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HBS教授が教える、「使える部下」の育て方(前編)

ニューズウィーク日本版 2015年8月10日 16時30分

 ゴールドマン・サックスに22年間勤務し、副会長まで務め上げた後、ハーバード・ビジネススクール(HBS)教授に。そんな輝かしいキャリアを持つロバート・スティーヴン・カプランによれば、「卓越したリーダーシップを発揮するのに、すべての問いの答えを知っている必要はない」。

 うまくいくリーダーと、うまくいかないリーダーの違いは何か。どんなリーダーでも例外なく、自信とやる気をなくす時期を経験する。違いが表れるのは、そうしたときに"正しい疑問"を持てるか否かだと、カプランは言う。

 カプランの新刊『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術 成果を上げるリーダーの習慣』(福井久美子訳、CCCメディアハウス)は、ビジョンの描き方から、フィードバックの活用法、迷走した組織の立て直し方まで、大小を問わず組織を率いる人に"正しい疑問"という武器を授けてくれる1冊。

 ここでは、「第4章 部下を育てる技術――後継者を育成する」から一部を抜粋し、前後半に分けて掲載する。


『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術
 ――成果を上げるリーダーの習慣』

 ロバート・スティーヴン・カプラン 著
 福井久美子 訳
 CCCメディアハウス



◇ ◇ ◇

取り巻きがひしめくチーム

 歴史家のドリス・カーンズ・グッドウィンはエイブラハム・リンカーンの内閣を「ライバルがひしめくチーム」と表現しました。そして、リンカーンの勇気ある(そして時には信じがたい)リーダーシップは、このチームに芽生えた緊張感と成果のおかげではないかと考察しました。多くのリーダーたちが、この歴史的な人物の強いリーダーシップに注目し、学んできました。その一方で、誤った道へと進んだ挙げ句に「取り巻きがひしめくチーム」を作ってしまう企業のリーダーも大勢います。

 なぜそのような選択をするのでしょうか? 現在の地位に就くまでに何年も努力した挙げ句に、失敗したくはないはずなのに? たとえ意識していなくても、リーダーは、有能な部下のことをいつか自分の地位を脅かすであろう存在だと考えています。「取り巻きがひしめくチーム」を作ってしまうリーダーも、有望な後継者を育てれば、会社はさらに強くなることを頭では理解しています。しかし、心の底に巣くう不安に理性が負けてしまうのです。

 残念ながら、私が見た企業のなかには、できるだけ長く今の地位に居続けたいと執着し、自らの地位を守るために、多彩な人材を育てる気などさらさらないリーダーが何人もいました。しかもそのなかにはCEOもいました。また、ゆくゆくはCEOになりたいと望む、若手の部門長もいました。こうしたリーダーは、現在の地位を安泰と思っておらず、その不安を助長するような行動を取りたがりません。後継者育成計画や、能力開発についてあたかも熱心に語ることもあります。後継者育成計画を導入しても、結局は、自分だけに忠実なお気に入りの部下を昇進させようとします。かつて一緒に働いたことがあり、自分と考え方が似ているお気に入りの部下を、です。そのことについて疑問を投げかけると、彼らは慎重に「他にも優秀な社員はいるが、彼らには及ばないからね」などと釈明するでしょう。

 こうして彼らは身を守り、防御を固めます。そして、自分の派閥に属していない有能な部下や同僚には「近寄るな」といわんばかりの態度を取ります。残念なことに大抵の場合、彼らは優秀な人材を社外へ追い出し、会社にではなく、自分に忠実な社員をリーダーに抜擢します。こうして偏った上層部が結成されると、大きな盲点ができ、適切な判断ができなくなります。

 一般的に、判断力のズレが明らかになるのは、何か深刻な事態が起きたときです。深刻な事態が起きる頃には、状況を修正するにも、とうに退社した有能な人材を呼び戻すにも、手遅れという場合がほとんどです。結果的に会社は深刻なダメージを負い、長い間苦しむことになります。

 公開会社の場合、この種の問題がないかチェックして、後継者育成プロセスの透明性を確保するのは上層部、ひいては取締役会の仕事です。それには定期的な配置転換が効果的ですが、これは何よりも派閥の予防になります。しかし、一番効果的なのは、まずは優れたリーダー候補を育てるために尽力し、多様性を受け入れられるリーダーを育てることで、派閥や取り巻きの形成を防止することです。

優秀な社員がいない?

 優先度の高い業務に思うように時間をかけられずに苦労しているリーダーをよく見かけます。彼らは多くの仕事を抱え込み、いつも過労ぎみで、会社が抱える大きな問題について考える余裕もないように見えます。そこで私が「優先度の低いタスクを有望な部下に任せては?」と提案すると、「そうしたいのはやまやまなんですが、うちの会社にはあてになる社員がいなくて......」との返事が返ってきます。そしていつも、CEOなり部門長なりが、有望な人材を採用し、育成し、会社に定着させるのがいかに難しいかを延々と語るのです。

 これは、関係者全員にとって危険かつ不健康な状況と言えるでしょう。とりわけ、すべての責任を追うリーダーにとっては致命的といえます。重要な管理業務を任せられるような優秀な社員がいない――そのような状況に陥った場合は、二つの可能性が考えられます。

【可能性その1】あなたの認識は正しい。優秀な社員が少ない。
【可能性その2】あなたの認識は間違っている。優秀な社員がいるのに、あなたが使いこなせていない。

 一番目のケースなら、今すぐ問題の解決にあたってください。面接に臨んで、優秀な人材を雇うのです。さらに、社内で優秀な社員が育たない理由も突き止めなければなりません。新入社員の採用に問題があるのか? それとも優秀な人材を採用しても、彼らが成熟してリーダーになる前に辞めてしまうのか? 社内のキャリア形成かスキル研修に問題があるのか? 上層部は、有望な社員をうまく育成できなかったのか、それとも、有望な社員の業務、キャリア、コーチングなどの要望に、会社が応えられなかったのか?

 問題の解決にあたる一方で、二番目のケースがあてはまるかもしれないことも意識してください。「私が社内の才能に気づかず、評価していないだけではないか?」と自らに問うてください。優秀な社員があなたのすぐ側にいませんか?

※HBS教授が教える、「使える部下」の育て方:後編はこちら

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