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同性愛への寛容度でわかる日本の世代間分裂

ニューズウィーク日本版 2015年9月29日 16時15分

 東京都渋谷区では、同性カップルを「結婚に相当する関係」と認める条例が施行されている(同性パートナーシップ条例)。日本では同性婚は法的に認められていないが、「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行することで、性的少数者の権利を保護するためだ。

 今世界では、同性婚を合法とする社会が増えてきている。イギリス、フランス、オランダ、スペイン、スウェーデンなどがそうだ。同性婚をめぐって長らく社会的、宗教的な論争が続いてきたアメリカでも、今年6月に連邦最高裁が同性婚を合憲とする判断を示した。

 これらの国では概して、同性愛への寛容度は高い。2010~14年に各国の研究者が共同で実施した『世界価値観調査』によると、10段階で表した寛容度の平均点はスウェーデンが8.5点、オランダが7.9点、スペインが7.1点となっている(英仏は調査に回答せず)。日本は5.1点、韓国は3.5点だった。

 これは20歳以上の成人の回答の平均点で、日本の数値は10段階のほぼ真ん中ということになる。しかし世代別にデータを分析すると日本の特徴が見えてくる。<図1>は、主要国の年齢層別の平均点をつないだ折れ線グラフだ。



 同性愛への寛容度は、どの年齢でもスウェーデンが最も高い。その折れ線グラフは平坦で、年齢による差がほとんどない。それに対して日本はグラフの右下がりの傾斜が大きく、20代の寛容度は実はアメリカ、ドイツより高いのだが、高齢層になると一気に急落する。日本の特徴は、意識の世代差が極端に大きいことだ。同様の特徴は韓国でも見られる。

 若者が先進的な価値観を持つのは常だが、ここまで世代差が大きい社会は他にあるだろうか。もっと多くの国を含めて、20代の若年層と60歳以上の高齢層の平均点を比較してみた。横軸に若年層、縦軸に高齢層の寛容度の平均点を取った座標上に57の国を配置したグラフが次の<図2>だ。



 フィリピンやインドのような例外もあるが、大半の国では若年層の方が高齢層より寛容度が高い(実斜線よりも上)。点斜線よりも上は世代差が3ポイント以上ある国だが、日本はこのゾーンに位置している。日本の若年層の平均点は7.3点、高齢層は3.4点で、4ポイント近くも開いている。同性愛に対する寛容度の世代差が、世界で最も大きい社会だ。

 日本の若年層の平均点は調査対象国中5位で、同性婚が認められている国々と同レベルだ。若者の政治参画が進めば、同性愛への差別や偏見はなくなるのではないか、という希望的観測も持てる。先の同性パートナーシップ条例が、若者の街・渋谷で採択されたことは象徴的だろう。

 同性愛だけでなく、婚前交渉や離婚に対する寛容度の世代差も大きい。戦後の短期間に社会規範が大きく変化した日本では、様々な意識や価値観の世代差が大きい。現在、日本社会を動かす指導者層の多くは高齢者だが、若者の意向をもっと取り入れることで社会が急速に変化する可能性は十分にある。

 例えば政治参画の代表的な手段は選挙だが、投票所に足を運ぶ人の年齢構成は高齢層に偏った完全な逆ピラミッド型になっている。今後、選挙年齢が20歳から18歳に引き下げられ、ネット選挙の導入が進められる中で、投票動向がどう変わるかが注目される。

 今、国会議員や大学教員など「指導的位置に占める女性の比率」が注目され、「2020年までに30%」という数値目標が設定されている。これと並行して、若者の意見を社会にどう反映させるかについても、もっと関心が持たれるべきだろう。それは、社会変革の可能性のバロメーターでもあるからだ。

<資料:『世界価値観調査』(2010~2014)>

[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]

舞田敏彦(武蔵野大学講師)

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