高いお金をはたいて、長時間の移動に耐えて、やっとたどり着いた旅先で「え? たったこれだけ!?」とガッカリした経験はないだろうか? それは世界遺産も同じ。「世界遺産は、素晴らしい観光地にあらず」と、世界60カ国以上、185件もの世界遺産に足を運んだ花霞和彦氏は言う。
旅行の猛者である花霞氏が著した『行ってはいけない世界遺産』(CCCメディアハウス)は、「見どころ」と「コストパフォーマンス」をもとに世界遺産をぶった切った、これまでになかったガイドブック。20件の世界遺産を徹底検証し、本当に行く価値があるのか、値段と時間と労力に見合うのかを教えてくれる。
第1回の「ご当地グルメに目がない人は行ってはいけない モン・サン=ミシェル」に引き続き、ここでは「熱海観光の後に行ってはいけない アマルフィ海岸」を抜粋・掲載する。
『行ってはいけない世界遺産』
花霞和彦 著
CCCメディアハウス
抜粋第1回「こんな人は、モン・サン=ミシェルに行ってはいけない」はこちら
◇ ◇ ◇
元海洋国家のリゾート地
アマルフィ海岸はナポリの南東に位置し、ソレント半島の南岸、サレルノ湾に面した海岸で、「世界で一番美しい海岸線」と言われています。中心都市アマルフィは、中世にナポリ公国から独立し、アマルフィ公国(共和国)となった歴史があります。地中海貿易の先駆者であり、初めて海商法を整備したこの国は、イタリアにおける商業の中心地として隆盛を極めました。
そんな海洋大国も、現在は高級リゾート地として有名です。急勾配の斜面に張り付くように広がる街には、迷路のように階段や道が張り巡らされ、整備された近代都市とは違って歴史を感じさせてくれます。
アマルフィという地名は、ギリシア神話の英雄ヘラクレスが愛した精霊の名に由来しています。ある日、突然死んでしまった精霊。それを嘆いたヘラクレスが世界で最も美しいこの土地に彼女を葬り、その名を付けた、とされています。
実は、元々ここに行くつもりはありませんでした。ナポリで観光を楽しんだワタクシは、「青の洞窟」(世界遺産ではありません)を見るためにカプリ島に渡りました。神秘的に輝く静謐な美しさを堪能し、ナポリに帰るフェリーチケットを購入しようとしたところ、ソレント行きのフェリーを発見、思わず乗船したのです。アマルフィへは、ソレントからバスで約2時間。青の洞窟のついでに行けるなら好都合、なんて思ってしまったのが事の発端でした(ちなみに、ナポリからソレントへは電車でも行けます)
世界で一番美しい海岸?
アマルフィの中心に着くと、砂浜はすぐ近くです。といっても、砂浜は猫の額ほどしかありません。この半島にあるビーチは、どこもかしこも小さいものばかり。こんな小さなビーチでは満足できません。
ビーチのすぐそばまで迫る山の斜面には、家々が立ち並んでいます。弧を描くビーチを見下ろす家並みが、きっと美しい海岸といわれている所以なのでしょうが、ワタクシは思ったのです――熱海にそっくりだ、と。そうです、伊豆半島の由緒ある観光地、あの熱海です。後ろは山で目の前は海。斜面に強引に建てられた家々。洋風建築と和風建築の違いはあるにせよ、俯瞰で見れば、ほぼ一緒。大きな差があるようには思えません。
こちら、我らが日本の誇る熱海の風景。アマルフィといわれてもわからないのでは?
アマルフィの街に入るとすぐに、代表的な建造物であるアマルフィ大聖堂があります。イタリアにある他の大聖堂とは違い、さまざまな建築様式が混在した珍しい形をしています。教会好きな方や建築関係の方には一見の価値があるかもしれません。しかし、アマルフィ・ショックに打ちのめされたワタクシを奈落の底から救い出すには力不足です。
旅にコスパを求めるならば
アマルフィ海岸は世界遺産ですが、それよりも「世界一美しい海岸」として脚光を浴びています。それを聞く度に「本当か?」と疑問が浮かんでしまいます。だって、言ったのはヘラクレスですよ?もちろん、強い日差しに青い空と海、切り立った崖、立ち並ぶ建物......この景色を美しいと思ったって異は唱えません。ただ、この程度なら、わざわざイタリアに来なくても、熱海でよくないか? とも思ってしまうわけです。世界遺産を訪れる、ということ自体が目当てでない限り。
旅行には、お金も時間もかかります。できれば、かけたお金と時間に見合った感動を得たいものです。そういう意味でアマルフィは、あまりコストパフォーマンスが良いとはいえなかったのです。なにしろ、このあと再び2時間バスに揺られて、さらに電車で1時間。ナポリに戻ってきたときには、もう夜遅くでした。ちょっと魔がさしてイタリアの熱海に立ち寄っただけなのに......。日本の熱海なら、東京から新幹線で50分ですよ!
さて、こんな熱海チックなアマルフィですが、どうしても行きたいということならば、移動時間のことも考えると、アマルフィで1泊したほうが身体に優しいかと思われます。
[旅のアドバイス]
イタリアは最多の世界遺産を持つ国。「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂」「ヴェネツィアとその潟」「フィレンツェ歴史地区」の次には「ナポリ歴史地区」に行きがちですが早まってはいけません。東海岸側にある「マテーラの洞窟住居と岩窟教会公園」と「アルベロベッロのトゥルッリ」に行きましょう。渓谷の斜面を掘って作った洞窟住居群は圧巻だし、大聖堂など見所も多い。おとぎ話に出てきそうなトゥルッリ(円錐形の屋根を持つ家)からは、今にも妖精が出てきそうです。どちらも一部が宿泊施設になっています。
[DATA]
遺跡名称:アマルフィ海岸
遺産種別:文化遺産
登録年:1997
登録基準:(ⅱ)(ⅳ)(v)
[アクセス]
成田...飛行機13 時間...ローマ...電車3 時間...ナポリ...船75 分...カプリ島...船20 分...ソレント...バス2時間...アマルフィ
[日程&費用]
4泊5日/ 20万円で十分
旅行の猛者である花霞氏が著した『行ってはいけない世界遺産』(CCCメディアハウス)は、「見どころ」と「コストパフォーマンス」をもとに世界遺産をぶった切った、これまでになかったガイドブック。20件の世界遺産を徹底検証し、本当に行く価値があるのか、値段と時間と労力に見合うのかを教えてくれる。
第1回の「ご当地グルメに目がない人は行ってはいけない モン・サン=ミシェル」に引き続き、ここでは「熱海観光の後に行ってはいけない アマルフィ海岸」を抜粋・掲載する。
『行ってはいけない世界遺産』
花霞和彦 著
CCCメディアハウス
抜粋第1回「こんな人は、モン・サン=ミシェルに行ってはいけない」はこちら
◇ ◇ ◇
元海洋国家のリゾート地
アマルフィ海岸はナポリの南東に位置し、ソレント半島の南岸、サレルノ湾に面した海岸で、「世界で一番美しい海岸線」と言われています。中心都市アマルフィは、中世にナポリ公国から独立し、アマルフィ公国(共和国)となった歴史があります。地中海貿易の先駆者であり、初めて海商法を整備したこの国は、イタリアにおける商業の中心地として隆盛を極めました。
そんな海洋大国も、現在は高級リゾート地として有名です。急勾配の斜面に張り付くように広がる街には、迷路のように階段や道が張り巡らされ、整備された近代都市とは違って歴史を感じさせてくれます。
アマルフィという地名は、ギリシア神話の英雄ヘラクレスが愛した精霊の名に由来しています。ある日、突然死んでしまった精霊。それを嘆いたヘラクレスが世界で最も美しいこの土地に彼女を葬り、その名を付けた、とされています。
実は、元々ここに行くつもりはありませんでした。ナポリで観光を楽しんだワタクシは、「青の洞窟」(世界遺産ではありません)を見るためにカプリ島に渡りました。神秘的に輝く静謐な美しさを堪能し、ナポリに帰るフェリーチケットを購入しようとしたところ、ソレント行きのフェリーを発見、思わず乗船したのです。アマルフィへは、ソレントからバスで約2時間。青の洞窟のついでに行けるなら好都合、なんて思ってしまったのが事の発端でした(ちなみに、ナポリからソレントへは電車でも行けます)
世界で一番美しい海岸?
アマルフィの中心に着くと、砂浜はすぐ近くです。といっても、砂浜は猫の額ほどしかありません。この半島にあるビーチは、どこもかしこも小さいものばかり。こんな小さなビーチでは満足できません。
ビーチのすぐそばまで迫る山の斜面には、家々が立ち並んでいます。弧を描くビーチを見下ろす家並みが、きっと美しい海岸といわれている所以なのでしょうが、ワタクシは思ったのです――熱海にそっくりだ、と。そうです、伊豆半島の由緒ある観光地、あの熱海です。後ろは山で目の前は海。斜面に強引に建てられた家々。洋風建築と和風建築の違いはあるにせよ、俯瞰で見れば、ほぼ一緒。大きな差があるようには思えません。
こちら、我らが日本の誇る熱海の風景。アマルフィといわれてもわからないのでは?
アマルフィの街に入るとすぐに、代表的な建造物であるアマルフィ大聖堂があります。イタリアにある他の大聖堂とは違い、さまざまな建築様式が混在した珍しい形をしています。教会好きな方や建築関係の方には一見の価値があるかもしれません。しかし、アマルフィ・ショックに打ちのめされたワタクシを奈落の底から救い出すには力不足です。
旅にコスパを求めるならば
アマルフィ海岸は世界遺産ですが、それよりも「世界一美しい海岸」として脚光を浴びています。それを聞く度に「本当か?」と疑問が浮かんでしまいます。だって、言ったのはヘラクレスですよ?もちろん、強い日差しに青い空と海、切り立った崖、立ち並ぶ建物......この景色を美しいと思ったって異は唱えません。ただ、この程度なら、わざわざイタリアに来なくても、熱海でよくないか? とも思ってしまうわけです。世界遺産を訪れる、ということ自体が目当てでない限り。
旅行には、お金も時間もかかります。できれば、かけたお金と時間に見合った感動を得たいものです。そういう意味でアマルフィは、あまりコストパフォーマンスが良いとはいえなかったのです。なにしろ、このあと再び2時間バスに揺られて、さらに電車で1時間。ナポリに戻ってきたときには、もう夜遅くでした。ちょっと魔がさしてイタリアの熱海に立ち寄っただけなのに......。日本の熱海なら、東京から新幹線で50分ですよ!
さて、こんな熱海チックなアマルフィですが、どうしても行きたいということならば、移動時間のことも考えると、アマルフィで1泊したほうが身体に優しいかと思われます。
[旅のアドバイス]
イタリアは最多の世界遺産を持つ国。「ローマ歴史地区、教皇領とサン・パオロ・フォーリ・レ・ムーラ大聖堂」「ヴェネツィアとその潟」「フィレンツェ歴史地区」の次には「ナポリ歴史地区」に行きがちですが早まってはいけません。東海岸側にある「マテーラの洞窟住居と岩窟教会公園」と「アルベロベッロのトゥルッリ」に行きましょう。渓谷の斜面を掘って作った洞窟住居群は圧巻だし、大聖堂など見所も多い。おとぎ話に出てきそうなトゥルッリ(円錐形の屋根を持つ家)からは、今にも妖精が出てきそうです。どちらも一部が宿泊施設になっています。
[DATA]
遺跡名称:アマルフィ海岸
遺産種別:文化遺産
登録年:1997
登録基準:(ⅱ)(ⅳ)(v)
[アクセス]
成田...飛行機13 時間...ローマ...電車3 時間...ナポリ...船75 分...カプリ島...船20 分...ソレント...バス2時間...アマルフィ
[日程&費用]
4泊5日/ 20万円で十分