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タブレットが子どもたちの生活能力を育む──離島や過疎地でのICT教育事例から学ぶこと

ニューズウィーク日本版 2015年7月28日 11時52分

ICTを活用した教育の一環として児童生徒がiPadでアップル社ティム・クックCEOへビデオレターを制作。同CEOから非常に高い評価を受けたという。


 教育現場にタブレット端末を導入するという試みはすでに多くの自治体で始まっているが、否定的な意見を持つ人もまだまだ多いようだ。平成25年度に行われた内閣府の世論調査では、回答者のうち7割以上が「子どもにスマートフォンを持たせることに不安を感じている」という結果が見られた。不安を感じているのは男性より女性が多く、これは日本小児科医会による「『子どもとメディア』の問題に対する提言」が効果を発揮しているのだろう。病院に掲示されているポスターや学校で配布される小冊子で「スマホに子守をさせないで」と言われ続けている母親たちが、学校でのタブレット利用に積極的になれないのは当然だ。

 そもそも、教育においてICTを活用する意義とはどんなものだろうか? 昨年度の「ICTを活用した教育の推進に関する懇談会」の報告書によると、(1)課題解決に向けた主体的・協働的・探究的な学びを実現できる点、(2)個々の能力や特性に応じた学びを実現できる点、(3)離島や過疎地等の地理的環境に左右されずに教育の質を確保できる点、以上の3点がその意義として挙げられている。理想的な「学びの実現」はさておき、3番目の離島や過疎地の例はこの中で最も具体的に想像しやすく、すでに成果も認められているようだ。

 離島や過疎地の小中学生は、高校進学のために親元を離れる必要がある。昨年春、KDDIと沖縄セルラーは沖縄の離島に住む子どもたちへの教育支援として「沖縄離島"15の春"旅立ち応援プロジェクト」を開始、北大東島と南大東島、多良間島の小中学校3校にタブレット端末とLTE環境を提供している。北大東小中学校では、あわせて60名ほどの生徒に対し10台のiPadを貸与。読み書き計算から自然観察、地理のクイズ、鉄棒のフォーム確認まで、あらゆる授業に利用することで、子どもたちが自然な形でタブレットに親しんでいる。

 ただし、端末操作に慣れることよりも重要なのは、自活していく上で必要な情報リテラシーを身につけることだ。北大東小中学校では前述の用途に加え、自分たちで作成した観光マップをインターネットで発信するなどの取り組みも行なっている。「インターネットを介したコミュニケーション」は実際に体験することによってしか学べないことが多いからだ。

 ICTを利用した交流授業の例もある。熊本県の人吉市立人吉東小学校と東間小学校では、「総合的な学習の時間」に地域を紹介する新聞や動画を作成。学校間をテレビ会議システムでつないでプレゼンテーションを行い、お互いの感想や意見を元に情報を追加・修正し、「よりよく相手に伝えるためにはどうすればよいか」を考える授業を行っている。この2校の生徒たちは同じ中学校に進学するため、入学前に親交を深めて仲間意識を高めるという効果もあったと言う。

 もちろん、ICT教育に立ちはだかる課題は多い。平成25年度にICT活用指導力に関する研修を受講した教員の数は全国平均で約3割と少なく(99.9%を実現したのは佐賀県武雄市だけだ)、タブレット端末の選定や整備には各地で問題も発生している。教務に利用するのであれば、情報セキュリティにも十分に配慮しなければならない。

 しかし、今の子どもたちが将来どんな職業に就こうと、またどんな場所に住もうと、「ICTを利用しない」という選択肢はほとんどない。だとすれば、子どものタブレット利用の是非を問うよりも、「生活能力のひとつとしてのICT利用をどうやって身につけるか」を考えるのが建設的ではないだろうか。



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