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デジタル化を進めつつ、原点回帰するベネッセの狙いとは

ニューズウィーク日本版 2015年8月20日 15時50分

ベネッセホールディングスの原田泳幸氏が、同社の代表取締役会長兼社長に就任してから2015年6月で1年が経過した。就任後間もない昨年7月には、顧客の個人情報が流出する事故が起きて対応に追われたが、一方でベネッセの中長期的な課題にも着実に取り組んできたという。この1年間の取り組みと、これからの展望について聞いた。

 妊娠・子育て世代からシニア世代まで、人生の各ステージでの学びや成長をサポートするベネッセホールディングス。これまで一貫してグローバルな外資系企業で活躍してきた原田氏が、この日本企業へ転身した背景にはどのような理由があったのだろうか。

「私は複数の外資系グローバル企業で44年間にわたり働いてきました。アップルのようなIT業界や、マクドナルドのようにスタッフのモチベーションが事業を支えるピープルビジネスを経験して思ったことは、なぜ日本のビジネスパーソンは、グローバルリーダーシップを取れないのだろうかということです。世界規模の組織をリードしていく人材が日本から輩出されないと、日本は危ないという思いがずっとありました。やはり日本の将来のためには教育が重要だと。ベネッセなら、日本でのグローバル人材の育成に貢献できる機会があり、これまでのIT業界やピープルビジネスでの経験を活かすことができると思いました」

 この一年間でベネッセが教育事業で力を入れてきたことは、進研ゼミ教材を活用する個別指導型学習教室の「クラスベネッセ」や、勉強のことなどをいつでも無料で相談できる「エリアベネッセ」などの展開。いずれもスタッフが子どもたちと直接コミュニケーションを取ることが大きな特徴になっている。一方で、「デジサプリ」という教材を開発するなど、ITを取り入れた展開も忘れていない。

「教育というのは、要領よく知識を詰め込ませる指導が行きすぎると、子どもが自分で考えなくなってしまう。本来、自分で考える力を育くむというのが教育の基本だと思います。そう考えると、赤ペン先生が子どもの心を動かし能動的にさせるというのが、ベネッセの本来の価値なのです。それを忘れて単にデジタル化すると、ベネッセ独自の価値が失われます。どのようにデジタル対応していくか、これが私が最も注意している点です」

 この課題に対する答えのひとつともいえるのが「ベネッセタウン構想」である。従来の紙の教材による通信教育にデジタル教材を組み合わせ、子どもの学習履歴を蓄積。加えて、「クラスベネッセ」や「エリアベネッセ」、提携塾や英会話教室もリンクさせ、紙・人・デジタルのハイブリッドによって効果的な学習を行うことができるというものだ。

「やはりお客様のところへ出向いていくことが大切です。そして、個々のお子様の特性や学力などにあわせて、アドバイスしていく。つまり、ベネッセタウン構想により、直接お客様に寄り添うサポートを強化します。進研ゼミは、以前からダウントレンドになっていました。それは、人を軸とするベネッセらしい価値を忘れていたからです。したがって、この一年間は、人を軸とした価値を再度高めるため、教材もずいぶん進化しました。今後も一人ひとりによりフィットする教材の開発を進めていきます」

 着実に変貌を遂げつつあるベネッセだが、昨年の個人情報流出事故の影響が最も業績に表れるのは今年度であると見通している。この難局を乗り越える秘策はあるのだろうか。

「やはり原点回帰。ベネッセの価値をさらに高めるために人の力を生かし、デジタルを活用して商品・サービスを進化させます。また、事故を受けて一番に考えるべきことは、お客様からの信頼回復です。それは一夜にしてできるものではなく、さまざまな企業活動や顧客接点、それらすべての顧客体験が信頼に繋がりますから、そのためにもタッチポイントをたくさんつくることが大事です。つまり、『ベネッセタウン構想』が信頼回復に寄与するのではと、考えています」

 国内での事業が厳しい一方、海外での「こどもちゃれんじ」事業などは順調に推移。日本では今後も少子化が進む一方、海外はまだまだ発展の可能性があり、重要戦略の一つと考えているようだ。

「中国では、ベネッセは10年以上も前に日本人スタッフが現地に赴き、ベネッセのDNAをしっかりと注入して、独自の職場文化を培ってきました。ベネッセの素晴らしいところと、中国の現地スタッフの熱心さが上手く融合した文化を、作りあげたことに誇りを感じています。これが最も大きな成長の要因です。インドネシアは、4〜5年前から日本人スタッフが現地で活動してようやく事業の認可が下りました。今後アメリカなどの国々でも、ベネッセの強みを活かして、何が展開することができるのかを検討するプロジェクトもスタートさせています。業績の回復・成長というのは、大きな視点でいうとベネッセ全体の事業ポートフォリオを改めて整え、ステークホルダーにしっかりとコミュニケーションすることで実現できると考えています。」

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