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クラウドファンディングの「DREIM」モデルとは何か

ニューズウィーク日本版 2015年8月3日 19時0分

 クラウドファンディングという言葉は、さまざまなケースで使われるが、はっきりしているのは、そのコンセプトには二通りあるということ。一般消費者による利用(たとえば車を購入するための資金調達など)と、プロジェクトの資金調達だ。

 前者の「個人融資」にあたるクラウドファンディングには、三つのモデルがある。「長期」と「短期」、そしてその両者を組み合わせた「長期プラス」だ。

「長期」モデルは、およそ3年から5年くらいの長期にわたり資金を借り、大手銀行の水準の金利で返済する。「長期プラス」も、「長期」モデルと同様、長期間貸し出すが、貸し手が借り手をハイリスクと判断するために金利が高く設定される。「短期」モデルは、高い金利での短期間の貸し付けだ。

左が「個人融資」で、長期、長期プラス、短期の3モデルがあり、右の「プロジェクトの資金調達」には5モデルがある


 ここでは、後者の「プロジェクトの資金調達」にクラウドファンディングを利用するケースに焦点を当てる。

 クラウドファンディングを利用しようとするプロジェクトは、限定的な目標を達成したら解散するような、短命のものが多い。しかし、巨額の資金調達を目指すものから、きわめて限定的な目的のものまで、その規模はさまざまだ。

 プロジェクトの資金調達におけるモデルには5種類ある。私は、それぞれの頭文字をつなげて「DREIM」と呼んでいる。

1.寄付(Donation):そのままの意味。慈善事業である。
2.見返り(Reward):資金提供者は、見返りとして何らかのギフトを受け取る。
3.株(Equity):クラウドによる資金提供に対し、株式を発行する。
4.利子(Interest):既存の会社によるクラウドファンディングの場合、利子を伴う通常の借り入れの形で行なわれることもある。
5.ミックス(Mixed):「見返り」モデルと「株」モデル、あるいは「見返り」モデルと「利子」モデルの組み合わせ。

 DREIMの5モデルそれぞれの特徴を知っておくことは、クラウドファンディングを実施するうえで非常に重要だ。実際、多くの要素を考慮に入れる必要があり、プロジェクトに最適なモデルを選択するのはたやすいことではない。たとえば、ビジネスモデルとどう関連するか、資金提供者に事業を通じてどのような価値を提供できるか、資金提供者がプロジェクトに対してどんな印象を抱くか、といった要素である。

最適なプラットフォームと競合を調べる

 わかりやすい例を挙げよう。最近私が手がけたクライアントのケースだ。ある技術者が、ユニークなアウトドア製品をつくるための機械設備の資金を集めようとしていた。彼の最初の相談は、この事業に「見返り」モデルが使えるかどうか、というものだった。彼は「株」モデルを使うことで、経営に関する決定権を失うことは避けたかった。

「利子」モデルも選択肢から外れた。彼の会社が取引を始めてまだ2年もたっておらず、通常の借り入れをするにはリスクがあったからだ。また、担保を入れるのにも抵抗があった。彼の会社は慈善団体でも非営利団体でもないため、「寄付」モデルも論外だった。

 他の選択肢を捨て、「見返り」モデルに絞り込んだら、次のステップは「見返り」タイプのサービスを提供しているプラットフォーム(ウェブサイト)を調べることだ。その際、候補となるプラットフォームで、他にどんなクラウドファンディングが行われているかを見てみる。調べる際のポイントは以下の通りだ。

・プラットフォーム上に似ているプロジェクトがあるか?
・それは成功しているか?
・ファンディングの期間はどれくらいか?
・いつスタートしたか?
・いくら調達しようとしているのか?
・見返りのギフトとして何を提供しているか?
・どんな手段を使っているか?(動画の掲載、更新の頻度、ソーシャルメディアの活用など)

 こうした情報をできるかぎり入手することで、プロジェクトが資金調達目標に達しやすいプラットフォームをいくつか絞り込むことができた。もちろん目標は、事業によってさまざまだ。きわめて少額(もっとも少なかったのは300ポンド〈約56,000円〉だった)なものもあれば、巨額(最高は160万ポンド〈約3億円〉)を狙うものもあった。

少なくとも8週間の準備期間が必要

 採用するモデルにかかわらず、クラウドファンディングがプラットフォーム上で行うべきことはほぼ共通している。以下のような取り組みだ。

・動画:製品やプロジェクトのメンバーの紹介。
・メインページでの売り込み:製品やプロジェクトメンバーを文章で紹介する。
・保証:「見返り」モデルならばギフト、「株」モデルならば株式、「利子」モデルであれば適用される利子を示す。
・更新:資金提供者からの質問とその回答、資金調達の進捗状況、資金提供者への感謝などの内容をひんぱんにアップデートする。

 これらの四つは、クラウドファンディングをスタートする前に、綿密に計画しておく必要がある。通常のパターンでは、少なくとも8週間は準備期間に当てた方がよい。クラウドファンディングでは、現時点では失敗する方が多い(おおよそ60%は失敗するという推計もある)。だからこそ、立ち上げる前にしっかりと計画と戦略を練っておくことが重要なのだ。

 富裕層の投資家の目に留まるようにすることも、実は大切なことだ。クラウドファンディングの初期の段階で多額の資金が入れば、それに越したことはない。

 開始当初から多額の調達ができることは、他の資金提供候補者たちへのセールスポイントにもなる。彼らはさまざまな情報をもとに、資金提供をするかどうかを判断する。高額の投資がすでにあるということは、提案する事業にそれだけの価値を認める人がいることのアピールになる。

 クラウドファンディングを行っている最中には、資金提供者と定期的に(少なくとも週3回程度)連絡をとり、進捗を報告した方がいい。連絡はプラットフォーム上でも、フェイスブックやツイッター、リンクトインなどの外部のソーシャルメディア上でも構わない。こうした窓口を用意しておくことによって、資金提供者の抱く疑問や質問にすばやく対応することができ、安心感を与えることができる。

 こうした窓口を設け、質問に対応したり進捗報告をすることには、もう一つ、重要な意味がある。一つの質問は、特定の個人から発せられ、回答もその個人に対して行われる。だが、そのやり取りがプラットフォームに掲載されれば、当然ながら他の資金提供者も見ることができる。しっかりと見られていることを意識して、質疑応答や進捗報告は本質を外さない、バランスのとれたものになるよう気をつけるべきだ。資金提供者や資金提供を考えている人の気分を害したり、虚偽を疑われても、得なことは一つもない。

[執筆者]
クリス・バッキンガム
クラウドファンディング研究者。これまでに計200万ポンド以上を調達したクラウドファンディング・プロジェクトに関わった。現在、クラウドファンディングについての本を執筆中。ウィンチェスター・スクール・オブ・アートやウィンチェスター大学で教壇に立つ。

編集・企画:情報工場 © 情報工場




※当記事は「Dialogue Mar/May 2015」からの転載記事です




クリス・バッキンガム ※Dialogue Mar/May 2015より転載

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