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ミレニアルズ世代が熱狂する「カスタマイズ」とは何か

ニューズウィーク日本版 2015年7月1日 19時0分

 2006年、スノーボードのインストラクターで健康オタクの母親と息子が立ち上げたカスタムメイド・プロテインバー・ブランド「YouBar(ユーバー)」。「あなたのための完璧なプロテインバーを届けたい」というコンセプトで創業し、アメリカはロサンゼルスの工場で顧客1人1人が求めるプロテインバーを製造しています。

 そして、素材も味も栄養も自分好みに作れる「YouBar」のCEOを務めるのがAnthony Flynn(アンソニー・フリン)氏です。今回、カスタマイズプラスマガジンでは幸運にもアンソニー氏にインタビューの機会を得ることができました。

 アンソニー氏の勢いはYouBarの創業に収まらず、「カスタムメイド・プロテインバー・ビジネス」を通じた自身の体験をもとに、アメリカの大量生産から特注量産への時代のシフトを描いた一冊"CUSTOM NATION(カスタム ネーション)"(邦訳『カスタマイズ 【特注】をビジネスにする新戦略』)を出版。著者として2012年のニューヨークタイムズ・ベストセラーに輝き、アメリカでは「カスタマイゼーション」の先駆者の一人としてコンサルティング、講演など、活動の幅を広げています。

 日本では「カスタムメイド・プロテインバー(オーダーメイド・プロテインバー)」という言葉自体まだ聞きなれないものかもしれません。しかし、アメリカを中心に YouBarをはじめとした「私たちが買うものすべてが個人の好きなようにカスタマイズされる/カスタマイズできる」という"波"は確実に広まってきています。

 カスタムメイド・プロテインバー・ブランドのCEOとして、ニューヨークタイムズ・ベストセラーの著者として、「21世紀のカスタマイゼーション」の先頭を走るアンソニー氏へのインタビュー、ぜひお楽しみください。

――YouBarについて紹介をお願いします。

 YouBar(ユーバー)は、ロサンゼルス発のカスタムメイド・プロテインバー・ブランドです。遡ること2006年、私と私の母の2人で立ち上げた会社で、例えばアレルギーをお持ちの人、また健康意識が高い人のため、1人1人異なるニーズにあわせたプロテインバーを製造しています。

 今年で9年目になりますが、現在は8,000平方フィートの自社工場(約225坪)に30名の従業員を抱え、1日に10,000本のカスタム・プロテインバーを製造できるまでの規模へ成長しています。

――起業のきっかけはどのようなものでしたか?

 2006年の冬、USC(南カリフォルニア大学)の経営学部を卒業したばかりの私は、自分のこれからを考えながら、まずは母と一緒にスノーボードのインストラクターを始めることにしました(母は1998年からインストラクターを務めているベテラン)。スノーボードのインストラクターを務めるにあたり、雪山と自宅を運転しながら、車内でよく「栄養」の話をするのが私たちの日課でした。

 というのも、私たち親子はいわゆる「健康オタク」で、2人になるとその話題でもちきり。そんな健康オタクの私たちがいつも繰り返し話をしてしまう「ある食べ物」がありました。そうです、それが「プロテインバー(シリアルバー)」でした。

 スノーボードのインストラクターをしている私たちは、生徒へ教えている時も、自分たちで滑っている時も、中断をしてまで昼食をとることをめんどうくさく感じていました。なので、他のアスリートの方もそうするように、持ち運びのできるプロテインバーを昼食代わりにするのを好んでいました。しかし、そこで問題があったのです。当時、私たちが購入していたプロテインバーはどれも、ブドウ糖果糖液糖、保存料など、いわゆる体に悪い添加物が多く含まれていました。

「なぜ、誰も完璧なプロテインバーを作らないんだろう?」という疑問が浮かび、そういえば「完璧なプロテインバーとは何だろう?」と話し始めるうちに、1つ問題が浮き彫りになりました。それは、一言に私たちが思い浮かぶ「完璧なプロテインバー」といっても、母と私が求めるプロテインバーは全く違っていたことです。

 成分でいえば、私はタンパク質と脂質が多いものを、母はタンパク質は少なめで糖質の少ないものを求めていました。もちろん、味の好みも異なりました。私はピーナッツバター味が嫌いでしたが、母はその味が好きでした。

 このようなことがわかってから、私たちは「完璧なプロテインバー」という考えからは脱却し、私たちにとっての「完璧なプロテインバー」を手作りすることからスタートしました。私向けには、生のナツメヤシと生のアーモンド、母向けにはピーナッツバターとココアパウダー、ホエイプロテインもたっぷりいれました。

 すると、どうでしょう。大量生産された市販のプロテインバーを口にすることをやめて数週間のうちに、1つの現象が起きました。体調がよくなったんです。

 自分に合わない原材料を摂取しなくなったことで、私の体に色々と変化が起きました。マラソンのタイムは20分短縮し、スノーボードではキッカーで180(ワンエイティ:スノーボードのトリック)に成功し、スタミナも上昇しました。特にダイエットをしていたわけでもありませんでしたが、体重が20ポンド(約9キロ)も減りました。

 この変化は私だけではなく、母にも起きていました。そして、私たちはいつもの帰り道の車内で何ヶ月も口にしなかったが、確信をもちつつある「あのこと」について口を開きました。

 私はこう言いました。「私たちが求める完璧なプロテインバーは存在するんだね」。そう言う私に母は「その通りね」と返事をくれました。私たちは気付いたのです、「ひとりひとりが求める完璧は異なる」ということを。

 私は、すぐに母へこう伝えました。「完全カスタムメイドのプロテインバーを製造する会社を作ろう!」と。母はこう返事をしてくれました。「いいわね、やってみましょう。顧客1人1人が自由にオリジナルのプロテインバーを楽しめる会社を......。そう、まるで私たちが家で手作りして、食べるのを楽しみにしていた"あの"プロテインバーのようにね」



 そして、世界で初めて「顧客の1人1人が自分の好みにあったプロテインバーを作れる」ブランドとして、YouBarはスタートしました。"A Nutrition Bar Created by You, for You.(あなたが作る、あなただけのプロテインバー)"というキャッチコピーと共に。

――YouBarをスタートした当時(2006年頃)のエピソードは?

 YouBarをスタートさせた2006年当時、前述の通り、母と私の2人でビジネスをスタートさせましたので、カスタムメイドのプロテインバー作り、セールス、商品の発送、カスタマーサポートなど、YouBarのアイデア、ビジネスを進めるためにすべてのことを2人で行っていました。

 今では30名の従業員を抱える規模まで成長することができましたが、振り返ると毎日あれもこれも、としなければいけないことが山積みされた毎日を過ごしていたのを覚えています。

――YouBarというネーミングの由来は? またもし、何かロゴに込めたメッセージがあれば紹介をお願いします。



 とりたてて、YouBarというネーミングの背景に秘密のメッセージ......はないのですが、シンプルに「あなたのために、あなただけのプロテインバーを届けたい」という想いから、「YouBar」というネーミングに決めました。

――今、振り返ってみてYouBarのアイデアとビジネスを継続させるにあたり、最も困難だった出来事は何でしたか?

 私がYouBarを始めた当初、そもそも顧客たちは「自分が食べるもの(プロテインバー)をカスタマイズする」ということ自体に慣れていませんでした。なので、「顧客1人1人に、自分自身の好みに基づいたプロテインバーを注文できることの"価値"を説明し、理解を得る」ことが、当時最大の課題でした。

 商品を営業することも非常に大事でしたが、それ以前に私たちは、自分が好きな材料を選べること、自分が求める栄養成分を選べること、そして、自分が求める味を選べることの価値を顧客1人1人に伝え、その良さを知ってもらう必要があったのです。

 しかし、それは約10年前の話で、当時の私たちの顧客層はいわゆる「ベイビーブーマー世代」(1946年〜1964年に生まれた世代)でした。つまり、ベイビーブーマー世代にカスタマイズ商品を販売するためには、カスタマイズに慣れていない彼らに、その良さを説明する必要があったのです。

 それが今や、アメリカで最も購買意欲の高い世代は、「ミレニアルズ世代」(1978~2000年に生まれた世代)で、彼らはカスタマイズをすること、できることを当たり前に感じています。

 彼らは、自分好みの音楽が流れるカスタムラジオ「パンドラ」を使い、自分好みのニュースが読めるように「Facebook」を使い、自分好みの靴が作れる「NIKE iD」を使い、自分好みのキャンディーが食べられるように「My M&M's」を使います。そして、もちろん自分好みのプロテインバー、「YouBar」もね!

――"CUSTOM NATION(カスタム ネーション)"を出版されてから約3年立ちますが、著者として出版前と出版後の読者や周りの変化をどう感じていますか?

 2012年に"CUSTOM NATION"が出版されて以降、私は講演やコンサルティングの機会が多くなるのですが、そこで感じたことはひとつです。「皆、カスタマイゼーションについて話し始めている」と。私は、MIT、UC Berkeley、USC、その他講演などに呼ばれましたが、皆がこぞって聞きたいことは「YouBarとカスタマイゼーションについて」でした。

――ニューヨークタイムズ・ベストセラーに輝いた"CUSTOM NATION"。著者としての見所はどこでしょうか?


 どのチャプターも熟読頂きたいのですが、著者としてあえて一つ挙げるとすれば、前述でも触れた「ミレニアルズ世代」の存在でしょう。

 彼らは、ザズルやカフェプレスのサービスで服をカスタマイズし、NIKE iDで靴をカスタマイズし、Facebookを駆使してニュースフィードをカスタマイズし、Pandoraを使ってラジオをカスタマイズする。それらの行為自体が、彼らの感覚にとっては"当たり前"なのです。

 そして、この当たり前の感覚こそが、ベイビーブーマー世代にない着目すべき点なのです。

 大事なので2度言いますが、ミレニアルズ世代は今やアメリカで最も人口の多い世代で、彼らの購買意欲は年々上昇しており、この世代の動向や咆哮を見逃してはいけない、と考えています。

――あなたが考える「カスタマイズの楽しさ」とは?

 顧客1人1人、自分が本当に欲しい物をデザインし、注文できること。シンプルですが、それがカスタマイズの魅力です。

――日本から注文することはできますか?

 残念ながら、現在は海外発送サービスは対応していないため、日本在住の方へのダイレクト発送はできません(発送先の対象は、米国国内のみ)。

 もし、日本からYouBarを購入希望される場合は、「アメリカの住所」が必要になりますので、shipito.com(*)などのサービスを利用し、個人で輸入するという方法になります。

(*shipito.comはアメリカの代行転送サービス。shipito.comを利用すれば、米国の住所を発行してもらうことができ、海外発送サービスに対応していない店舗からでも、店舗~shipito.com~購入者という流れで商品を購入することが可能。日本から個人で注文する場合は、YouBarへ個人でネット注文をし、YouBarの届け先をshipito.comで発行された米国内の住所へ指定し、商品が指定先へ届けられ、その後、shipito.comから商品が自分の手元へ届けてもらう、という流れ)

――どのような人がYouBarを愛用していますか?

 健康への意識が高い方が多いですね。例えばダイエットをしたい方、アスリートの方、特にトレーニング後の効率的な栄養補給の目的で購入をされる方など、多種多様です。著名人では、ファーギー、TLC、ジャバウォーキーズ、アン・ヴォーグ、そしてランディ・ジャクソンなどのセレブの方々にもYouBarを食べて頂いています。

――2008年、YouBarへの大量の注文による高額入金を確認するためにPaypalからかかってきた一本の電話、2012年の"CUSTOM NATION"の出版、この数年YouBarを振り返って、どのような気持ちでしょうか?

 遡ること2008年の2月、私たちの知名度は文字通り「爆発」しました。New York Times、ABC、Fox、Good Morning America, Daily Candyなど大手メディアがYouBarを一斉に取り上げました。

 日々の取材やニュースのおかげで、新規で何千通ものオーダーメールが入りましたが、あまりにも注文が殺到したため、当時注文をした人へYouBarを届けるまでには約3ヵ月も待って頂かなければならない状態でした。当時の顧客には申し訳ない気持ちでしたが、顧客からの大量の注文を見て、この日から私の中にある自信が確信に変わりました。「ミレニアルズ世代は、カスタマイズを好んでいる」と。

――最後に2015年への情熱と2016年へのビジョンをお聞かせください。

 2015年は、より多くの人へ私たちの「カスタム・プロテインバー」を届けることに最大の情熱を注ぎます。また、私は「皆、それぞれの好みに合ったプロテインバー・ブランドを持つべきだ」と信じています。

 理由はもちろん、私たちは1人1人に合う食事をすることがベストだと考えているためです。私のイメージではプロテインバーだけではなく、「あなただけのフードブランド」のようなイメージで日々の食事にも自身のブランドを持つべきだと考えています。

 そして、私の2016年のビジョンは、YouBarのビジネスをより一歩拡大させることです。実は、この夏、新工場への移転を予定しています。YouBarの成長に伴い、工場の規模拡大が必要と判断し、着工を決断しました。新工場は2016年の初旬に設立予定ですので、この新工場のOPENを楽しみに2016年に向けYouBarを多くの人々へ届けていきます。

 これからのYouBarをぜひ、楽しみにしてくださいね!

※当記事はカスタマイズプラスマガジンの提供記事です





『カスタマイズ
【特注】をビジネスにする新戦略』
 アンソニー・フリン/エミリー・フリン・ヴェンキャット 共著
 和田美樹 訳 

カスタマイズプラスマガジン

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