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これさえあれば安いビールも絶品に

ニューズウィーク日本版 2015年7月27日 18時30分

 僕はまずいビールが好きだ。うまいビールも好きだが、飲むのはたいてい、まずいビール。バド・ライトでもテカテでも、人が持ってきてくれるものなら何でもいい。

 大学時代には激安ビール、ナチュラル・ライトの飲み残しを、サワークリームの容器で飲んだ。パーティーの翌日、どうしてもビールが飲みたくなったのだが、あるのは樽に入ったナチュラル・ライトの飲み残しだけで、きれいなコップはない。だからサワークリームの空き容器に、生ぬるいそいつを入れて飲んだ。僕は味にうるさい男じゃない。

 世間にはうまいビールしか飲まない奴もいるが、うまいビールは高い。まずいビールは安い。安くてうまいビールには巡り合えない運命なのだ。

 ところが、最近はちょっと違うらしい。フィジックス社が開発した同名のビールサーバーは、「安かろう悪かろう」なビールを1杯100万ドルの味わいに変身させてくれるという。フィリップ・ペトラッカCEOに言わせると、このサーバーを使えば圧力と音波の力でまずいビールはおいしく、うまいビールはもっとうまくなるらしい。

 使い方は簡単だ。ビールの缶か瓶を開けて、本体にセットする。ふたから延びるチューブをビールに差し、ふたを閉める。そして待つこと1分弱。本体が密閉され、2.5センチ四方当たり約5キロの圧力をビールにかける。

 そもそもビールが缶や瓶に入っているのは、圧力をかけておくため。開けた瞬間その圧力が解放され、炭素ガスが泡となる。だがフィジックスの場合はビールを加圧し、備え付けのマイクロコントローラーでゆっくりグラスに注ぐことで、泡が立ちにくくなる。本体上部のハンドルを引くと、泡の少ないビールがグラスに注がれるのだ。

 ビールを注いだら、ハンドルを後ろに倒して泡を足す。バーで泡だらけの詐欺まがいなビールを出されることもあるが、泡はビールの味わいを左右する重要な要素だ。ビール関連機器を扱うマイクロ・マティックUSA社の技術責任者トム・ゴートは、「ビールを注ぐ段階で解き放たれる味わいを泡がつかまえ、閉じ込める」と説明する。

 だが、どんな泡でもいいわけではない。フィジックスのサーバーは音波でビールを「撹拌する」ことで、小さなきめ細かい泡を密集させる(手で注いだビールの泡は、大きさも形もまちまちだ)。小さなきめ細かい泡は、濃厚でクリーミーな口当たりになる。

 とはいえ、これで本当にビールがうまくなるのか? 「多少だが味わいは変化する」と、ドロップ・イン醸造所(バーモント州)の醸造責任者スティーブ・パークスはうなずく。「泡は苦みを凝縮させる。クリーミーな泡を通してビールをすすると、わずかに酸味と苦みが和らぎ、キレが少し増すはずだ」

 その味わいが好きかどうかは人それぞれだが、確実に「見た目はよくなる」と、パークスは言う。僕も試してみたが、確かに見た目はうまそうになった。

 肝心の味はといえば正直、僕には違いがよく分からない。でも、ぐんとうまくなったと言い張る同僚もいる。最初に言ったとおり、やっぱり僕は味にうるさい男じゃないのだ。


[2015.7.14号掲載]
テイラー・ウォフォード

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