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ヒラリーもサンドバーグも「男より弱気」は本当か?

ニューズウィーク日本版 2015年7月8日 18時0分

 あなたの周りに、優秀なのになぜかいつも弱気な女性はいないだろうか。逆に、能力が足りないのに自信たっぷりの男性は? アメリカでは昨年、男女間の「自信の格差」をめぐって論争が巻き起こった。

 きっかけは、アトランティック誌の5月号に掲載された"The Confidence Gap"(自信の格差)という記事だ。BBCリポーターのキャティー・ケイとABC特派員のクレア・シップマンが共同で執筆したもので、成功している女性への取材と、心理学や脳科学の研究成果から、女性と自信の関係をつまびらかにしている。

 フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグや、現在アメリカ初の女性大統領を目指しているヒラリー・クリントン、ドイツ首相のアンゲラ・メルケルに、IMF(国際通貨基金)の専務理事クリスティーヌ・ラガルド......。これら一見成功している女性たちでも、実は自信がなく、不安でいっぱいなのだという。

 遺伝子検査の結果まで引用し、「女性は男性に比べて自信をもてない」と結論づけた記事に対し、感情的な反発(「いや、むしろ女性のほうが強気じゃないか!」)があった一方、女性からは共感の声も多く聞かれた。「そもそも、職場での女性の地位が低いから自信がもてないだけでは?」といった意見もあった。

 なぜ、このような「自信の格差」が生まれるのか。アトランティック誌の記事は、ケイとシップマンが共同執筆した書籍"The Confidence Code"の一部を抜粋したもの。自信の男女差を科学的に明らかにし、自信をもてるようになる方法を指南した同書は、その後、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー入りも果たしている。

 このほど邦訳版(『なぜ女は男のように自信をもてないのか』CCCメディアハウス)が刊行されたのを機に、男女のコミュニケーションが専門で『察しない男 説明しない女 男に通じる話し方 女に伝わる話し方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)が22万部のベストセラーとなっている心理カウンセラーの五百田達成(いおた・たつなり)氏と、本書の翻訳者である田坂苑子氏に、日米の自信の違いや日本ならではの"自信事情"などを聞いた。

――アメリカの自信論争を見て、どのように感じたか(論争は日本の一部メディアでも紹介され、話題になった)。


田坂 記事が掲載された当時、勤務先の同僚の男性に「(仕事に対して)そんなに卑屈にならなくていいんじゃないの?」と言われたことがありました。

 私自身、謙虚に仕事に向き合っていたつもりでも、男性からはそんなふうに見られていたことに衝撃を受けたんです。そんなときにこの自信論争の記事を読んで驚きました。「私と同じように感じる女性がアメリカにもいるのか」と。

五百田 この本について、友人知人に話をすると、「それは本当にアメリカの話?」と聞き返されることが多かったんです。日本人から見ると、アメリカ人の多くは強い自信をもっているように見える、というのが大方の意見だと思います。

 僕も以前はそのように感じていましたが、自信論争の記事を読んだときに、仕事に対する女性の苦悩はアメリカもまったく同じだなと思いました。

自信の男女差 本を題材に語り合う心理カウンセラーの五百田達成氏(左)と翻訳者の田坂苑子氏

――心理カウンセラーから見て、やはり自信のない女性は多い?

五百田 キャリアカウンセリングをする中で、女性たちと話をしていると、「自信がない」という声は大変多いです。

「そもそも自信とは何か」という疑問に本書は答えてくれています。自信は、精神的安定や幸福にとって必要なだけでなく、行動、そして決断まで網羅するものだと。ただ、「自信」といっしょくたにしてしまいがちだけど、カウンセリング用語にも「自己効力」というものがあり、これまで私は、イコール自信だと解釈していました。自己効力を高めるためには、「どんどん行動して失敗して、自信をつけよう」などとアドバイスしていたものです。

 ニュアンスの違うポジティブな性質をもつ言葉があることを指摘している点は、カウンセラーとして非常に参考になりました。

 たとえば「自尊感情」は、自分は愛すべき存在で、人間として価値があると信じさせてくれるもの。「楽観主義」は、物事に対する自分の見方・解釈の問題。「自慈心」は、自分に対して優しくあろうという考え方。「自己効力感」は、ある事柄を成し遂げる能力があると思える信念のことで、「習得できる楽観主義」とも言えるそうです。

 この日本社会において、女性は自信を身につけにくい環境にあります。21世紀になっても相変わらず、会社では男性は我がもの顔で歩き、女性ははじっこを歩かされる中で一生懸命に働く。働き過ぎてメンタルを崩したり、弱っているところをタチの悪い男性につけこまれたり......という悪い循環にはまっていく人が多い。

 男性が思っているよりずっと、女性は自信をもてない環境にあるのです。

――では、男性は自信をもっていると言える?

五百田 男性は単に、自信がなくても、自信があるように振る舞うことに慣れているのでしょう。

 さらにいえば、失敗することにも慣れているので自信がつきやすい。これは、本書でも触れられていますが、「幼少期の失敗経験」は女性より男性のほうが多い。

 たとえば、小学校の掃除の時間の光景。延々とほうきで野球をしている男子と、それを叱る女子と先生の構図が思い出されます。女子は早くから空気を読んで優等生に振る舞おうとするけれど、男子は無邪気にトライ&エラーを繰り返すなかで失敗や挫折に慣れていく......。ともすると幼稚と思われがちな男性の資質が、いいほうに働くこともあるのです。

田坂 小学生だったらほほえましいですが、それを仕事でもやられるとちょっと......と思いますね(笑)。しかしながら、女性は失敗経験が少ない分、「自信をもつためにはバカで鈍感にならなければいけない」という思い込みがあって、それがチャレンジの機会を減らしてしまっている。

 どちらがいい悪いではありませんが、女性が自信を身につけていくとしたら、失敗は悪いことではなく、自信を身につけるための一歩だと考えることが重要なのではないでしょうか。

※自信のない人は「私たちは~」と言えばいい:対談後編はこちら



『なぜ女は男のように自信をもてないのか』
 キャティ―・ケイ&クレア・シップマン 著
 田坂苑子 訳

ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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