航空会社の幹部らはしばらく前から、奇妙な現象に首をひねってきた。出発ターミナルで人気の飲み物といえばコーラだし、スターバックスの行列も絶えない。だが機内サービスでは、普段はそれほど好まれることもないトマトジュースが一番人気なのだ。ドイツのルフトハンザ航空では毎年、ビールと同じくらいのトマトジュースが機内サービスで提供されている。
多くの科学者が長年、その理由の解明を試みてきた。ある研究によれば、味の感じ方は食べ物や飲み物に関係する複数の感覚だけでなく、周囲の環境にも左右されるという。「機内は非日常的な環境で、人々はしばしば85デシベル以上の騒音の中で飲食をしている」と、実験心理学の専門誌に3月に発表された論文は指摘する。高デシベルの音は「うま味」を味わう感覚を研ぎ澄ますという。
研究を行ったコーネル大学食品科学学部のチームは、民間航空機に乗ったときの聴覚経験を再現。男性11人と女性37人(18〜55歳)の被験者に甘味、塩味、酸味、苦味とうま味の5つの味覚を代表するサンプル食品を液体状にしたものを提供した。被験者は5種類の液体を、濃度を変えながら、機内と同じ騒音が聞こえるヘッドホンを着けた状態と外した状態で味わった。
その結果、「同じ濃度でも騒々しい環境で提供された液体のほうがうま味を強く感じ、濃い液体ではその傾向がさらに強まった」と言う。つまり「空の旅での聴覚状態は、うま味をさらに強く感じさせる可能性があることが判明した」わけだ。
うま味を豊富に含む食品には海藻やタラ、豚肉、醤油、マッシュルーム、パルメザンチーズ、それにトマトがある。これが機内でトマトジュースの人気が高いことの説明になりそうだと、コーネル大学の研究者たちは主張している。
一方、機内で味覚が変わるのには別の生物学的要因があると指摘する声もある。人の身体機能は、高度1万㍍以上にいると少し変化する。高い場所では脳に運ばれる酸素量が減り、その状態に完全に順応するまで感覚がちょっと鈍くなる。
しかも気圧の変化は鼻腔を膨張させ、これが味覚とつながりのある嗅覚を制限。多くの食べ物の味を感じにくくなる。この鈍った味覚を補うために、空の上ではより強くて、刺激のある風味が欲しくなるのかもしれない。トマトジュースのように。
[2015.7. 7号掲載]
ジェシカ・ファーガー
多くの科学者が長年、その理由の解明を試みてきた。ある研究によれば、味の感じ方は食べ物や飲み物に関係する複数の感覚だけでなく、周囲の環境にも左右されるという。「機内は非日常的な環境で、人々はしばしば85デシベル以上の騒音の中で飲食をしている」と、実験心理学の専門誌に3月に発表された論文は指摘する。高デシベルの音は「うま味」を味わう感覚を研ぎ澄ますという。
研究を行ったコーネル大学食品科学学部のチームは、民間航空機に乗ったときの聴覚経験を再現。男性11人と女性37人(18〜55歳)の被験者に甘味、塩味、酸味、苦味とうま味の5つの味覚を代表するサンプル食品を液体状にしたものを提供した。被験者は5種類の液体を、濃度を変えながら、機内と同じ騒音が聞こえるヘッドホンを着けた状態と外した状態で味わった。
その結果、「同じ濃度でも騒々しい環境で提供された液体のほうがうま味を強く感じ、濃い液体ではその傾向がさらに強まった」と言う。つまり「空の旅での聴覚状態は、うま味をさらに強く感じさせる可能性があることが判明した」わけだ。
うま味を豊富に含む食品には海藻やタラ、豚肉、醤油、マッシュルーム、パルメザンチーズ、それにトマトがある。これが機内でトマトジュースの人気が高いことの説明になりそうだと、コーネル大学の研究者たちは主張している。
一方、機内で味覚が変わるのには別の生物学的要因があると指摘する声もある。人の身体機能は、高度1万㍍以上にいると少し変化する。高い場所では脳に運ばれる酸素量が減り、その状態に完全に順応するまで感覚がちょっと鈍くなる。
しかも気圧の変化は鼻腔を膨張させ、これが味覚とつながりのある嗅覚を制限。多くの食べ物の味を感じにくくなる。この鈍った味覚を補うために、空の上ではより強くて、刺激のある風味が欲しくなるのかもしれない。トマトジュースのように。
[2015.7. 7号掲載]
ジェシカ・ファーガー