ですが、何とかこうした「暴力と不信の連鎖」を解決してほしいという期待が集まっています。そのためにも、ボルチモアの事件の真相解明が一刻も早く進まなくてはなりません。

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