国際市場における競争は史上類を見ないレベルにまで達しており、将来的にもさらに激化することだろう。これは手垢のついた表現に見えるかもしれないが、紛れもない真実だ。
競争が激化している根拠は四つある。一つめは、成長を求める多国籍企業が、新興市場にさらに注力するようになってきていることだ。
第2に、新興国に本拠を置く多国籍企業の動きがかつてないほど活発になっている。中国やインド、ブラジル、トルコ、南アフリカなどの多数の企業が海外に進出している。
三つめの根拠は、中規模の欧米企業も、これまで進出していなかったような他国の市場に進出しているということ。そして四つめには、単純なことだが、ほとんどの海外市場で地元の競合企業がますます力をつけていてきていることが挙げられる。
こうした状況のなかでグローバルな成長を本気でめざすのであれば、以下の質問を自らに問いかけてみるといい。
・自社の国際ビジネスは、持続可能なやり方で構築できているか?
・自社の仕組みは、それぞれの市場での競争において優位に立てるものか?
・それぞれの市場で激化しつつある競争にどれだけ耐えうるか? あらゆるタイプの競合企業に対する障壁を築いているか?
・現地の事情に適合しているか?
・今後数十年にわたり収益を上げつづける持続可能なビジネスを生み出すために、すぐに埋めなければならないギャップは何か?
新興市場のスローダウンは根本的な問題ではない
日和見主義で場当たり的なアプローチをする企業があまりにも多い。その根本原因は、いわゆる「短期主義」にある。短期主義とは、3カ月単位の目標達成に注力しすぎることを指す。過去25年の間に多くの新興市場戦略が失敗に終わったのは、何よりこの「短期主義」が原因なのだ。
国際ビジネスをある程度深掘りするには費用がかかる。しかもその見返りはすぐには得られない。他社を出し抜く先行投資が重要なのだが、しばしばそれは四半期の収益に悪影響を及ぼす。それゆえ、短期の株価を押し上げるために手の届く範囲でしか国際ビジネスを行わないCEOがあまりにも多い。
彼らが投資を渋る言い訳で最近よく聞くのは、新興市場が成長の速度をゆるめている、というものだ。見返りが得られるかどうか怪しい状況で資金を投下するのはナンセンスだというのだ。しかし彼らは、新興市場のスローダウンが、根本的な問題ではないことを見落としている。その多くは一時的に下向きのサイクルに入っているだけなのだ。
これまで多くの企業は先進国市場の大規模なビジネスに注力しがちだった。新興市場はあくまで先進国市場を補うものであり、利益があれば多少上乗せする、といった程度の位置づけにすぎなかった。だがこれからは、新興市場にも先進国市場と同じくらい注意を払っていくべきだ。
開発済みの市場(先進国)と、開発途中の市場(新興国)を扱うセクションは分ける必要がある。企業の組織上、地域ごとのリーダーシップが確立されていることは重要な要素だ。
経営のトップレベルであるボードメンバーには、新興市場の知識をもつ幹部を含めるべき。そして(行き過ぎはよくないが)地域に意思決定を分散させる。過度に中央集権的な企業は、新興市場で失敗しやすい。なぜなら、新興市場で現実に何が起きているのかをよく知らないまま、本部による意思決定がなされてしまいがちだからだ。
新興市場はどこでも「打ち出の小槌」とは限らない。企業はそれぞれの地域や市場にどれほどのチャンスとポテンシャルがあるかを見きわめて資源配分をしていくべきだ。グローバルリーダーは、短期的な見返りを期待してはならない。投資さえすれば自動的に市場をリードできると思ったら大間違いだ。事業を立ち上げる段階で収益が思わしくなくても、企業のブランドを築き上げることに投資していると考えればよい。
いま投資している新興市場でシェアを広げようとする場合に、それまでに同市場で稼いだ利益のみで追加投資を賄ってはいけない。拡大に必要な増加分は決して安くない。他の市場から資金をもってくることを考えた方がベターだ。私のクライアントの多くは、現地で社債を発行したり、さらには現地の証券取引所に上場したりしている。
新興国の企業を買収するチャンス
とにかく企業が陥りやすい「短期主義」を避けることだ。「言うは易く行うは難し」なのだが、昨今では、いわゆる"投資家"たちに四半期ガイダンス(利益予想)を提供することを拒否する企業が増えてきている。CEOたちが、四半期で収益を見る習慣を止めていくならば、株価は下がるかもしれないが、長期的視点をもつ投資家たちを引きつけることになり、株式のオーナーシップが変わっていく。新興市場ビジネスのために企業ができる最善策は、国際ビジネスの何たるかを理解している投資家が多くの株を所有するように仕向けることなのだ。
新興市場で成功するには、長期計画と投資が必要不可欠だ。私のクライアントには、10年、さらには20年の新興市場攻略プランを立てている企業もある。そして、言うまでもないことだが、長期の計画であっても、確実に実行していかなければならない。
また、短期的な市場の混乱に過剰反応せずに、成長戦略を継続していくことが大事だ。新興市場には、不安定さや脆弱さがつきまとう。だが、それが長期プランの遂行を邪魔するようなことがあってはならない。万が一の事態に備えた計画を立てておくことも重要だ。将来、危ない局面に立たされても落ち着いて対処できるよう準備しておくのだ。ただし、そのときにも長期的視点に立った戦略を見失ってはならない。
現地における存在感、インフラ、スタッフの能力や技術などを、国単位で強化していこう。とくに、顧客と直に対面で接する職務について強化するべきだ。そうした面に関しては、今のところ地域戦略が不十分であることが多いからだ。新興市場では、人間関係の価値を軽くみてはいけない。友情関係がビジネスを前進させることも珍しくない。だからこそ、現地での存在感を高めることが必須なのだ。消費者や顧客が、地元企業と同じように見てくれるまで、現地に溶け込むことをめざそう。そのために、また成長するためにも、買収を検討してもよい。
新興市場の企業たちは今、成長し、次のステージに飛び立つために翼を広げている。多国籍企業は、彼らが大きくなり、高値がつく前に買収を検討すべきだ。一時的に経済や通貨が低迷している今こそ、買収の良いタイミングといえる。
あらゆるタイプの企業との競争に耐えうる現地でのレジリエンス(回復力、強靱さ)を身につけよう。そしてそれらの企業に後れをとることなく、追い越せるようイノベーションを続けていこう。大事なのは、アプローチの方法や組織形態に「柔軟性」をもつことだ。新興市場はとくに柔軟性が要求されることが多い。企業のDNAに柔軟性を刻み込むべきだ。さらに、スピードや緊迫感、機敏さを身につけることも必要。それらがなければ競争相手にたやすく負かされてしまう。競争相手の中でもっとも小さな会社でさえ無視することはできない。その市場で最強のインテリジェンス(情報収集力)を身につけ、競争に備えよう。
編集・企画:情報工場 © 情報工場
※当記事は「Dialogue Jun/Aug 2015」からの転載記事です
ニナド・パセック(CEEMEAビジネスグループ共同CEO、グローバル・サクセス・アドバイザーズ社長) ※Dialogue Jun/Aug 2015より転載
競争が激化している根拠は四つある。一つめは、成長を求める多国籍企業が、新興市場にさらに注力するようになってきていることだ。
第2に、新興国に本拠を置く多国籍企業の動きがかつてないほど活発になっている。中国やインド、ブラジル、トルコ、南アフリカなどの多数の企業が海外に進出している。
三つめの根拠は、中規模の欧米企業も、これまで進出していなかったような他国の市場に進出しているということ。そして四つめには、単純なことだが、ほとんどの海外市場で地元の競合企業がますます力をつけていてきていることが挙げられる。
こうした状況のなかでグローバルな成長を本気でめざすのであれば、以下の質問を自らに問いかけてみるといい。
・自社の国際ビジネスは、持続可能なやり方で構築できているか?
・自社の仕組みは、それぞれの市場での競争において優位に立てるものか?
・それぞれの市場で激化しつつある競争にどれだけ耐えうるか? あらゆるタイプの競合企業に対する障壁を築いているか?
・現地の事情に適合しているか?
・今後数十年にわたり収益を上げつづける持続可能なビジネスを生み出すために、すぐに埋めなければならないギャップは何か?
新興市場のスローダウンは根本的な問題ではない
日和見主義で場当たり的なアプローチをする企業があまりにも多い。その根本原因は、いわゆる「短期主義」にある。短期主義とは、3カ月単位の目標達成に注力しすぎることを指す。過去25年の間に多くの新興市場戦略が失敗に終わったのは、何よりこの「短期主義」が原因なのだ。
国際ビジネスをある程度深掘りするには費用がかかる。しかもその見返りはすぐには得られない。他社を出し抜く先行投資が重要なのだが、しばしばそれは四半期の収益に悪影響を及ぼす。それゆえ、短期の株価を押し上げるために手の届く範囲でしか国際ビジネスを行わないCEOがあまりにも多い。
彼らが投資を渋る言い訳で最近よく聞くのは、新興市場が成長の速度をゆるめている、というものだ。見返りが得られるかどうか怪しい状況で資金を投下するのはナンセンスだというのだ。しかし彼らは、新興市場のスローダウンが、根本的な問題ではないことを見落としている。その多くは一時的に下向きのサイクルに入っているだけなのだ。
これまで多くの企業は先進国市場の大規模なビジネスに注力しがちだった。新興市場はあくまで先進国市場を補うものであり、利益があれば多少上乗せする、といった程度の位置づけにすぎなかった。だがこれからは、新興市場にも先進国市場と同じくらい注意を払っていくべきだ。
開発済みの市場(先進国)と、開発途中の市場(新興国)を扱うセクションは分ける必要がある。企業の組織上、地域ごとのリーダーシップが確立されていることは重要な要素だ。
経営のトップレベルであるボードメンバーには、新興市場の知識をもつ幹部を含めるべき。そして(行き過ぎはよくないが)地域に意思決定を分散させる。過度に中央集権的な企業は、新興市場で失敗しやすい。なぜなら、新興市場で現実に何が起きているのかをよく知らないまま、本部による意思決定がなされてしまいがちだからだ。
新興市場はどこでも「打ち出の小槌」とは限らない。企業はそれぞれの地域や市場にどれほどのチャンスとポテンシャルがあるかを見きわめて資源配分をしていくべきだ。グローバルリーダーは、短期的な見返りを期待してはならない。投資さえすれば自動的に市場をリードできると思ったら大間違いだ。事業を立ち上げる段階で収益が思わしくなくても、企業のブランドを築き上げることに投資していると考えればよい。
いま投資している新興市場でシェアを広げようとする場合に、それまでに同市場で稼いだ利益のみで追加投資を賄ってはいけない。拡大に必要な増加分は決して安くない。他の市場から資金をもってくることを考えた方がベターだ。私のクライアントの多くは、現地で社債を発行したり、さらには現地の証券取引所に上場したりしている。
新興国の企業を買収するチャンス
とにかく企業が陥りやすい「短期主義」を避けることだ。「言うは易く行うは難し」なのだが、昨今では、いわゆる"投資家"たちに四半期ガイダンス(利益予想)を提供することを拒否する企業が増えてきている。CEOたちが、四半期で収益を見る習慣を止めていくならば、株価は下がるかもしれないが、長期的視点をもつ投資家たちを引きつけることになり、株式のオーナーシップが変わっていく。新興市場ビジネスのために企業ができる最善策は、国際ビジネスの何たるかを理解している投資家が多くの株を所有するように仕向けることなのだ。
新興市場で成功するには、長期計画と投資が必要不可欠だ。私のクライアントには、10年、さらには20年の新興市場攻略プランを立てている企業もある。そして、言うまでもないことだが、長期の計画であっても、確実に実行していかなければならない。
また、短期的な市場の混乱に過剰反応せずに、成長戦略を継続していくことが大事だ。新興市場には、不安定さや脆弱さがつきまとう。だが、それが長期プランの遂行を邪魔するようなことがあってはならない。万が一の事態に備えた計画を立てておくことも重要だ。将来、危ない局面に立たされても落ち着いて対処できるよう準備しておくのだ。ただし、そのときにも長期的視点に立った戦略を見失ってはならない。
現地における存在感、インフラ、スタッフの能力や技術などを、国単位で強化していこう。とくに、顧客と直に対面で接する職務について強化するべきだ。そうした面に関しては、今のところ地域戦略が不十分であることが多いからだ。新興市場では、人間関係の価値を軽くみてはいけない。友情関係がビジネスを前進させることも珍しくない。だからこそ、現地での存在感を高めることが必須なのだ。消費者や顧客が、地元企業と同じように見てくれるまで、現地に溶け込むことをめざそう。そのために、また成長するためにも、買収を検討してもよい。
新興市場の企業たちは今、成長し、次のステージに飛び立つために翼を広げている。多国籍企業は、彼らが大きくなり、高値がつく前に買収を検討すべきだ。一時的に経済や通貨が低迷している今こそ、買収の良いタイミングといえる。
あらゆるタイプの企業との競争に耐えうる現地でのレジリエンス(回復力、強靱さ)を身につけよう。そしてそれらの企業に後れをとることなく、追い越せるようイノベーションを続けていこう。大事なのは、アプローチの方法や組織形態に「柔軟性」をもつことだ。新興市場はとくに柔軟性が要求されることが多い。企業のDNAに柔軟性を刻み込むべきだ。さらに、スピードや緊迫感、機敏さを身につけることも必要。それらがなければ競争相手にたやすく負かされてしまう。競争相手の中でもっとも小さな会社でさえ無視することはできない。その市場で最強のインテリジェンス(情報収集力)を身につけ、競争に備えよう。
編集・企画:情報工場 © 情報工場
※当記事は「Dialogue Jun/Aug 2015」からの転載記事です
ニナド・パセック(CEEMEAビジネスグループ共同CEO、グローバル・サクセス・アドバイザーズ社長) ※Dialogue Jun/Aug 2015より転載