アメリカから見ればイギリスは、いつの間にか独立戦争の宿敵という怨念は消え、同じ英語圏に属する兄弟国家として親しみの対象になっています。第一次世界大戦以降は、ほとんどの戦争で米英は相互に協力していますし、諜報機関同士が緊密な関係にあるのも有名です。
人的交流も非常に盛んで、大学院レベルでは相互の留学は頻繁ですし、観光客の行き来も多く、結果として大西洋横断路線の中でも米英航空路というのは空の幹線になっています。
また、君主制を採用しなかったアメリカにとって、イギリス王室は強い好奇心の対象であり今回の、ウィリアム王子とキャサリン妃の第二子誕生というニュースも、大変に大きく報道されました。
そのイギリスは、5月7日に総選挙を実施し、キャメロン首相率いる保守党(トーリー)が過半数を獲得して政権を維持しました。例えば、昨年9月のスコットランド独立を問う住民投票がアメリカでも大きな関心を呼んだように、イギリスの政局はアメリカで大きなニュースになるのが通例です。政治専門のTV局である「CSPAN」では議会庶民院(下院)の本会議の中継があるぐらいです。
ですが今回の総選挙に関しては、アメリカではほとんど関心を呼ぶことはありませんでした。劇的な結果が出たにも関わらず、翌日の地上波3大ネットワークのニュースでは、扱いはほとんどゼロか結果の紹介だけに留まったのです。新聞の扱いも大きくありませんでした。
なぜそこまで関心が薄いのでしょうか。
まず何と言っても、アメリカが「内向き」ということがあります。海外のことは、直接自分たちに関係してこない限りは、あまり関心を向けないのが、現在のアメリカの世相です。
特に安全保障の分野で、アメリカとイギリスが同盟軍として活動を共にしているのならともかく、現在はアフガニスタンもイラクも撤収段階ですから、相手のイギリスの動向には関心が薄いのです。
そのイラクの戦争に関して、イギリス側でブッシュと同盟して戦争を遂行したブレア政権は中道左派の労働党政権で、その戦争参加を批判して政権を奪ったのが右派の保守党という分かりにくい「ねじれ」があるのもアメリカで関心が薄い理由だと思います。
アメリカの景気が好調なこともあるでしょう。欧州のニュースに関して言えば、ギリシャへの支援問題は現在かなり難しい局面に来ているのですが、仮にギリシャ支援の構想が破綻しても、2009~10年のようにそのショックからアメリカで株安になるのは考えにくい中で、ギリシャへの関心も薄れています。同様の理由で、イギリスの景気動向や政局も「自分たちには関係ない」という感覚があるのだと思います。
イギリスへのEU諸国を通じた移民流入の加速が社会問題になっており、職を奪われた若年層も含めて「EU離脱論」があること、またその「EU離脱論」を主導した保守党が勝ったということも、アメリカでは今ひとつピンと来ていない面があります。
アメリカの移民問題と言えば、メキシコ国境経由の不法移民問題がありますが、今はその合法化へ向けて大統領令が出されるなど、アメリカでは「移民排斥」ムードは薄くなっています。そんな中で、イギリスの問題への関心も低いのです。
今回のイギリスの総選挙では、スコットランド民族党(SNP)が大躍進して、労働党の議席を大きく奪っています。また、昨年9月の独立を問う住民投票で敗北して辞任したサーモンド党首に代わって登板したニコラ・スタージョン党首が「左派政策」を雄弁に語って人気を獲得しています。ですが、このスタージョン党首という濃厚なキャラクターに関しても、アメリカではほとんど紹介されていません。
これは、アメリカの世論の中にある、「オバマ、ヒラリーといった中道左派で十分」、つまりそれより左のポジションの政治家には興味はあまりないという雰囲気が反映していると思われます。アメリカで「左派の女性政治家」としては、エリザベス・ウォーレン上院議員(民主、マサチューセッツ州)という存在があるのですが、彼女でも「根拠の薄い左派ポピュリスト」という批判がされている程なので、ウォーレンよりさらに左のスタージョンには関心は向かないのだと思います。
そんなわけで、極めて近い関係にあるイギリスの総選挙も、アメリカでは関心がほとんど払われませんでした。何点か理由を考えてみましたが、やはりアメリカが「内向き」ということが最大の理由だと思います。何と言っても、現在のアメリカ世論にとって最大の関心事はボルチモアの人種暴動です。
暴動そのものは警官6名の起訴によって沈静化しましたが、その際にミュージシャンのプリンスが支援コンサートを行ったこと、強引に起訴に持ち込んだ若手のアフリカ系地区検事に賛否両論があること、一方でミシシッピ州では「警官に対するヘイト射殺事件」が発生したことなど、この事件を含めた警察と人種の問題はまだまだ落ち着いていないのです。
人的交流も非常に盛んで、大学院レベルでは相互の留学は頻繁ですし、観光客の行き来も多く、結果として大西洋横断路線の中でも米英航空路というのは空の幹線になっています。
また、君主制を採用しなかったアメリカにとって、イギリス王室は強い好奇心の対象であり今回の、ウィリアム王子とキャサリン妃の第二子誕生というニュースも、大変に大きく報道されました。
そのイギリスは、5月7日に総選挙を実施し、キャメロン首相率いる保守党(トーリー)が過半数を獲得して政権を維持しました。例えば、昨年9月のスコットランド独立を問う住民投票がアメリカでも大きな関心を呼んだように、イギリスの政局はアメリカで大きなニュースになるのが通例です。政治専門のTV局である「CSPAN」では議会庶民院(下院)の本会議の中継があるぐらいです。
ですが今回の総選挙に関しては、アメリカではほとんど関心を呼ぶことはありませんでした。劇的な結果が出たにも関わらず、翌日の地上波3大ネットワークのニュースでは、扱いはほとんどゼロか結果の紹介だけに留まったのです。新聞の扱いも大きくありませんでした。
なぜそこまで関心が薄いのでしょうか。
まず何と言っても、アメリカが「内向き」ということがあります。海外のことは、直接自分たちに関係してこない限りは、あまり関心を向けないのが、現在のアメリカの世相です。
特に安全保障の分野で、アメリカとイギリスが同盟軍として活動を共にしているのならともかく、現在はアフガニスタンもイラクも撤収段階ですから、相手のイギリスの動向には関心が薄いのです。
そのイラクの戦争に関して、イギリス側でブッシュと同盟して戦争を遂行したブレア政権は中道左派の労働党政権で、その戦争参加を批判して政権を奪ったのが右派の保守党という分かりにくい「ねじれ」があるのもアメリカで関心が薄い理由だと思います。
アメリカの景気が好調なこともあるでしょう。欧州のニュースに関して言えば、ギリシャへの支援問題は現在かなり難しい局面に来ているのですが、仮にギリシャ支援の構想が破綻しても、2009~10年のようにそのショックからアメリカで株安になるのは考えにくい中で、ギリシャへの関心も薄れています。同様の理由で、イギリスの景気動向や政局も「自分たちには関係ない」という感覚があるのだと思います。
イギリスへのEU諸国を通じた移民流入の加速が社会問題になっており、職を奪われた若年層も含めて「EU離脱論」があること、またその「EU離脱論」を主導した保守党が勝ったということも、アメリカでは今ひとつピンと来ていない面があります。
アメリカの移民問題と言えば、メキシコ国境経由の不法移民問題がありますが、今はその合法化へ向けて大統領令が出されるなど、アメリカでは「移民排斥」ムードは薄くなっています。そんな中で、イギリスの問題への関心も低いのです。
今回のイギリスの総選挙では、スコットランド民族党(SNP)が大躍進して、労働党の議席を大きく奪っています。また、昨年9月の独立を問う住民投票で敗北して辞任したサーモンド党首に代わって登板したニコラ・スタージョン党首が「左派政策」を雄弁に語って人気を獲得しています。ですが、このスタージョン党首という濃厚なキャラクターに関しても、アメリカではほとんど紹介されていません。
これは、アメリカの世論の中にある、「オバマ、ヒラリーといった中道左派で十分」、つまりそれより左のポジションの政治家には興味はあまりないという雰囲気が反映していると思われます。アメリカで「左派の女性政治家」としては、エリザベス・ウォーレン上院議員(民主、マサチューセッツ州)という存在があるのですが、彼女でも「根拠の薄い左派ポピュリスト」という批判がされている程なので、ウォーレンよりさらに左のスタージョンには関心は向かないのだと思います。
そんなわけで、極めて近い関係にあるイギリスの総選挙も、アメリカでは関心がほとんど払われませんでした。何点か理由を考えてみましたが、やはりアメリカが「内向き」ということが最大の理由だと思います。何と言っても、現在のアメリカ世論にとって最大の関心事はボルチモアの人種暴動です。
暴動そのものは警官6名の起訴によって沈静化しましたが、その際にミュージシャンのプリンスが支援コンサートを行ったこと、強引に起訴に持ち込んだ若手のアフリカ系地区検事に賛否両論があること、一方でミシシッピ州では「警官に対するヘイト射殺事件」が発生したことなど、この事件を含めた警察と人種の問題はまだまだ落ち着いていないのです。