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「安保法制」の落とし所はどこにあるのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2015年7月28日 16時0分

 先週末放送の「朝まで生テレビ!」に出演して思ったのですが、今回の「安保法制」をめぐる左右対立は激しさを増しているようです。戦後70年続いたイデオロギー対決が、まるで集大成のようになって衝突している、少々大げさかもしれませんが、そのぐらい問題は「こじれて」います。

 安倍政権とすれば、衆院では可決しているわけですから、先週のこの欄で申し上げたように、「ひたすら低姿勢」で参院の審議を乗り切りつつ「60日ルール」を使う場合には「さらに低姿勢で」というのが1つのシナリオとしてあるとは思います。世論調査でも「説明不足」とか「賛否は分からない」という反応が非常に多いこともありますし、その「低姿勢で十分な説明を」という立ち位置を貫けば、支持は増えるかもしれません。

 ですが、そうした方法で「うまく行く」保証はないわけです。だからといって、仮に政権が崩壊したとしても、野党には受け皿になる人材も結集軸もありませんし、与党内にも見当たりません。そんな中で、2017年4月の消費増税を成功させるという「宿題」を背負った日本の政治と経済にとって、安易な「政局ゲーム」をやっている暇はないはずです。

 例えば「朝ナマ」には民主党の福山哲郎議員(参院)が出演していましたが、何度も「安保法制は憲法違反だから、堂々と憲法改正の議論をするのが筋」だと述べていました。

 一方で、これはCMタイムでのやり取りでOAはされていないのですが、片山さつき議員(自民、参院)によれば、こうした憲法論議に関しては、自民党としては「9条改正」は党是であり、その点に関して「揺らぎ」はないようです。

 では、安保法制議論を推し進めて「憲法論議」へ持って行くのが正しいのでしょうか?

 それでは、左右対立はますます激しくなるだけだと思います。下手をすれば、今以上の大規模なデモ隊が国会を取り囲むようなことになりかねませんし、アジアの諸国も警戒すると思います。世界の主要なメディアも「日本は遂にパシフィスト(平和主義)の国是を放棄か?」などと報じかねません。

 そこで1つの提案なのですが、そもそも安倍政権は「安保法制は合憲」だと強く主張しています。そうであるならば、今回の安保法制を整備することは、憲法改正を必要としないわけです。

 この点に着目するというのはどうでしょう? それは、安倍政権から世論に対して「安保法制に理解を求める」代わりに、「この内閣では憲法改正を行わない」ことを明言するのです。これによって、政権と世論の間で「妥協」を成立させることは出来ないものでしょうか?

 過去には、「憲法改正は内閣の課題にはしない」とした小泉純一郎政権の前例もあることですし、憲法改正を党是とする自民党ではありますが、問題はないと思います。

 また、安保法制や集団的自衛権を合憲だとするのは、「解釈改憲が過ぎる」とか「立憲主義の否定だ」という意見もありますが、9条が消えてしまうとか、国軍創設などという話になるぐらいなら、解釈改憲を重ねながら条文を歯止めとして変えずに残すというのも「アリ」ではないかと思うのです。

 例えば改憲論者は、結婚は「両性の合意に基づく」という条文では「同性婚の合憲化」ができないなどと、色々な部分を「改憲への突破口」にしようとしています。この点に関しても、戦前にようにお互いに自由に相手を選べない家族制度ではなく、当事者の「双方が対等に話し合って合意する」というのが日本国憲法の婚姻条項の精神なのだから、「同性間でも有効だ」というような「解釈改憲」などは大いにやったらいいのです。

 いずれにしても、このままでは野党や反対派世論は「安保法制は憲法違反」だから「堂々と憲法論議をして改憲案も葬ってやる」という立場ですし、政権与党の特に自民党としては「安保法制は合憲だから改憲は不要、だがそれとは別に悲願である改憲は実行したい」という立場であり、これでは全く重なる部分がありません。

 こんな左右対立は、例えば高度成長期には何らかのエネルギーになったかもしれませんが、難問の山積している現在においては消耗でしかありません。この状態を打開するためにも、1つの思考実験をしてみてはどうかというのが今回の提案です。

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