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企業の継続的な成長に求められる、働く女性の多様なロールモデル

ニューズウィーク日本版 2015年6月5日 11時47分

出産や育児を国と当事者だけに任せていられる時代は終わった

 1985年に制定された男女雇用機会均等法が今年で30年を迎える。企業や社会だけでなく、当事者たる働き手の意識も男女ともに大きく変化し、女性が「働ける」社会は実現したと言えそうだ。

 しかし今でも、働く女性にはさまざまな「後ろめたさ」がつきまとう。出産のために休みをとること、乳幼児を託児所に預けること、子供の病気やケガでたびたび職場を離れること......。良くも悪くも「空気を読む」女性なら、それをストレスに感じない人はいないだろう。待機児童問題を含め、自治体のサポートや法整備が追いついていないという現状もあり、出産に踏み切れない女性も多い。

 内閣府が発表した平成26年版少子化社会対策白書によると、女性の育児休業取得率は2012年で83.6%だが、第1子の出生年が2005〜2009年である女性の継続就業率は38.0%(2010年)にとどまっているという。育児休業の取得には、「引き続き雇用されることが見込まれる」という条件が挙げられる。しかし出産後、スムーズに職場に復帰できる女性は半数以下なのだ。

 出産後の復帰をサポートするために、独自の女性支援制度を用意する企業も現れた。働く女性たちが癒されるようなスマホの恋愛ドラマアプリを数多く手がける株式会社ボルテージには、「産後10ヶ月未満で復帰した場合、月給2ヶ月分を支給する」という、早期復帰支援金の制度がある。この制度を考案した同社副会長の東奈々子氏は、自身が3人を出産した経験から、「産後の職場復帰はケースバイケースで、いくつかの選択肢があることが望ましい」と考えている。

 「出産してすぐにフルタイムで働ける人は少ないが、現行の制度では、時短勤務などで早めに復帰すると損をする仕組みになっている。産後1年間の休業は、人によっては長すぎることもある。休みたい人は休める、働きたい人は働けるよう、条件をフェアにしておくことが重要だ」というのが、東氏の持論だ。

 2013年には、安倍総理の成長戦略スピーチで「3年間抱っこし放題(育児休業を最大3年に延長)」が大きく取り沙汰された。しかし現実問題として、仕事から離れる期間が長ければ長いほど、働き手にとってはブランクを取り戻すことが、企業側にとっては受け入れ体制を整えることが、それぞれ難しくなる。時短や在宅などのイレギュラーな雇用形態でも「働く」ことで、その後のフルタイム復帰も受け入れやすくなり、慣れない育児に戸惑う「新米ママ」のリフレッシュにもなる。

 ただし、問題は出産前後だけではない。幼稚園や小学校に進めば、入学式や保護者会など、平日に保護者の参加が必要なイベントが増える。ボルテージでは、子供の学校行事に参加するために年3日の有給休暇を付与する「チャイルドサポート休暇」を用意、もちろん父親も取得できるという。働く女性にとっては、父親の積極的な育児参加も重要なサポートになるからだ。

 今の成熟社会で、家庭や家族を犠牲にしてまで働かなければならない職場環境は間違っていると東副会長は断言する。「家族での時間を大切にしてほしい」という考え方は、同氏が家族とともに住むサンフランシスコ(シリコンバレー)の風潮にも重なる(同社は2012年にアメリカに開発拠点を設立している)。サンフランシスコのオフィスでは、男性スタッフが「妻が体調を崩したので、病院に付き添う」と休暇を申請することも当然のようにあるという。雇用する側として、カリフォルニア州の被雇用者を保護する制度(福利厚生や産後社員への職場環境など)はかなり手厚く、特にシリコンバレーでは、社員に良質な労働環境を提供することが、結果として企業の永続的な成長につながるという考えが浸透していると感じるそうだ。

 子育て世代の女性にとって、「長く働く」ということは重要なテーマである。「均等法第一世代」として就職した女性たちの多くが結婚・出産をきっかけに離職しており、ロールモデルとなる女性が少ないからだ。出産や育児、介護などの個別の事情にも柔軟に対応できる仕組みがあれば、「多様なロールモデル」は自ずと育っていく。実践を重ね、「前例がない」という後ろめたさから解放された世代こそが、日本の「男女共同参画社会」を次のステージへ導いてくれるはずだ。

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