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こんな人は、モン・サン=ミシェルに行ってはいけない

ニューズウィーク日本版 2015年7月24日 21時10分

 高いお金をはたいて、長時間の移動に耐えて、やっとたどり着いた旅先で「え? たったこれだけ!?」とガッカリした経験はないだろうか? それは世界遺産も同じ。「世界遺産は、素晴らしい観光地にあらず」と、世界60カ国以上、185件もの世界遺産に足を運んだ花霞和彦氏は言う。

 旅行の猛者である花霞氏が著した『行ってはいけない世界遺産』(CCCメディアハウス)は、「見どころ」と「コストパフォーマンス」をもとに世界遺産をぶった切った、これまでになかったガイドブック。20件の世界遺産を徹底検証し、本当に行く価値があるのか、値段と時間と労力に見合うのかを教えてくれる。

 ここでは、その中から「ご当地グルメに目がない人は行ってはいけない モン・サン=ミシェル」を抜粋・掲載する。


『行ってはいけない世界遺産』
 花霞和彦 著
 CCCメディアハウス

◇ ◇ ◇

「西洋の驚異」と呼ばれる島

 モン・サン=ミシェルはノルマンディー地方南部、サン・マロ湾上に浮かぶ小島で、そこにそびえ立つ修道院もまた同じ名が付けられています。708年、地元の司教が「この地に聖堂を建てよ」という大天使ミカエルからのお告げを受けて礼拝堂を造ったことが、「聖ミカエルの山(モン・サン=ミシェル)」の由来です。

 サン・マロ湾はヨーロッパでも潮の干満がもっとも激しい場所として知られていて、その差は15メートル以上にも及びます。このため、かつてのモン・サン=ミシェルは満潮時には海に浮かび、干潮時に地続きとなる自然の橋が現れ、歩いて渡れるようになっていました。

 この激しい干満の差により、一気に押し寄せる潮に呑まれる巡礼者も多く、「モン・サン=ミシェルに行くなら遺書を置いていけ」という言い伝えが残っているほどの難所でもありました。1877年に対岸との間を埋め立てて道路が作られましたが、環境の変化が危惧され、現在では潮の流れを変えることのないよう橋が架けられています。

堪能するなら現地で一泊

 モン・サン=ミシェルはパリから遠いので、日帰りバスツアーで訪れる旅行者が多いようです。しかし多くの日帰りツアーでは、昼間のモン・サン=ミシェルしか見ることができません。トワイライトから闇夜に浮かぶ幻想的なシルエット、朝日を浴びる姿まで、せっかく行くからには様々な表情が見たい! と思ったワタクシは、現地で1泊することに決めました。

 パリ・モンパルナス駅からレンヌ駅まで、フランス高速鉄道TGVで約3時間。そこからモン・サン=ミシェル行きのバスを使って、さらに1時間半ほどで目的地に到着します。

 島内にもホテルはありますが、ワタクシは心ゆくまで全貌を堪能すべく、奮発して、内陸側に建つ四つ星ホテルを選びました。湾に面したホテルは、バルコニーからモン・サン=ミシェルが一望できるという触れ込みでしたが、それは一部のお高い部屋に限るようで、ワタクシの部屋のバルコニーは、ほとんど雑木林に立ち塞がられ、草木の脇から申し訳程度に見えるだけでした。

特等席は、バス乗り場

 ホテルからモン・サン=ミシェルまでは約2キロ。歩いても行けますが、無料バスも巡回しています。実のところ、このバス乗り場から見るモン・サン=ミシェルが最も美しく、おまけに一切お金のかからない最高のビュー・ポイントだと思いました。

 島内に入ると、修道院までのメインストリートにはレストランやホテル、土産物屋が立ち並んでいます。その先には急な階段があり、それを登ると、修道院の入口が現れます。修道院は、主にゴシック様式ですが、内部は中世のさまざまな建築様式が混ざり合っており、数世紀に及ぶ増築と、戦争による軍事施設化などの歴史が感じられます。

モン・サン=ミシェル修道院の内部は、寂しげでがらんどう。写真で見るよりも気が滅入る Gerard Koudenburg/Shutterstock

 中を歩いてみると「本当に現役の修道院?」と思えるほどガランドウで、いまひとつ見応えに欠けます。ここでのハイライトは、中庭を囲む回廊ではないでしょうか。明るく開放的で美しい回廊は、薄暗い修道院の中とは対照的に、気分を晴らしてくれます。

名物にうまいものなし?

 観光地に行けば、ご当地グルメを楽しみたいもの。モン・サン=ミシェルでは、プレサレ羊とオムレツが有名です。満潮にさらされて塩分を多く含んだ草を食べた羊は、ひと味違うらしいのですが、羊肉が苦手なワタクシは、オムレツを楽しむことにしました。その昔、はるばるやってきた巡礼者に精をつけてもらうため、当時貴重な卵を使って作ったのが始まりだとか。

 発祥の店だという有名店が、島の入口「王の門」のすぐ近くにありますが、この店でオムレツを頼むことはオススメしません。なぜなら、卵3個程度のオムレツが50ユーロ(!)近くもするからです。それに、ここはフランス。水だって有料で、チップも合わせれば、シメて1万円!

これが...オススメできないオムレツ

 それでも美味しければ、なんとか正当化できますが、お世辞にも美味しいとは言えません。多少の塩・こしょうは入っているかもしれませんが、一般的な日本人には無味に感じられます。

 結論としては、モン・サン=ミシェルは、対岸のバス乗り場から眺めるシルエットがクライマックスであります。でも、せっかくなので島内に入り、修道院も見学しましょう。しかし、有名店のオムレツには注意してください。どうしても名物オムレツを食べたいなら、もっと良心的な価格の店に入ること。15ユーロほどで、やはり味なしのオムレツにありつけます。あるいは、オムレツ・ランチが組み込まれているバスツアーを利用するのも手です。

[旅のアドバイス]
ギリシャにも一風変わった修道院があります。世界遺産「メテオラ」は、またの名を「空中の修道院」。世俗を断ち切ったストイックな修道士たちが、切り立つ岩山の上に建てた修道院群で、以前は縄で引き揚げてもらうか、ハシゴでしか往来ができませんでした。今でも修道士、修道女たちが生活し祈りを捧げていますが、整備された道路は大型バスも通れるようになり、麓から修道院まで容易に行けるので、観光するのに問題はありません。

[DATA]
遺跡名称:モン‐サン‐ミシェルとその湾
遺産種別:文化遺産
登録年:1979
登録基準:(ⅰ)(ⅲ)(ⅵ)

[アクセス]
成田...飛行機12 時間半...パリ/シャルル・ド・ゴール...バス1時間...モンパルナス駅... 電車(TGV)3 時間...レンヌ駅...バス1時間半...バスターミナル...シャトルバス10 分...モン・サン=ミシェル

[日程&費用]
4泊5日/だいたい20万円くらい

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