Infoseek 楽天

iPhone 6s、中国人は「ローズゴールド」がお好き

ニューズウィーク日本版 2015年9月24日 17時32分

 今や年に一度の世界的なお祭りとなったアップルの新型iPhone発売日だが、iPhone 6sとiPhone 6s Plusの発売がいよいよ明日に迫った。中国でも米国や日本と同じタイミングで発売される。毎年似たような騒ぎが繰り返されるだけに、原稿を使い回してもバレないのではないかと邪心がよぎるほどの定番イベントだ。来年以降もしっかりと使い回せる、永久保存版の原稿をお届けしたい。

行列

 毎年最大の話題となるのが発売日前の行列だ。数日前から行列を作るという強者までいるほか、中国の転売業者が学生やホームレスを動員して行列代行をさせるといった騒ぎもあったほど。中国のアップルストアではもっと大胆な行動に出る者もいた。専用バスで乗り付け、目印となるおそろいの黄色い帽子をかぶった行列代行のアルバイトが集結したのだ。列に割り込もうとして一般購入者との間で一触即発の事態になったこともあった。

 今年はウェブでの事前予約が必須となり、中国でも他国と同時発売されるため、行列を作る必要性は少なそう。それでも一部では、一刻も早く手に入れたい熱烈なファンが列をなしているようだ。

ニセモノ

 中国iPhone事情といえば欠かせないのがニセモノだろう。ニセモノ業者も年々レベルアップしている。外見が本物そっくりなのは当然として、操作画面もiOSそっくりにカスタマイズされたアンドロイドを搭載している。また、アップルが販売していない、握りしめられるぐらいの小ささの小型ニセiPhoneまで存在する。

 今年もすでにニセiPhone 6sが中国最大の電脳街、広東省深圳市の華強北路に登場している。香港紙の報道によると、ニセiPhoneとして初めて指紋認証機能を搭載した機種まで登場したという。ただし指紋認証とは名ばかりで、誰の指を押し当てても反応する代物で、セキュリティの意味はまったくないのだとか。それでも人前で使って自慢するには十分といったところか。

人気色

 中国では、昨年発売されたiPhone 6は新色「ゴールド」が人気だった。自慢屋の成金を意味する「土豪」という言葉と組み合わせ、「土豪金」という名前が付けられている。プレミア価格がつくほどの人気で、別色のiPhoneをゴールドに塗装してくれるサービスが登場するほどだった。

 黄金大好きの中国人をターゲットとしたカラーだけに、今年もゴールドが売れ筋かと思いきや、人気は新色「ローズゴールド」に集中しているという。iPhone 6s購入を考えている複数の中国人にヒアリングしたところ、やはり狙いはローズゴールドだった。その理由は「一目で6sと分かってもらえるから」というもの。新機種を買ったことを自慢したいという需要が根強いわけだ。

 これを中国では「メンツ消費」という。自分に合ったものかどうか、必要なものかどうかではなく、ともかく人に自慢できるものが欲しいという考え方である。最近では「豊かになるにつれ、中国人の消費スタイルも成熟し、自分に合ったもの(中国語で個性化)を求める動きが強まってきた」などと解説されることも多いが、メンツ消費はまだまだ根強いようだ。

転売

 日本のアップル直営店では、どの携帯電話会社にも自由に乗り換え可能なSIMフリー機が販売されている。ところが昨年12月から約4カ月間にわたり販売が中止された。原因は中国の輸入代行業者による購入が殺到したためだ。

 日本で販売されているiPhoneも中国で販売されているiPhoneも、対応する周波数の違いなどはあるが基本的には同じ製品だ。なぜ日本から購入しようとするのだろうか。あまりの人気に中国で品薄になってしまったからという理由もあるが、それ以上に大きいのは価格の問題だ。

 円安の進行にアップルの価格改定が追いつかなかったことも大きいが、日本と中国のiPhoneの価格差には、税金の問題も少なくない。中国では税込みの価格しか表示されないためあまり意識されていないが、日本の消費税にあたる増値税が約17%と高額だ。都市建設税など他の税金もあり、その分小売価格が上昇している。iPhone 6sの価格(16GBモデル)を比較すると日本の8万6800円に対し、中国は5288元(約9万9500円)と約1万2000円もの開きがある。転売目的で中国本土に持ち込む場合、本来ならば関税を支払う必要があるが、これをごまかしてしまえば差額が利益として転がり込む。

爆買い

 この構図は中国人観光客による「爆買い」と共通している。ある調査によれば訪日中国人観光客一人当たりの消費額は約25万円と高額だが、なにも中国人がお金持ちだからではない。日本で買ったほうが圧倒的に安いからだ。中国製の商品でも日本で買ったほうが得となる。しかも、日本クオリティの検品がされているというおまけ付き。そのため親戚や友人から頼まれた品もあわせて、がんばって爆買いすることになる。

 関税を支払わない爆買いは明らかな脱税で、韓国から化粧品を大量に持ち込んだ中国人フライトアテンダントが脱税で有罪判決を受けた事例もある。しかし、摘発される確率はきわめて小さいだけに歯止めにはなっていないようだ。海外旅行時の爆買いだけではなく、ネットショッピングによるお取り寄せ、「越境EC」も同様の理由で人気である。

 まじめに税金を支払うと商売にならないというのでは、あまりにも切ない話である。中国政府もそのうち本気で対策をとるだろう。その時こそ、iPhone狂騒曲や爆買いといった中国ニュースの定番ネタが終わる時になるはずだ。

[執筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

この記事の関連ニュース