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米中スパコン対決という軍拡競争

ニューズウィーク日本版 2015年8月6日 17時45分

 世界最速のスーパーコンピューター開発でしのぎを削るアメリカと中国。その両国が、相次いで関連技術の輸出規制に乗り出した。

 中国商務部と税関総署は7月末、スーパーコンピューターの輸出規制に関する声明を発表。8テラフロップス(1秒間に8兆回の計算を実行できる)以上の処理能力を持つコンピューターを輸出するには許可を申請しなければならない。

(高性能のドローンも同様で、継続飛行時間1時間以上、悪天候に対応でき、高度1500メートルでホバリングできるドローンが規制対象になった)。

 商務部は、規制の理由として国家安全保障上の脅威を挙げているが、それが具体的に何かは明かしていない。ただ米商務省は今年4月、世界最速の中国のスーパーコンピューター「天河2号」向けの半導体輸出を禁止しており、それに対する報復措置の可能性もある。米商務省は輸出差し止めに踏み切った理由として、中国の4つの技術センターで、スーパーコンピューターが「核爆発」に関連した研究に利用されていることが確認されたため、と説明している。

 中国とアメリカはこの10年、スーパーコンピューター開発の双璧としてつば迫り合いを繰り広げてきた。中国の天河2号の処理速度は33.86ペタフロップス(1秒間に1兆の1000倍の演算能力)、米エネルギー省の研究所にある2位のタイタンのほぼ倍だ。

 これに対しバラク・オバマ米大統領は先週、2025年までに世界初の「エクサ級」のスーパーコンピューターを開発する大統領令に署名した。エクサ級、あるいは、エクサフロップスとは1秒間に100京回(京は兆の1万倍)の演算ができる能力。計画が実現すれば、アメリカは中国を大きく飛び越えることになる。

 オバマは10年の一般教書演説で「われわれの世代のスプートニク事件」という表現を使い、技術開発で世界トップの座を死守する決意をにじませた。スプートニクは旧ソ連がアメリカを出し抜いて打ち上げに成功した人工衛星。アメリカはこの屈辱をバネに人類初の月着陸を成功させた。

最強のマシンをもつ者が戦略上優位に

 スーパーコンピューター開発には超大国が競うほどの戦略的重要性があるのだろうか。英エジンバラ大学スーパーコンピューティング・センターのマーク・パーソンズ所長によると、スーパーコンピューターは民生用と軍事用どちらにも活用できる。一般的な用途は、高精度の天気予報や気候変動予測などだが、インターネット上でのスパイ活動などサイバー攻撃でも威力を発揮し得る。

 だが国家の威信の問題という側面も大きいと、パーソンズは言う。「コンピューターの『軍拡競争』はフロップスをめぐる戦いだ。各国の開発チームはひたすらフロップスの大きさを競い合ってきた」

 だが、ロンドン大学キングズ・カレッジ戦争学部のサイバーセキュリティ専門家、ティム・スティーブンスによれば、これほどのマシンを所有する者は誰であれ、国家安全保障上大きな優位に立つことができると言う。スーパーコンピューターの影響が最も大きい安全保障分野は核兵器だ。高速のスーパーコンピューターがあれば、核兵器の威力を正確にシミュレーションできる。

「もともと多くのスーパーコンピューターは、核兵器開発の必要から生まれてきた。核実験が禁止された時の代替的な実験手段にもなった」と、スティーブンスは言う。彼はスーパーコンピューターを保有することは核兵器を保有することに似ていると言う。どちらも技術水準の尺度であり、国際関係に強い影響力をもつからだ。

 ちなみに、人間が1ぺタフロップスの計算をしようとすれば3200万年かかるという。


コナー・ギャフィー

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