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「特別警報」制度には見直しが必要では? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

ニューズウィーク日本版 2015年9月11日 17時35分

 台風18号の通過後に関東地方から東北地方にかけて発生した豪雨被害については、アメリカでも大きく報道されています。濁流の中で電信柱から被災者をヘリで救出している映像や、住宅が押し流される映像がテレビやネットで幅広く使われています。

 被災者の方々にお見舞いを申し上げるとともに、救助活動に奔走されている警察、消防、自衛隊の各現場の方々には深い敬意を表明したいと思います。

 こうした大災害については、沈静後に情報が集約された時点で議論を行うのが正しい一方で、直後もしくは現在進行形の状況で問題提起をしておくことも大切だと考えました。以下の議論は、メディア各社の電子版ニュース、そして「TVジャパン」経由でリアルタイムに視聴したNHKニュースに基づくものです。

 今回の豪雨は、かなりの精度で予報がされていました。例えば、日本気象協会のHPでは9月8日の13時57分という時点で、日直予報士による「台風18号、関東も記録的な大雨の恐れ」という予報を発表しています。「今回の雨は9日まででなく、10日まで長引くのが特徴」、「わずか2、3日で、平年の9月1カ月間の総雨量に迫るほど、もしくは超えるほどの雨が降る所もありそう」という内容でした。

 この時点で、気象庁は「線状降雨帯」が「南北縦方向」に発生することを予測していたはずです。ならば、問題はその「帯」がどのラインになるかです。9日の朝から被害が甚大になる10日未明の間に、その「帯」が関東地方のどの地域に激しい降雨をもたらすかは、かなり特定できていたと思います。

 10日になって降水量が尋常でないことから「特別警報」が栃木・茨城に発令されたわけですが(11日には宮城県にも発令)、では、どうして多くの行方不明者が発生し、1000名以上と言われる孤立者を出してしまったのでしょうか?

 まず1点目として警報が遅かったということがあると思います。線状降雨帯による尋常でない豪雨の発生が2日前に予報されていたのに、その予報が生かされていないと言うしかありません。

 2点目には警報の対象が曖昧ということです。「特別警報」の定義としては、生命の危険が迫っているような深刻な危険が「府県単位」で発生しているということで、例えば2014年8月の広島での豪雨災害の場合は適用されませんでした。一方で、今回の、特に茨城県常総市での河川氾濫に関しては、反対に「全県単位の警報」だということで、危機感が希薄化したという面は否めないと思います。避難勧告にしても網羅的に20万人とか30万人という規模で出ていましたが、これも同じことです。

 もちろん、土砂災害や河川の氾濫というのは「どこで起きてもおかしくない」という面があり、また実際に発生してしまったら逃げ遅れる可能性もあるわけですから、こうした尋常でない降雨の場合は幅広く警報を出すことになると思います。

 ですが、全県単位とか、30万人というようなことでは、どうしても個々人の危機感というのは希薄になってしまいます。避難勧告をどう真剣に受け止めてもらえるようにするか、工夫が必要と思います。例えば、河川氾濫に関しては、具体的には河川の流域ごとに、危険エリアをビジュアル化して動画で拡散するとか、河川の水位情報をリアルタイムで報じ、河川の状況を多くの固定カメラでモニターして、その映像を公開するなど方法は色々と考えられると思います。

 3点目としては、土砂災害の危険が強調された点です。線状降雨帯による大災害としては上記の2014年の広島での災害がありました。そのためか、今回の栃木、茨城の状況では「山沿いの土砂災害」への警戒が先行していたように思います。例えば10日の朝から昼ぐらいまでは、鹿沼市での土砂災害のニュースばかりが強調されており、河川の増水に関する注意喚起は不十分だったと思います。

 4点目としては、堤防決壊への危機意識が低かった問題です。10日の正午のNHKニュースが良い例ですが、この時点で既に一部河川では「越水」が起きていて、しかも「鬼怒川では水位の上昇が続いている」ということでした。これは大変なことで、このままではどこかで堤防が決壊する危険性があったわけです。越水と決壊では、氾濫水の流量と速度が劇的に異なり、即座に住宅や自動車に危険が迫るわけです。その「決壊」の危険性が10日の昼の時点では十分に警告できていなかったように思います。

 5点目はテレビ報道に関してです。近年のテレビ各局の災害報道は、以前とは少し変化して来ています。例えば(アメリカでは今でも名物ですが)台風の暴風雨の中で記者が「吹き飛ばされそうになって」報道するとか、大きな被害が出ると真っ先にジープやヘリで駆けつけるといったことは少なくなりました。

 もちろん、予算の問題もあるでしょう。また記者の安全を守るようになったというのは大事なことです。ですが、「メディアは救助作業の邪魔」だとか「報道機関が二次災害を起こしたら迷惑」という理由で、テレビの即時性、映像情報によるリアリティの伝達という効果が「全く発揮できない報道」を強いられているとしたら本末転倒だと思います。

 視聴者に明らかに「迫っている危険」を理解させる、そのために必要な映像と情報を届けるのはテレビ報道の責務であると思います。「特別警報」が発令されるとは、どのような切迫した事態なのか、その具体的な事実を伝える責任はテレビにあると思います。

 6点目は、「言葉のインフレ」です。例えば、この「特別警報」に伴って出される「命を守る行動をしてください」という言い方は、既に形骸化しています。切迫感がニュアンスとして伝わらないからです。

 危険の指摘はもっと具体的であるべきです。「堤防が決壊すると最悪の場合、津波と同じような危険な速度で大量の水が殺到します。増水している河川の近くの低い場所からは直ちに避難してください」とか「土砂災害は前触れなく発生します。夜にかけて豪雨の予想される山間の傾斜地では、前夜から必ず避難して下さい」といった、「形骸化していない」切迫感のある警告の言葉を工夫すべきだと思います。

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