米大統領選に名乗りを上げる政治家にとって、外国訪問は避けて通れない通過儀礼になっている。訪問先は主に、ロンドン、ベルリン、テルアビブなど、緊密な同盟国の首都や主要都市だ。東京を訪れる場合もある。
州知事や上院議員が世界のリーダーたちと会談し、国際的課題に精通していることを示す機会はめったにない。そうした場で立派に振る舞えれば、有権者に「次の大統領」としてイメージしてもらいやすくなる。
来年の大統領選への出馬を予定する共和党の政治家たちには、この通過儀礼が特に重要な意味を持つ。本選挙では、前国務長官である民主党のヒラリー・クリントンと争う可能性が高いからだ。しかしこれまでのところ、外国訪問でかえって不安材料を露呈する結果になっている。
大統領選を目指す政治家の外国訪問のお手本は、08年のオバマ候補(当時は上院議員)のベルリン訪問だ。オバマはベルリンの野外で20万人を超す市民を前に演説し、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領の外交に終止符を打つと宣言した。
来年の大統領選に挑むジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事も今月ベルリンを訪れ、政財界のリーダー1000人を前に講演を行った。しかしこの講演では、父であるジョージ・H・W・ブッシュ元大統領が冷戦終結と東西ドイツ統一で果たした貢献を強調し、不人気な兄ジョージ・W・ブッシュには触れずじまいだった。
馬脚を現した最有力候補
結局、ジェブ・ブッシュのベルリン訪問は、兄ブッシュ政権がいまだに記憶に新しいなか、有権者がブッシュ家の大統領を望むのかという疑問をあらためて際立たせただけだった。
それでも、外交を論じようとしただけ評価できるのかもしれない。共和党の有力候補の1人であるウィスコンシン州知事のスコット・ウォーカーは、先月イスラエルを訪問した際、メディアの質問を受け付けなかった。代わりにエルサレムで撮影した写真をツイッターに投稿したが、これではまるで観光客だ。有権者は、ウォーカーの中東政策について評価のしようがない。
ウォーカーは、過去の失敗に懲りたのかもしれない。2月には、自分はウィスコンシン州で労働組合に対処した経験があるので、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)にも適切に対応できると発言。共和党のレーガン元大統領による最も重要な外交上の決断は何だと思うかと問われたときは、81年にストライキを行った航空管制官たちを解雇したことだと答えた。
初期の世論調査では共和党のトップを走っていたウォーカーだが、これで大統領としての資質に疑問符が付いてしまった。
一方、外国訪問で株を上げた共和党政治家もいる。マルコ・ルビオ上院議員は、11年に上院議員になって最初の2年間で8カ国を訪問。昨年は、アジアの同盟国である日本、韓国、フィリピンを歴訪し、安倍晋三首相とも会談している。13年には、ロンドンの権威ある王立国際問題研究所で講演し、オバマの外交政策を厳しく批判した。
ルビオの場合は、上院で外交委員会に所属していることに加えて、早い段階から外国訪問を始めていたことが功を奏しているのだろう。
もっとも、共和党の面々にとって最大の試練は、外国首脳と不慣れな会談をすることではない。オバマの外交に代わる説得力ある外交戦略を打ち出さなくてはならない。
共和党の出馬予定者のほとんどは、もっと力強い外交を主張し、ロシアや中国、ISISに強い姿勢で臨むべきだと言う。しかし、具体的にどういう外交を行うのか。単にマッチョな言動をするだけでは十分でない。
いくら外国訪問を重ねたところで、パスポートのスタンプの数ではクリントンに勝てない。重要なのは、外国を訪ねて外交政策のアイデアを持ち帰ることだ──記念写真ではなく。
[2015.6.30号掲載]
ウィリアム・ドブソン
州知事や上院議員が世界のリーダーたちと会談し、国際的課題に精通していることを示す機会はめったにない。そうした場で立派に振る舞えれば、有権者に「次の大統領」としてイメージしてもらいやすくなる。
来年の大統領選への出馬を予定する共和党の政治家たちには、この通過儀礼が特に重要な意味を持つ。本選挙では、前国務長官である民主党のヒラリー・クリントンと争う可能性が高いからだ。しかしこれまでのところ、外国訪問でかえって不安材料を露呈する結果になっている。
大統領選を目指す政治家の外国訪問のお手本は、08年のオバマ候補(当時は上院議員)のベルリン訪問だ。オバマはベルリンの野外で20万人を超す市民を前に演説し、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領の外交に終止符を打つと宣言した。
来年の大統領選に挑むジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事も今月ベルリンを訪れ、政財界のリーダー1000人を前に講演を行った。しかしこの講演では、父であるジョージ・H・W・ブッシュ元大統領が冷戦終結と東西ドイツ統一で果たした貢献を強調し、不人気な兄ジョージ・W・ブッシュには触れずじまいだった。
馬脚を現した最有力候補
結局、ジェブ・ブッシュのベルリン訪問は、兄ブッシュ政権がいまだに記憶に新しいなか、有権者がブッシュ家の大統領を望むのかという疑問をあらためて際立たせただけだった。
それでも、外交を論じようとしただけ評価できるのかもしれない。共和党の有力候補の1人であるウィスコンシン州知事のスコット・ウォーカーは、先月イスラエルを訪問した際、メディアの質問を受け付けなかった。代わりにエルサレムで撮影した写真をツイッターに投稿したが、これではまるで観光客だ。有権者は、ウォーカーの中東政策について評価のしようがない。
ウォーカーは、過去の失敗に懲りたのかもしれない。2月には、自分はウィスコンシン州で労働組合に対処した経験があるので、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)にも適切に対応できると発言。共和党のレーガン元大統領による最も重要な外交上の決断は何だと思うかと問われたときは、81年にストライキを行った航空管制官たちを解雇したことだと答えた。
初期の世論調査では共和党のトップを走っていたウォーカーだが、これで大統領としての資質に疑問符が付いてしまった。
一方、外国訪問で株を上げた共和党政治家もいる。マルコ・ルビオ上院議員は、11年に上院議員になって最初の2年間で8カ国を訪問。昨年は、アジアの同盟国である日本、韓国、フィリピンを歴訪し、安倍晋三首相とも会談している。13年には、ロンドンの権威ある王立国際問題研究所で講演し、オバマの外交政策を厳しく批判した。
ルビオの場合は、上院で外交委員会に所属していることに加えて、早い段階から外国訪問を始めていたことが功を奏しているのだろう。
もっとも、共和党の面々にとって最大の試練は、外国首脳と不慣れな会談をすることではない。オバマの外交に代わる説得力ある外交戦略を打ち出さなくてはならない。
共和党の出馬予定者のほとんどは、もっと力強い外交を主張し、ロシアや中国、ISISに強い姿勢で臨むべきだと言う。しかし、具体的にどういう外交を行うのか。単にマッチョな言動をするだけでは十分でない。
いくら外国訪問を重ねたところで、パスポートのスタンプの数ではクリントンに勝てない。重要なのは、外国を訪ねて外交政策のアイデアを持ち帰ることだ──記念写真ではなく。
[2015.6.30号掲載]
ウィリアム・ドブソン