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「維新の会」分裂は政界再編に繋がるのか - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2015年9月3日 16時20分

 2012年に大阪維新の会が国政参加を表明した際には「船中八策」という理念がありました。この「八策」についてですが、「既得権益の打破」を進める一方で「格差是正」という方向が入っていること、外交方針でのギャンブルは避けていることなど評価できる面があります。その一方で、地方分権をうたいながら大都市中心の政策であること、産業構造転換への視点が欠けていることなど欠陥もある、そのような指摘を本欄でしました。

 その大阪維新の会は、「みんなの党」そして「民主党右派」特に小沢一郎氏の「左シフト」と袂を分かったグループを糾合して「維新の党」という形で国政参加を果たしたわけです。この間には、「太陽の党」(現在の「たちあがれ日本」)との連携とその解消、また重要な事件としては堺市長選の敗北と、住民投票での敗北で大阪都構想が立ち往生するという問題もありました。

 さて、そのような形で出来上がった「維新の党」ですが、ここへ来て分裂が不可避の状況となっています。きっかけは、柿沢未途幹事長が山形市長選(9月13日投開票)で民主、共産の両党が支援する候補を応援したという事件です。党として、この山形の選挙への対応が決まっていない中で、柿沢氏が勝手に応援をしたのは問題だというのです。

 その背景には、路線対立問題があります。

 旧「大阪維新」グループは、自民党の安倍政権と「あわよくば連立」を果たす、その際に「維新から自民党」に対しては(仮にそれだけの議席があればの話ですが)憲法改正発議に必要な力を貸す、その代わりに「自民党の本部からは大阪都構想を支持する動きをする」という政治的な取引をしようという方向性を持っています。

 この方向性は何も「利害だけの連携」ではなく、「大阪維新」としては今回の安保法制を含む自民党の軍事外交政策には支持をしているわけです。憲法改正にしても、イデオロギー的な動機として共通した点もあります。中国・韓国への親近感ということでは、東京の自民党本部よりは強いですが、これは経度が西に寄っている以上自然なことでしょう。

 問題は自民党の方です。大阪ローカルの自民党は国政レベルから府、市のレベルまで「都構想」には反対であり、もっと言えば「そんなリストラで既得権を壊されたら困る」という利害代表であるわけです。この大阪ローカルにおける自民党と維新の「180度の違い」というのは深刻です。片山虎之助氏が合流するというのですが、こうした人が「寝技」を使ってもおそらくこの溝を埋めることは難しいでしょう。

 もう1つの路線、それこそ柿沢幹事長などのグループは「民主党を含む野党再編」を考えているわけです。こちらは、「安保法制」に関するデモの盛り上がりや、五輪に関する安倍政権の「もたつき」を好機ととらえて、現政権批判を重ねていくことで政権交代を目指そうという意識を持っていると思います。

 こちらの方も、民主党が統治能力に関する不信任を有権者から食らったことへの反省が足りないという問題と、では「どうしたら政権の受け皿としての統治能力を信じてもらえるか?」という点で確固たる答えを持っていない、これもまた深刻な問題です。

 では、消去法で安倍内閣がこのまま9月以降も力を維持できるのかというと、こちらも世界経済が不安定な中、「アベノミクス」の株高効果に揺らぎが出ていること、にも関わらず産業構造の転換など「次の段階の経済」への手が打てていない中で、徐々にデフレのトレンドが「はがれたメッキの下」から顔をのぞかせつつあるわけで、決して政権の基盤は強くはありません。総裁選に関してはそうした点から党内活性化ができるかがポイントとなると思います。

 要するにすべてにわたって政策論議が圧倒的に足りないのです。安倍政権、総裁選の対抗勢力、大阪維新、民主との連携を志向する勢力、この4つが9月の政局の「役者」であるとしたら、最低限でも次の3点に関して「政策の方向性と遂行能力チェック」が必要ではないでしょうか?

(1)統治能力の証として、2020年東京五輪を「定められた予算シーリング」の中で、酷暑の季節に安全に実施することができるという信頼を国内外から得られるのか?

(2)中国に対して強硬に過ぎて軍拡の口実を与えることのないように、また寛容に過ぎて領土領海の野心を許容していると誤解をされないような「狭いゾーン」からブレない外交、これを前提としての日中、日米、日韓の安定した外交を構築することができるのか?

(3)17年4月の消費税率アップを成功させ、それが社会保障との一体改革と連動して国民の将来不安を緩和させ、最終的にデフレ心理から脱却を図るという国策をブレずに追求できるか?

 こう並べてみると、どれも難しいテーマのように見えます。ですが、いずれも避けて通れない課題です。そうした問題の重さに立ち向かうことなく、集合離散を繰り返しても、支持は得られないと思います。

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