Infoseek 楽天

カスパロフ「プーチンはISISより危険だ」

ニューズウィーク日本版 2015年6月29日 19時42分

 チェス界の偉大な元チャンピオンで、今は人権活動家でロシアの政治家ガルリ・カスパロフ(52)。2007年には反体制派の指導者として大統領選に立候補したが敗退。短期間だが投獄され、命を狙われた回数は数知れない。今年の10月には、ロシア大統領で永遠の政敵ウラジーミル・プーチンについての著書『勝者がやって来る(Winner is Coming)』を出版するカスパロフに、ワルシャワの密かな一室で本誌のロバート・チャルマーズが話を聞いた。



──アドルフ・ヒトラーに非があったのは否定できない。だがヒトラーだって、政界に入った当初は人々のために善をなそうとしたと想像するのは間違いだろうか。

「善とは何だ。結果を見ろ。スターリンはヒトラーより多くの人間を殺した。もっとも、虐殺競争ならポル・ポトがチャンピオンかもしれないが」

──プーチンはどうだ。少しぐらい使命感や慈善の心はあったのか。

「ない。プーチンは日和見主義者だ。戦略家ではない。彼は配られたカードがたまたま強かったポーカー・プレーヤーのようなものだ。彼は最初からKGBのスパイでそれを誇りにしている。KGBは慈善団体ではない」


KGBのある幹部は、プーチンを批判して命を落とした活動家について話しているとき、カスパロフは「リストの次」だったと言ったことがある。



──命の危険を感じることはあるか。

「ロシアには2年半も帰っていない。ニューヨークに住んでいるんだ。危険な噂のある国には近寄らないようにしている」

「しかし真面目な話、何ができるというんだ。講演のためにあちこちへ行かなければならない。怪しい人間とはお茶を飲まないことにしている。とにかく用心すること、それだけだ」

──君は最近、プーチンは世界で一番危険な男で、ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)よりもはるかに危険だと言った。本当にそう信じているのか。

「もちろんだ。プーチンは(大統領の任期が切れた)2008年に引退することもできた。だが今は、独裁者として権力の座に捕われている」

プーチンに必要なのは友ではなく敵だけ

──最近も、ISISなどゴミのように潰してしまえると言った。

「ISISは殲滅できる。彼らには空軍がないし、アフが二スタンのような山岳地帯にいるわけでもない」

──西側はプーチンを甘く見過ぎたのか

「大幅に。10年前には、アメリカのブッシュ前大統領やイギリスのブレア元首相と近づいた。自らの地位を守るために体面を取り繕わなければならなかったからだ。いま彼が欲しいのは、包囲されたロシアを演出することだ。彼にはもう友達はいらない。必要なのは敵だけだ」


チェスの世界チャンピオンというと、精神に破綻を来しているという印象をつい持ってしまう。精神病質で反ユダヤ主義者のボビー・フィッシャー、異様な数の婦人靴に囲まれ風呂で息絶えていたポール・モーフィーなどチェスの歴史には変人が多いからだ。

だがカスパロフにおかしなところがあるとすれば、怖いぐらい集中力が強いことだろう。だが人によっては、彼のプーチンに対する激しい敵意を偏執狂の症状だという。



──西側は何をすべきか。

「まず(ロシアと対立する)ウクライナを武装させることだ」

──ロシアが(ウクライナ領だった)クリミア半島を併合したのは、本当にプーチン帝国主義の第一歩だと思うか。今までのロシアはEU(欧州連合)拡大で「領土」を奪われる一方だった。

「ヒトラーだって、領土を奪われたことはある」

──もしロシアが(旧ソ連から独立した)ラトビアかエストニアに侵攻したらNATO(北大西洋条約機構)は動くと思うか。

「(ラトビア、エストニアはNATO加盟国なので)他に選択肢はないだろう。もしもプーチンがNATO領内で小さな騒乱でも起こせば、NATOは死んだも同然だ。それがプーチンの狙いでもある」

──大統領になりたい気持ちはまだあるか

「モスクワに戻って立候補するには、多くのことが変わっていなければ無理だ。2007年には拘留されても3日がせいぜいだった。今は5年だ」

ロバート・チャルマーズ

この記事の関連ニュース