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アンコール・ワットは、夏に行ってはいけない

ニューズウィーク日本版 2015年7月28日 16時30分

 高いお金をはたいて、長時間の移動に耐えて、やっとたどり着いた旅先で「え? たったこれだけ!?」とガッカリした経験はないだろうか? それは世界遺産も同じ。「世界遺産は、素晴らしい観光地にあらず」と、世界60カ国以上、185件もの世界遺産に足を運んだ花霞和彦氏は言う。

 旅行の猛者である花霞氏が著した『行ってはいけない世界遺産』(CCCメディアハウス)は、「見どころ」と「コストパフォーマンス」をもとに世界遺産をぶった切った、これまでになかったガイドブック。20件の世界遺産を徹底検証し、本当に行く価値があるのか、値段と時間と労力に見合うのかを教えてくれる。

「ご当地グルメに目がない人は行ってはいけない モン・サン=ミシェル」「熱海観光の後に行ってはいけない アマルフィ海岸」に引き続き、ここでは「夏に行ってはいけない アンコール」を抜粋・掲載する。


『行ってはいけない世界遺産』
 花霞和彦 著
 CCCメディアハウス

抜粋第1回「こんな人は、モン・サン=ミシェルに行ってはいけない」はこちら
抜粋第2回「熱海と大差ない、「世界一美しい」アマルフィ海岸」はこちら

◇ ◇ ◇

2度も破壊された遺跡群

 アジアにある世界遺産で知名度、人気ともにナンバーワンなのが、アンコール遺跡ではないでしょうか。9世紀、現在のカンボジア王国のもととなったクメール王朝が始まります。最盛期にはインドシナ半島のほぼ全域を治めたといい、その都が置かれたのがアンコールです。巨大な遺跡は、600年続いた王朝の栄華の証といえます。

 1431年に隣国アユタヤ(現在のタイ)の侵攻でアンコールが破壊され、プノンペンに都が遷ると、この地は打ち捨てられて荒廃します。1860年にフランス人によって発見されるまでの長い間、密林に覆われていたのです。その後、カンボジアがフランス統治下に置かれたことで保存・修復が始まりましたが、1970年、今度は内戦が勃発。遺跡はまたも破壊されてしまいます。現在は国も安定し、ユネスコなどの国際機関と各国からの支援よって、修復活動が行なわれています。

遺跡を救うジャパンマネー

 このような修復を必要とする世界遺産はたくさんあり、その原資のひとつとなるのが世界遺産基金です。世界遺産条約の締約国が支払う分担金と任意の拠出金によって、世界遺産の真の目的である保護が行なわれているのです。

 日本は上位の拠出国で、2013年には2900万円の分担金を拠出しています。これまでにアンコール遺跡の修復支援に投じられたジャパンマネーは、実に30億円以上! これは、日本が支援した海外の世界遺産では最高額で、2位の「バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群」の6倍にもなります。なんだか、アンコールが身近に感じられてきます。

広すぎて暑すぎる巨大遺跡

 遺跡観光の拠点は、シェムリアップという街です。長らく忘れ去られていた都は、いまではしがない田舎町ですが、遺跡のおかげでしょうか、シェムリアップには国際空港があります。日本からの直行便はまだないものの、近隣国から直接入ることができます。

 美術的・民俗学的価値が高いことで知られるアンコール遺跡ですが、想像を遥かに超えるほど広大です。400平方キロという面積は名古屋市(326平方キロ)より広く、そこに大小600もの遺跡が点在しているのです。

 あまりにも広くて歩いて回るのは不可能なので、レンタサイクルを紹介しているガイドブックをよく目にします。しかし、年間平均気温が30度近い土地です。日中はとにかく暑く、ワタクシが訪れた5月は地獄のようでした。比較的涼しいといわれる11月でも、平均最高気温は30度を超えます。

散策するならヤケドに注意

 カンボジア国旗にも描かれているアンコール・ワットは、アンコールにある遺跡のひとつで、クメール建築の傑作と言われるヒンズー教寺院です。この寺院だけでも東京ドーム42個分もあり、ひととおり見学すると3時間はかかるでしょう。しかし、これは灼熱の遺跡探訪の入口にすぎません。

 多くの観光客は次に、2キロ離れた場所にある、もうひとつのメジャー遺跡アンコール・トムの南大門をくぐります。こちらは3キロ四方の城壁に囲まれた、ヒンズー教と仏教とが混在した遺跡群エリア。寺院や王宮、塔、テラスなどが点在し、駆け足でまわっても4時間近くかかり、屋根のない遺跡も多いので、油断すると日射病にかかってしまうほど危険です。

熱帯モンスーン気候に属するカンボジア。雨季(5月~ 10月)と乾季(11月~4月)に分かれるが、年間を通して高温多湿なことには変わりない。対策は万全に


 この辺りで暑さに負けそうになりますが、もうひと踏ん張りしてタ・プロームまで行きましょう。自然のままに成長した樹木たちに呑み込まれた寺院は、日本人に一番人気だそうです。崩壊した箇所も多いのですが、地球を植物に乗っ取られるパニック・アドベンチャー映画の主人公になった気分に浸れます。しかし、ここも見た目以上に広く足場も悪いので、疲れた体にはきついかもしれません。

 この3か所は6キロ圏内にありますが、広大なアンコール遺跡のほんの一部にすぎません。平坦な敷地を甘く見てレンタサイクルでまわろうとしたら、文字どおりヤケドします。強い陽射しが苦手な人は、トゥクトゥクと呼ばれる三輪タクシーを利用しましょう。ホテルなどが斡旋するトゥクトゥクは一日チャーターして3000円程度。それでも、屋根のない遺跡では残酷な太陽に焼かれ続けるので、覚悟して挑んでください。

[旅のアドバイス]
アンコール遺跡を観光中に暑さに耐えられなくなったら、迷わず西バライに避難です。11世紀ごろに造られた東西8キロ・南北2キロの貯水池で、アンコールの都に住む60万もの人々の生活を支えていました。今では現地の家族連れや若者で賑わう水浴び場となっていて、海の家よろしく屋台や貸しゴザ、ハンモック、パラソルもあって、心ゆくまで涼めます。

[DATA]
遺跡名称:アンコール
遺産種別:文化遺産
登録年:1992
登録基準:(i)(ⅱ)(ⅲ)(ⅳ)

[アクセス]
成田...飛行機7時間...バンコク...飛行機1時間...シェムリアップ...トゥクトゥク20 分...アンコール

[日程&費用]
4泊5日/ なんと10万円!

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