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まれに見る「不仲」に終わった米中首脳会談【習近平 in アメリカ③】

ニューズウィーク日本版 2015年9月28日 17時0分

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※【習近平 in アメリカ②】訪米初日、習近平はどう迎えられたか? はこちら

 25日、ワシントンで行われた米中首脳会談は、「西高東低(経熱政冷)」(西のシアトルでは厚遇、東のワシントンでは冷遇)を鮮明に突きつけた。中国ではごまかしながら報道したが、会談は失敗といえるだろう。 

中国にとって失敗だった米中首脳会談

 西海岸のシアトルで多くのアメリカ大手企業を惹きつけ、熱烈な歓迎ムードの中で笑顔を振りまき続けた中国の習近平国家主席は、現地時間9月24日午後、ワシントンに着くなり顔が曇った。飛行機のデッキから降りた瞬間、その冷遇ぶりを感じ取ったからだろう。

 たしかにバイデン副大統領は飛行場まで迎えに来ていた。デッキにも赤絨毯が敷いてあり、その先にも赤絨毯がありはしたものの、熱気が違う。

 その2日前にカトリック教会の最高指導者であるローマ法王フランシスコがワシントン入りしている。比較する対象ではないものの、世界にとって、まさに「神」のごとき神聖な存在のローマ法王が熱狂的に歓迎されたあの熱気を観ているはずの習近平は、バイデン大統領の「お愛想笑い」にも、嬉しそうな顔は返していない。

 中国側としては何としてもローマ法王の訪米日程をずらしてほしいと米側に懇願したが、米国はそれに応じず、その時点からこの暗雲は予感されていたものと思う。

 ローマ法王をオバマ大統領夫妻とバイデン副大統領夫妻が出迎えるという異例の歓待ぶりも、比べる対象ではないにしても、雲泥の差を見せつけられている。

 現地時間の24日夜、非公式の晩餐会会場に行く夕方の「散歩」も、2013年6月のカリフォルニア・アネンバーグ邸における散策と違い、習近平国家主席は笑顔を作って見せるものの、オバマ大統領は次期大統領選と米議会における非難を避けるためか、作り笑いさえしない。

 アネンバーグ邸のときの、オバマ大統領の、あの「媚びるような」笑顔はどこに行ったのか。「親密な関係」といったところで、所詮は利害の計算でしかないことが、くっきりと浮かび上がった。
オバマ大統領としても、米議会の上下院とも共和党の議席が多い現状では、「共和党の嫌う中国」に、習近平主席との親密度を見せるわけにはいかないのだろう。来年に行われる大統領選に、民主党が敗北するかもしれないという、恐ろしい現実も待ち構えている。

 9月25日の首脳会談では、中国が避けたい「サイバー・セキュリティ問題」や「南シナ海問題」あるいは「人権問題」が話し合われたものと思う。

 共同記者会見における二人の表情は硬く、目を合わそうとさえしない。

 知的財産権(産業スパイ)などのサイバー・セキュリティ問題に関しては、サイバー攻撃を双方の政府が容認せず、閣僚級の対話メカニズムを構築することで合意したとしながらも、習近平氏が「我が国も被害者だ」として協力を唱えたのに対し、「問題は実際に実行するかどうかだ。場合によっては経済制裁も辞さない」と疑いを挟んだオバマ大統領に、習近平主席は不快感を隠さなかった。

 オバマ大統領が「人権尊重」を強調すると、習近平主席は「各国にはそれぞれ異なる歴史や国情がある」と応酬。

 なかなか見られない(見ごたえのある?)「不仲」ぶりだ。

 25日夜の公式晩餐会に入場するときは、今度はオバマ大統領がさすがに言い過ぎたと思ったのかオベンチャラ笑いを見せるが、習近平主席はニコリともせず、やはり目を合わさない。

 乾杯のグラスを交わした時も、グラスを合わせると習近平主席はすぐに着席。ふつうなら、互いに一口くらいは付けてニコリと笑い列席の客に乾杯をさせてから着席するのに、オバマ大統領はグラスを持ったまま、その行き先を失って、さすがに不快そうにグラスをテーブルに置き、習近平主席にスピーチを促した。

 こんな姿、中国のあの、「共産党を讃え、習近平国家主席を讃えるための」中央テレビ局CCTVで流せるはずもない。

 日本で報道された二人の仏頂面を避け、CCTVはできるだけ笑顔の瞬間を選んで二人の顔を映し出し、あとはナレーターが勝手に中国に有利な内容を創りあげて「新型大国関係で米中両国はコンセンサスを得た」と喋り続けるという、異常な報道ぶりだった。スタジオのキャスターの戸惑いとこわばった笑顔が、なんとも印象的だ。

 習近平主席が抱いたであろう「偉大なる中華民族の復興」と「中国の夢」は東海岸では歓迎されず、「新型大国関係」も「ウィン‐ウィンの関係」も、一方通行で虚しく響く。

 もちろん大統領選を控えている民主党の事情と、優勢を占める共和党議員の存在という現実があるものの、習近平側からすれば、米中首脳会談は失敗に終わったと言っていいだろう。
言うまでもなく、米議会における習近平主席の演説は、共和党議員の強い反対により拒絶されている。

 経済は熱くとも(西高でも)、政治的には冷え込んでしまったいる(東低な)のだ。

南シナ海問題

 南シナ海問題では平行線をたどったようだ。オバマ大統領は首脳会談で、東シナ海や南シナ海における安全保障情勢、特に人工島建設に懸念を示したことを、共同記者会見で明らかにした。それに対し習近平氏は中国外交部報道官と同じように「南シナ海島嶼は中国古来の領土であり、中国は合法、正当な海洋権益を持っている」と突っぱねた。

 たしかに南シナ海の島嶼に関しては、中国は1992年に領海法を制定し、いわゆる「中国の赤い舌」と呼ばれる島嶼を、すべて中華人民共和国の領土領海と宣言した。国際法によれば国家の法的な決議機関で決議し、そのときに他国から撤廃を求める提訴を受けていなければ、それで合法的となるようだ(1931年のクリッパートン事件判例による)。

 我が国の尖閣諸島の場合も1895年の閣議決定により合法的に日本国のものとなっている。

 にもかかわらず、1992年の中国の領海法では、その尖閣諸島を含めた南シナ海の東沙諸島、南沙諸島、西沙諸島などの島嶼を全て「中国の領土」として全人代(中国の立法機関)で決議した。

 日本はこのとき猛烈に反対しなければならなかったはずだ。提訴すべきなのである。

 しかし口頭で遺憾の意を駐日本国の中国大使に伝え、国会内で多少の質疑があっただけで、それ以上のことをしていない。
中国が領海法を制定したのは、1991年12月に敵対していたソ連が崩壊したからだ。それまでは中ソ対立があったので、米国や日本などと国交を正常化しソ連に対して「俺には米国や日本がいるんだぞ」と見せつけていた。そのソ連が崩壊したのなら、もう怖いものはない。日本も米国も必要なくなった。

 特に米国は1950年に起きた朝鮮戦争によって、東アジア諸国が赤化(共産党化)するのを恐れて、突如、日本を極東の基地として日米安保条約を結ぼうとし、またフィリピンとも1951年に相互防衛協定を結んでいたのだが、ソ連の崩壊により東南アジア一帯の赤化の可能性が低くなり冷戦構造もなくなったと安心した米国は、フィリピンに駐在させていた米軍を撤退させてしまったのである。

 中国がそのスキをついて領海法を制定したというのに、アメリカもまた、その時はいかなる反応もしていない。
日米ともに外交戦略に失敗しているのだ。

 よもや、中国が日本を凌駕するほどの経済成長を遂げるとは思わなかったのだろう。

 甘い――!

 この点に日米が注目しない限り、南シナ海問題に関しては「永久に」平行線をたどるだろう。

アラスカ沖に現れた中国軍艦を習近平訪米と結びつけた日本のメディア

 9月25日、日本の某テレビ局は、今年9月2日に中国海軍の艦船5隻がアラスカ沖に現れたことを、習近平訪米と結び付けて「米国への威嚇」といったトーンで報道した。これは少々筋違いで強引な論法ではないだろうか。

 実は8月20日から28日まで、中国はロシアとともに中露合同軍事演習をおこない、ウラジオストックで閉幕式を開催した。この合同演習は習近平政権になってから5回目で、通常の軍事演習の一環だった。

 閉幕式のあと、中国海軍の5隻の艦船が二つのルートに分かれて帰国し、一部は米国のアラスカ州沖のベーリング海の公海上を航行して帰国した。狭い海峡を渡るため、その際、アリューシャン列島の海岸線から12海里の米国領海内を抜けた。

 国際法では、「他国の領海内でもその国の平和や秩序、安全を害さなければ艦船で航行する権利(無害通航権)」を認めている。

 米国国防総省は、「今回の航行は、この無害通航権に当たる合法的な通過で、そのまま太平洋に入って帰国している」として、「問題なし」と結論付けた。その旨、ウォールストリート・ジャーナルも報道している。

 米国が結論を出している「無害通航」を、日本のそのテレビ局の番組は、あたかも米中首脳会談を中国に有利に持って行くための威嚇であるかのように解説し、先般強行採決された安保法案にまで関連付けて報道した。

 いかなる目的でこのような扇動的な報道をしなければならないのか理解に苦しむが、われわれはこういう時だからこそ、世界で発生する事態を冷静に客観的に「事実」だけを見抜いていく努力をしなければならない。

 中国は2013年5月に「北極理事会」のオブザーバーとして参加している。そこにはエネルギー資源がある。その探査に興味を持ったとしても、習近平訪米のために、ベーリング海を通過したことが、「米国に対する軍事的威嚇」になり得ると考えるのは、あまりに突飛なことだ。

 そもそも、中国がいま米国に勝てるような(威嚇できるような)軍事力を持っているか、よく考えてみるといい。米国には日米同盟があり、ロシアは中国と合同軍事演習はやっても軍事同盟を結んでいるわけではない。

 また中国の経済力に陰りが見えているからこそ、米国は強い態度に出ることができるのである。
自省を込めてだが、発信者はミスリードをしないように心掛けたい。

[執筆者]
遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数

※当記事はYahoo!ニュース個人からの転載です。

遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

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