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妊活体験から生まれた女性のためのウェアラブル

ニューズウィーク日本版 2015年9月3日 16時50分

 ウェアラブルという言葉が普及して久しいが、個人的に「ぜひこれはつけてみたい」と思うようなプロダクトにはなかなか出会えない。スマホを肌身離さず持つようになったため、邪魔になる時計はつけなくなった。すっきり身軽になった手首を、今以上にプッシュ通知を受けるために、おしゃれでもないデバイスに明け渡す必要性は感じない。

 ウェアラブルを広く普及させるためには、ファッション業界がデザイン性の高いものを開発すべきだといった議論がある。または、値段が高すぎて一部のアーリーアダプター(初期採用者)の手にしか届かないのだろうという見方もある。実際、米CNETが8月頭に公開した「Best wearable tech of 2015」と題された記事でも、数百ドルするウェアラブルが珍しくない。デザイン性、価格帯、どちらもその通りだろう。

 たが、そもそも、今世間で注目されているウェアラブルの多くは、「あっても良いかも」レベルのものが多い。「Must Have」ではなく「Nice to Have」なのだ。そして、「なきゃ困る」なプロダクトになるためには、人々の不便を解決しているかどうかが鍵の一つを握る。

 その一例が、広義には「ヘルストラッカー」などと呼ばれる分野だ。中でも、生理日予測や排卵日予測を含む女性の体調管理を主としたもの。日本の代表的なサービスに「ルナルナ」があるが、海外では専用アプリとウェアラブルを用いて、自動的かつ正確な測定を試みるものが登場している。イスラエルの「Tempdrop」、そしてサンフランシスコの「YONO」や「LEAF」などだ。






 世界的に晩婚化が進んでいることで自然妊娠が難しく、「妊活」に取り組む女性やカップルが増えている。その最初のステップと言えるのが、基礎体温を測ること。これによって排卵日を予測し、妊娠できる可能性が高いタイミングを特定できる。従来は、平日週末関わらず同じ時間に起床し、身体を動かさないようにしながら(体温を上げてしまわないように)口内に基礎体温計を数分間くわえることで行ってきた。そして、その結果をスマホアプリなどに記入し、変化をトラッキングする。

 例えば、Tempdropは脇下またはアームバンドを用いて腕に装着する。またYONOは、耳栓型だ。どちらも眠る前に装着することで、睡眠中の体温を常時測ってくれる。朝目覚めてそれを外すと、測定した体温などの情報が自動的にスマホに転送される仕組みだ。

 これらのウェアラブルは、どれも従来の基礎体温計より正確な基礎体温を導き出す点を謳っている。彼らによると、本来、基礎体温というのは最も眠りが深いタイミングで到達するものなのだという。ところが、これまでは常時体温を測れるようなデバイスが存在せず、やむなく寝起き一番の体温を基礎体温の目安にしていた。寝ている最中も邪魔にならない形状のウェアラブルなら、本来の基礎体温を測定できる。

 TempdropとYONOのファウンダーへの取材にもあるように、両者とも自身の妊活体験をきっかけにプロダクトの開発に至っている。YONOは早ければ今年の秋、Tempdropは2016年半ば頃に出荷予定。現在、テストユーザーの声を反映しながら、量産に向けた開発が進められている。プロダクトが一人でも多くの女性、そしてカップルの手元に届き、彼らの日々の妊活をよりスムーズにしてくれることに期待したい。


[執筆者] 三橋ゆか里
フリーランスのITライター。IT系メディア「The Bridge」や、女性誌「Numero」や「Hanako」などで幅広く執筆。三省堂の「ICTことば辞典」を共著。現在はロサンゼルスに在住しながら、世界各国のスタートアップを取材し続けている。


三橋ゆか里(ITライター)

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