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アメリカがトルコのクルド人空爆を容認

ニューズウィーク日本版 2015年7月29日 19時0分

 トルコがついに国境を越えてISIS(自称イスラム国、別名ISIL)との戦いに加わった。これまでISISの掃討に手を焼いてきたアメリカなどの有志連合は参戦を歓迎したが、事態はそう単純ではない。ISISが一部地域を支配するシリアとイラクには、最前線でISISと戦うクルド人がいるが、そのクルド人はトルコの敵。つまりこの場合、敵の敵も敵なのだ。

 有志連合にはなかなか参加しなかったトルコ政府だが、空爆の対象をISISからクルド労働者党(PKK)に拡大するのには1日しかかからなかった。PKKは、長年自治権獲得を目指してトルコ政府と戦ってきたトルコ国内の組織だが、シリアとイラクのクルド人と連携してISISとも戦っている。

 トルコ空軍のF16戦闘機は先週末、初めてシリアのISIS拠点に対する空爆を実施。その翌日、今度はイラク北部にあるPKKの兵站基地を爆撃した。PKKが対ISIS攻撃の拠点としていた場所だ。

 この複雑な展開により、アメリカも厄介な立場に置かれている。

 トルコはアメリカの同盟国だが、米軍にとってISISとの地上戦で最も頼りになるのがクルド人だ。イラクのクルド民兵組織「ペシュメルガ」、シリアのクルド民兵組織「人民防衛隊(YPG)」、そしてトルコのPKKは、戦闘で協力し合っている。アメリカは、ペシュメルガおよび人民防衛隊と協力しているが、この2組織と協力しているPKKとは協力していないと主張している。

 というのも、米国務省はPKKをテロ組織に指定している。この指定は時代遅れで、対ISIS戦争におけるPKKの役割を考えると指定を解除すべきだという声もあるが、最近はトルコの治安部隊とPKKの戦闘も激化している。トルコ政府からみれば、PKKは立派なテロ組織だ。

米政府は「別々の戦い」と苦し紛れの弁解

 グローバルポスト特派員のリチャード・ホールは、PKKはアメリカ主導の対ISIS戦争における「サイレント・パートナー(匿名協力者)」だと言う。

 米当局者は先週、ISIS空爆を行う米軍戦闘機の基地使用をトルコが認めたと発表した。戦いの形勢を一変させうる発表だったが、その数時間後には、トルコがアメリカの「サイレント・パートナー」を殺している事実に関心が集中した。

 ISISと地上戦を戦うクルド人組織と協力しながらPKKとの協力を否定する米政府の詭弁も問題だが、イラクのPKK拠点に対するトルコの空爆を容認するのはもっと悪い。

 もっとも、PKKに関する米政府の公式見解は変わっていない。

 週明けの緊迫した記者会見のなか、国務省のジョン・カービー報道官は、米政府は常にトルコが「テロリストから自国を守る権利」を尊重してきた、と語った。

 トルコがISISに対する空爆とPKKの拠点に対する空爆はどちらも同じ「対テロ作戦」の一部と言う一方で、カービーはトルコのPKKに対する攻撃は「ISISに対する攻撃とは別物だ」と言った。記者たちは発言の矛盾を追求したが、カービーはあくまで同じ主張を繰り返した。「2つの攻撃は別のものだ」

 しかし、トルコ軍が攻撃の標的としてPKKと他のクルド人勢力とを区別するのは困難だ。もし無差別に攻撃が行われるようになれば、アメリカがISISに対する戦いとPKKに対する戦いを「別物」と言い張るのも難しくなるだろう。

 現に、PKKと協力するYPGは週明け、トルコ軍の戦車が国境のシリア側にあるクルド人の村Zur Magharを夜通し砲撃し、兵士4人が負傷したと発表した。

「トルコ軍はISISを標的にする代わりに、我々の味方を攻撃している」と、YPGは声明で言う。「トルコはこの侵略行為をやめ、国際的指針を遵守すべきだ。我々の戦闘員と軍事拠点に対する攻撃を直ちに止めるべきだ」

 トルコ政府は、今度の軍事作戦でYPGを標的にしたことはない、と否定した。

ティモシー・マグラス

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