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イラン核協議、合意できても履行はもっと困難

ニューズウィーク日本版 2015年7月8日 20時2分

 ウィーンで行われているイラン核協議は、交渉期限が7月10日に延長されてギリギリの攻防が続いている。欧米諸国は、イランの核開発を止めるために核施設への査察などを求め、イランは経済制裁の解除を求めている。だが、仮に合意に達したとしてもそれでめでたく終わりにはならないかもしれない。

 まず考えられるのは、米共和党の反発。とくに2016年大統領選に名乗りを挙げている候補者からは、非難の大合唱が起こるだろう。イランの核開発に対する監視が甘いとして、早くも合意の取り消しに言及したり、内容を大幅に後退させると公言する候補者もいる。

「私が大統領に選出されたら、就任初日の2017年1月20日に、イランとの合意を撤回する」と共和党候補の1人、ウィスコンシン州知事のスコット・ウォーカーは先週ラジオで語った。

 元フロリダ州知事の有力候補ジェブ・ブッシュも、ウォーカーほどではないが批判を強めている。

 保守系ウェブサイトに寄せた署名記事の中でブッシュは、「根本的に欠陥のある核合意によるダメージを修復するのは容易ではない」が、それでも合意の見直しは「アメリカの安全保障にとって不可欠だ」と主張した。

 現実には、新大統領が就任後すぐに合意を撤回するような確率は低い。一度締結した国際合意をひっくり返せば、外交上、財政上、そして安全保障上の痛手が大きいからだ。仮に本当に共和党の大統領が誕生したとしても、それは不可能だろう。

合意文書に明記されないグレーゾーンも多い

 核合意の行方を左右するもう1つの勢力は、もちろんイランだ。

 歴代大統領の顧問を務めたワシントン中近東政策研究所のデニス・ロスによれば、イランはこれまで、国際社会の限界を試すような挑発を何度も行ってきた。核問題については特にそうだ。

 合意ができても、いつどんな方法でイランが限界を試してくるかわからない。イランが愚かでなければ、アメリカで新政権が発足してしばらくは挑発的なことはしてこないだろうと、ロスは言う。合意の履行が始まって1年も経てば、いくら共和党でも合意をぶち壊そうとはしないと思わくなる、そこがイランの狙い目だ。

 正念場は、初期段階を過ぎた頃に訪れるかもしれない。その頃には新たな対立が浮上してくる可能性も高いからだ。

 そもそも核合意の履行は、技術的な付属文書、査察の要件、科学研究や貿易の制限などを伴うため、複雑になるのが常だ。合意文書に明確に記されないグレーゾーンも多い。交渉と同じかそれ以上に履行は難しいと、専門家は口をそろえる。

 しかも米イラン関係には、核問題とはまったく別の政治的な力学も作用する。イランのテロ支援だ。核交渉の場では言及されていないが、合意の履行にあたって浮上する可能性がある。

 この点は、大統領選の焦点の1つになるかもしれない。核合意の「違反が発覚し、理屈と主張が飛び交う事態になったとき、どう対処するかがカギになる」と、シンクタンク「新米国安全保障センター」で中東安全保障プログラム・ディレクターを務めるイラン・ゴールデンバーグは予測する。次の大統領が「合意の履行に積極的でない場合、その後の展開は大きく変わるだろう」。


エミリー・カデイ

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