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定額制音楽配信――アップル、グーグルの日本参入で早くも価格競争の様相

ニューズウィーク日本版 2015年9月9日 17時15分

 アップルが7月1日、月額980円で数百万曲の音楽が聴き放題になる配信サービス「アップル・ミュージック」を日本でスタートさせた。登録してから最初の3カ月は無料で試用できるが、早々にトライアルを始めた人の無料期間があと1カ月で終わるというタイミングで、今度はグーグルが9月3日、3500万曲以上が聴き放題のサービス「グーグルプレイ・ミュージック」を日本で開始。月額980円はアップルと同じだが、無料試用は30日間と短いかわりに、2015年10月18日までに申し込むと月額780円が適用となる特別プランを用意している。

 先行する日本発のサービスも、価格改定やキャンペーンで利用者の確保に動いている。サイバーエージェントとエイベックスが5月に立ち上げた「AWA」は、当初からの月額1080円を8月下旬に960円に値下げ。6月にサービスインした「LINEミュージック」は、有料プランのチケットを初めて購入したユーザーを対象に、通常30日間1000円のチケットで60日間利用できる(実質で月額500円)キャンペーンを8月上旬に開始した。

 米ビルボード誌サイトはこうした日本の状況を紹介しつつ、変化をもたらすのはスポティファイだろうと予想している。スポティファイはスウェーデン発の音楽ストリーミング配信サービスで、ユーザー数が現在7500万人を超える世界最大手。ただし定額制サービスを利用しているのは約2000万人で、残りの約5500万人は広告付きの無料サービスを利用している。

 電通デジタル・ホールディングスが6月、スポティファイに100億円を出資したと発表し、音楽ファンはスポティファイの無料配信がついに日本でも利用できるようになると期待を膨らませた。だが、ビルボードも推測するように、レコード会社との交渉が低調なためか、今なおサービス開始の時期は明かされていない(スポティファイのサイトにアクセスすると、「日本でのサービス利用は現在準備中です!」と表示される)。同記事は「無制限の無料ストリーミングは、確かに音楽業界の中で物議をかもしているが、日本ではまったく望まれていないようだ」と評している。

 状況を変え得るもう1つの有力候補が、アマゾンの「プライム」サービスだ。配送面での優遇が受けられる年会費制のプログラムとしてスタートした同サービスだが、米国(年99ドル=約1万2000円)で2014年6月に聴き放題の音楽ストリーミング「プライム・ミュージック」を追加し、今年7月には英国(年79ポンド=約1万4600円)でも提供開始した。日本での音楽ストリーミングについては未発表だが、映画やテレビ番組などの動画が見放題となる「プライム・ビデオ」は9月下旬スタートとアナウンスされており、プライム・ビデオの方は米、英、独に続き4カ国目なので、音楽の方もそう遠くない時期に利用可能になるのでは、と期待させられる(ただし、日本でのプライム年会費は3900円と、米国や英国よりも大幅に安いので、音楽ストリーミング追加のタイミングで値上げされる可能性もある)。

 料金の比較だけでなく、カタログの充実度(日本人の好みにあった曲が聴けるかどうか)や音質なども選択の条件になるが、スポティファイの広告付き無料配信や、アマゾンの動画と音楽が定額で無制限に楽しめるプライムサービスが日本で始まったら、これまでのような単純な価格競争は行き詰まるだろう。広告付き無料配信のモデルを追加するか、あるいはアマゾンのように動画と音楽を合わせた定額制に進化するか(アップル、グーグルあたりは資金的にも技術的にも対応できるだろう)。

 価格競争の次は、動画配信も巻き込んだ淘汰の時代になる可能性が高い。いくら無料や定額で無制限だとはいえ、音楽や動画を楽しめる時間は有限なのだから。通常は音楽と動画を同時に観賞できないことからも、個人的にはアマゾン・プライムのように音楽と動画を合わせて定額、というモデルは合理的だし有望だと思う。


[執筆者]
高森郁哉
米国遊学と海外出張の経験から英日翻訳者に。ITニュースサイトでのコラム執筆を機にライター業も。主な関心対象は映画、音楽、環境、エネルギー。

高森郁哉(翻訳者、ライター)

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