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自信のない人は「私たちは~」と言えばいい

ニューズウィーク日本版 2015年7月9日 16時50分

 成功している女性への取材と、心理学や脳科学の研究成果から、2人の女性ジャーナリストが「女性は男性に比べて自信をもてない」と結論づけた"The Confidence Code"は、アメリカで論争を巻き起こした。

 同書は自信の男女差を明らかにし、弱気の人でも自信をもてるようになる方法を指南したもの。ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー入りも果たしている。

 このたび邦訳版『なぜ女は男のように自信をもてないのか』の刊行を機に、男女のコミュニケーションが専門の心理カウンセラー、五百田達成(いおた・たつなり)氏と、本書の翻訳者である田坂苑子氏が対談。本書の魅力や、女性が自信を身につける方法、日本ならではの"自信事情"などを語り合った。

 女性の社会的地位に自信はどう関係しているのか、遺伝が自信に関係しているならどうやって自信を身につければいいのか......。対談の後編をお送りする。

※ヒラリーもサンドバーグも「男より弱気」は本当か?:対談前編はこちら

――女性は昇進したがらない、とよく言われ、これも自信に関係がありそうだが。

田坂 本書の中でも、女性は「昇進する準備ができていない」と考え、昇進を躊躇するとありました。アメリカでも同じ状況にあるようです。

 一方、男性は「自分に昇進の声がかかるのは当然だ」と思えるのだそうです。このことは「ダニング=クルーガー効果(能力の低い人は、自分の無能さを認識できず、自己を実際よりも高く評価する、ひいては自信に満ちて見える)」と呼ばれ、認知バイアスに関する研究でも立証されています。

 また、同じ地位にある男女がいた場合、男性より女性のほうが能力が劣るのではないかと感じる人が男女それぞれで多いという調査結果があるそうで、男女ともに女性に対する目が厳しいというのも関係があるかもしれません。

五百田 日本の女性の場合、自信がないということに加え、「同じ女性の中で目立ちたくない」という横並び意識の強さが昇進を拒否する大きな要因に見えます。少しでも目立ってしまうと、「あの子は忙しそうだから......」と明日のランチに誘ってもらえなくなる。極力出る杭にならないように、空気を読んでしまうんですね。

田坂 この点は、本書では触れられていませんでした。日本特有の空気読みが女性を苦しめている部分はありそうです。

五百田 この本の著者たちが、「私たち」という一人称を使っていることは、ある意味象徴的です。「私」と書くより、「私たち」とすることで、スムーズに意見を言えるようになる。自分一人で立つことが苦手な女性にとって、「私たち」と表現することは、ライフハック的にも有用なんじゃないかと思います。

――本書では、シェリル・サンドバーグやヒラリー・クリントンなど、成功をしているように見える女性たちも、口々に自信のなさを著者に対して吐露している。

五百田 世界的に活躍する女性をロールモデルとして捉えられる人がどれくらいいるかという問題はあるにせよ、いわゆる"鉄人"のような女性たちが本の中で、「会議の前は準備しすぎるくらい準備をしないと不安になってしまう」と語る姿は、女性の共感を呼びそうですね。

田坂 はい、まさにこうした生の声に、私も実際に勇気づけられました。しかし、一方でそういった女性たちは遠い世界の話、と一般の女性たちは突き放してしまう可能性も考えられます。とくに日本女性にとってのロールモデルにはなりにくいかもしれません。

五百田 僕も、いわゆるスーパーウーマンばかりをもてはやす風潮に懐疑的です。仕事をバリバリやって、結婚も子育てもしっかりしなければ女性として認められないというのでは、女性自身を苦しめるのではないかと考えているからです。

 ですが、この本は、そうしたスーパーウーマンのリアルな素顔も描いているので、その人間味にほっとしたり、励みにしたりすることができそうです。

――自信の有無については遺伝的な要素もあると本書では述べているが、そうすると、あとから身につけられるものと考えられるだろうか。

田坂 遺伝子レベルで自信をもちやすい人ともちにくい人がいることは確かだそうです。ただ、解剖学的にも男女の脳の差異は11歳ごろには大きな隔たりができますが、18歳までに均等になるそうです。ですから、女性は理数系が苦手だとか、男性にはシェイクスピアを諦めるといった"刷りこみ"はもたないほうがいいと著者たちは言います。

 ある程度自信はコントロールできることも本書では強調されていますし、その方法も書かれています。たとえば、瞑想で脳を落ち着かせる、感謝の気持ちで幸福と楽観的な思考をつくる、物事は小さく分解して考える、よく寝て、よく動いて、わかちあう......。こういったことを提案してくれています。

五百田 繰り返しになりますが、主語を「私」から「私たち」に変えるだけで、女性は自信をもって話すことができます。

 女性は、自分自身の価値を高めること以上に、同僚や会社のために動くほうが驚くほど自信を得られる、という研究もあるほど。自分自身のためではなく、チームや組織、他人の利益のために行動していると自分に言い聞かせることは、自信を高める方法としては即効性があるかもしれませんね。


『なぜ女は男のように自信をもてないのか』
 キャティ―・ケイ&クレア・シップマン 著
 田坂苑子 訳


ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

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