ニロファー・マーチャントのリサーチ方法はユニークだ。世界中の人々から体験談を聞いて回っているのだ。その中でマーチャントは、"ソーシャル時代"の到来によって、価値創造の概念に注目すべき変化が起きていることに気づいた。
マーチャントは言う。「この世界には、抱えきれないほどたくさんの課題があります。環境問題、インターネットのオープンで自由な環境を守ること、21世紀にふさわしい教育改革、医療制度の再構築など。私が追い求めているのは、このような一見解決不能にも思える難題に取り組むことを心に決めた人々の物語です。ほとんどの人は、この世の中に影響を与えることを望んでいます。世界が、自分が生まれた時よりも、確実に進化することを誰もが願っているはずです。だから私たちは、共通の目的のもとに"つながり"、共に歩んでいく必要があるのです」
マーチャントはスタンフォード大学の講師であり、サンタクララ大学では教授として経営学を教えている。20年におよぶキャリアの中で、新興企業からフォーチュン500にランクインする大企業までを助け、勝算のない戦いにも果敢に挑んできた。彼女が助言してきた企業には、スティーブ・ジョブズ時代のアップルや、インターネット草創期のスタートアップ企業の一つであるオートデスクなども含まれる。
「現在執筆中の書籍『Onlyness: Make Your Ideas Powerful Enough to Dent the World(オンリーネス――世界に変化をもたらすアイデア強化法)』では、誰もが実際に世界に影響を与えられることを提示します。とくに有力者がバックにいなくても大丈夫。組織に所属することさえも必要ありません。協力してくれる仲間を探し出して、彼らの心の奥にある情熱を呼び起こし、心を一つにして行動させるべく、働きかければいいのです。この本はソーシャル技術に言及はしていますが、重要なのはツールではなく、人々がどうやって行動を始めるかなのです」
組織で昇進する間に情熱が失われる
マーチャントは書籍の執筆と併行して、同じテーマでブログを書いている。ブログで、執筆の過程で浮かんだアイデアを、ブログのフォロワーたちに話し合ってもらう。そしてその内容を、ケーススタディや「生きた事例」として書籍で取り上げるつもりだ。
「スティーブ・ジョブズやネルソン・マンデラのような唯一無二の巨人ではない私たちは、つい最近まで、目標を設定し、それを手際よく追求していくためには何らかの組織(企業、軍隊、政府、教会など)に所属しなくてはなりませんでした。徐々に昇進して自分の地位を上げていき、自分の思うままに組織を動かせる力を手に入れるまで待つしかなかったのです。しかも、たとえ力を手に入れることができたとしても、その頃には情熱が失われてしまっていたり、現状を受け入れていることが多いのが現実です」
「インターネットは物理的な距離やコスト、時間など、多くの障壁を取り払ってくれました。今では、かつては巨大な組織にしかできなかったことも、『つながりあう人々』が実現できます。ネットワークこそが、これまでの企業に代わるものであり、何かを成し遂げるための新しい方法なのです。もちろんネットは、すべての権力の形を変えたわけではありませんし、『何でもできる』という白紙委任状が与えられたわけでもありません。しかし、誰もが、以前より多くのことを成し遂げることができるようになったのは、紛れもない事実です」
マーチャントの提唱する「オンリーネス」という概念は、私たちの一人ひとりは、他の誰も占めることのできない唯一無二のポジションにあり、その独自性は誰もが獲得できる財産である、というものだ。それは単なる流行りの経営コンセプトではない、とマーチャントは強調する。「オンリーネス」は「あった方がいい」といったレベルのものではない。私たちの経済が生き残るために欠かせないものだというのだ。
「ビジネスが失敗するのは、たいていその担い手が古い考えにしばられていることが原因です。彼らはカネや組織、資本といった観点で物事を考えます。しかし、世界には70億もの人間がいて、たくさんの才能がまだ埋もれていると考えてみたらどうでしょう? 大きな変革のきっかけになるのではないでしょうか」
リーダーシップは70%が後天的要素
「実際にビジネスがうまくいっている人にとってみれば、物事を変えたいと思う理由は見つからないかもしれません。自分が今いるポジションを捨てる必要を感じないことでしょう。マイホームを所有しているようなものです。でも、その家が不良物件だったらどうしますか? もっと大きな家を建てればいいのです。そこに多くの人々を招き入れましょう。まさに今、新しいタイプの人々に力を与えることで新たな価値を生み出す、構造的転換が起きつつあります」
「『守旧派』が永遠に権力をもち続けることはあり得ません。中世末のヨーロッパでは、王権神授説が唱えられ、王は、神によって自分たちに独裁権力が授けられていると信じていました。しかし、その後の市民革命で、その権力はくつがえされました。同じことが現代のビジネスにおいても起こることでしょう。ビジネスリーダーの"現代版王権神授説"がくつがえされ、権力がエリートたちの手から離れていくはずです。そして、そのことは必ず世界に大きな変革をもたらします」
「自分一人の中に考えをため込むことは、もう止めなくてはなりません」とマーチャントは強調する。「私たちは、情熱や信念が自分の中で熟成するのを待たずに、ただちに行動すべきです。誰でもリーダーになれます。リーダーは生まれながらにリーダーの資質をもっているのか、それとも後天的にリーダーシップを身につけるのかを検証したイリノイ大学の研究があります。それによると、リーダーの特性のうち先天的な要素は30%に過ぎず、残りの70%は人生経験によるものという結果が出ています」
「オンリーネス」を発揮することを躊躇すべきではない。さもなければ、これから起こるであろう変化に取り残されてしまう。「『オンリーネス』を否定する人は、却って孤立します。皮肉なことに、周りに合わせようと努力する人ほど、結局、周囲から浮いてしまうものです。オンリーネスの考え方のもと、勇気を出して、自分自身の足で立ち上がるべきです」
「オンリーネス」には重要な基本前提があるという。それは、「リストに含まれない」人々をグループから排除しないということだ。LGBT(性的少数者)、女性、有色人種などの差別を受けやすい人々は、しばしば社会の規範を押しつけられる。「オンリーネス」は、彼らを含むすべての人が、自身の"強み"をもとに活躍できるようにする。たとえば以前は、女性が職場で昇進するには、女性らしさを犠牲にしなければならなかった。だが今では「女性らしさ」の特性、たとえば共感力などが、メリットとして認められるようになってきている。
編集・企画:情報工場 © 情報工場
※当記事は「Dialogue Mar/May 2015」からの転載記事です
デービッド・ウッズ(Dialogue誌編集長) ※Dialogue Mar/May 2015より転載
マーチャントは言う。「この世界には、抱えきれないほどたくさんの課題があります。環境問題、インターネットのオープンで自由な環境を守ること、21世紀にふさわしい教育改革、医療制度の再構築など。私が追い求めているのは、このような一見解決不能にも思える難題に取り組むことを心に決めた人々の物語です。ほとんどの人は、この世の中に影響を与えることを望んでいます。世界が、自分が生まれた時よりも、確実に進化することを誰もが願っているはずです。だから私たちは、共通の目的のもとに"つながり"、共に歩んでいく必要があるのです」
マーチャントはスタンフォード大学の講師であり、サンタクララ大学では教授として経営学を教えている。20年におよぶキャリアの中で、新興企業からフォーチュン500にランクインする大企業までを助け、勝算のない戦いにも果敢に挑んできた。彼女が助言してきた企業には、スティーブ・ジョブズ時代のアップルや、インターネット草創期のスタートアップ企業の一つであるオートデスクなども含まれる。
「現在執筆中の書籍『Onlyness: Make Your Ideas Powerful Enough to Dent the World(オンリーネス――世界に変化をもたらすアイデア強化法)』では、誰もが実際に世界に影響を与えられることを提示します。とくに有力者がバックにいなくても大丈夫。組織に所属することさえも必要ありません。協力してくれる仲間を探し出して、彼らの心の奥にある情熱を呼び起こし、心を一つにして行動させるべく、働きかければいいのです。この本はソーシャル技術に言及はしていますが、重要なのはツールではなく、人々がどうやって行動を始めるかなのです」
組織で昇進する間に情熱が失われる
マーチャントは書籍の執筆と併行して、同じテーマでブログを書いている。ブログで、執筆の過程で浮かんだアイデアを、ブログのフォロワーたちに話し合ってもらう。そしてその内容を、ケーススタディや「生きた事例」として書籍で取り上げるつもりだ。
「スティーブ・ジョブズやネルソン・マンデラのような唯一無二の巨人ではない私たちは、つい最近まで、目標を設定し、それを手際よく追求していくためには何らかの組織(企業、軍隊、政府、教会など)に所属しなくてはなりませんでした。徐々に昇進して自分の地位を上げていき、自分の思うままに組織を動かせる力を手に入れるまで待つしかなかったのです。しかも、たとえ力を手に入れることができたとしても、その頃には情熱が失われてしまっていたり、現状を受け入れていることが多いのが現実です」
「インターネットは物理的な距離やコスト、時間など、多くの障壁を取り払ってくれました。今では、かつては巨大な組織にしかできなかったことも、『つながりあう人々』が実現できます。ネットワークこそが、これまでの企業に代わるものであり、何かを成し遂げるための新しい方法なのです。もちろんネットは、すべての権力の形を変えたわけではありませんし、『何でもできる』という白紙委任状が与えられたわけでもありません。しかし、誰もが、以前より多くのことを成し遂げることができるようになったのは、紛れもない事実です」
マーチャントの提唱する「オンリーネス」という概念は、私たちの一人ひとりは、他の誰も占めることのできない唯一無二のポジションにあり、その独自性は誰もが獲得できる財産である、というものだ。それは単なる流行りの経営コンセプトではない、とマーチャントは強調する。「オンリーネス」は「あった方がいい」といったレベルのものではない。私たちの経済が生き残るために欠かせないものだというのだ。
「ビジネスが失敗するのは、たいていその担い手が古い考えにしばられていることが原因です。彼らはカネや組織、資本といった観点で物事を考えます。しかし、世界には70億もの人間がいて、たくさんの才能がまだ埋もれていると考えてみたらどうでしょう? 大きな変革のきっかけになるのではないでしょうか」
リーダーシップは70%が後天的要素
「実際にビジネスがうまくいっている人にとってみれば、物事を変えたいと思う理由は見つからないかもしれません。自分が今いるポジションを捨てる必要を感じないことでしょう。マイホームを所有しているようなものです。でも、その家が不良物件だったらどうしますか? もっと大きな家を建てればいいのです。そこに多くの人々を招き入れましょう。まさに今、新しいタイプの人々に力を与えることで新たな価値を生み出す、構造的転換が起きつつあります」
「『守旧派』が永遠に権力をもち続けることはあり得ません。中世末のヨーロッパでは、王権神授説が唱えられ、王は、神によって自分たちに独裁権力が授けられていると信じていました。しかし、その後の市民革命で、その権力はくつがえされました。同じことが現代のビジネスにおいても起こることでしょう。ビジネスリーダーの"現代版王権神授説"がくつがえされ、権力がエリートたちの手から離れていくはずです。そして、そのことは必ず世界に大きな変革をもたらします」
「自分一人の中に考えをため込むことは、もう止めなくてはなりません」とマーチャントは強調する。「私たちは、情熱や信念が自分の中で熟成するのを待たずに、ただちに行動すべきです。誰でもリーダーになれます。リーダーは生まれながらにリーダーの資質をもっているのか、それとも後天的にリーダーシップを身につけるのかを検証したイリノイ大学の研究があります。それによると、リーダーの特性のうち先天的な要素は30%に過ぎず、残りの70%は人生経験によるものという結果が出ています」
「オンリーネス」を発揮することを躊躇すべきではない。さもなければ、これから起こるであろう変化に取り残されてしまう。「『オンリーネス』を否定する人は、却って孤立します。皮肉なことに、周りに合わせようと努力する人ほど、結局、周囲から浮いてしまうものです。オンリーネスの考え方のもと、勇気を出して、自分自身の足で立ち上がるべきです」
「オンリーネス」には重要な基本前提があるという。それは、「リストに含まれない」人々をグループから排除しないということだ。LGBT(性的少数者)、女性、有色人種などの差別を受けやすい人々は、しばしば社会の規範を押しつけられる。「オンリーネス」は、彼らを含むすべての人が、自身の"強み"をもとに活躍できるようにする。たとえば以前は、女性が職場で昇進するには、女性らしさを犠牲にしなければならなかった。だが今では「女性らしさ」の特性、たとえば共感力などが、メリットとして認められるようになってきている。
編集・企画:情報工場 © 情報工場
※当記事は「Dialogue Mar/May 2015」からの転載記事です
デービッド・ウッズ(Dialogue誌編集長) ※Dialogue Mar/May 2015より転載