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フェイスブックの難民支援は慈善では済まない

ニューズウィーク日本版 2015年9月29日 17時9分

 フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグは、インターネットアクセスに関して高邁な新構想を打ち出した。難民キャンプへの無料サービスの提供だ。

 先週末開かれた国連(UN)主催の昼食会で壇上に立ったザッカーバーグは詳細こそ明らかにしなかったものの、構想は彼が昨年から手がけているプロジェクト「Internet.org(インターネット・ドット・オーグ)」のコンセプトと一致する。Internet.orgの目的は、インターネットにアクセスできない世界のおよそ3分の2の人々にサービスを提供することだ。

 Internet.orgは、モバイルデータ通信の利用料金を払えないガーナやコロンビア、インドなど発展途上国の人々に基本的なサービスを無料で提供するモバイルアプリ。サービスの中には、ウィキペディアや天気予報などのほか、もちろんフェイスブックが含まれる。Internet.orgはそのウェブサイト上で「これまで900万以上の人々をオンラインで結び、インターネットの恩恵を広げてきた」と謳う。「いまや人々はコミュニケーションの手段と、健康や教育の情報やニュースへのアクセスを得た」

 とはいえ、そうした限定的なインターネットアクセスが社会のためになるとは限らない。一部の批判派は、一見寛大に見えるこのプロジェクトも結局はフェイスブックの儲けにつながるものだという。またInternet.orgはそのプラットフォームへの新規参入を阻んで競争を制限しており、ウェブはますますフェイスブックにとって好都合な環境になると批判する。

データ通信無料のからくりがわからない

 ニューヨーク・タイムズ紙によると、ザッカーバーグは昼食会の席上、こうした批判ももっともだという様子で、「Internet.orgは決して慈善ではない」と言った。「インターネットにつながる人口が増えれば、われわれ皆が利益を得る」。とりわけ大きな利益を得るのが難民たちだ。定住先を求めて長い旅に出る彼らの多くが、スマートフォンに依存する生活を送っている。「インターネットに接続できれば、難民たちは支援者からより多くのサポートを得られるし、家族や愛する人と連絡を取り合うことができる。フェイスブックは、このライフラインを支えることができる唯一の存在だ」

 だが、それでも問題がある。普通はモバイルインターネットアクセスを利用するためにユーザーは料金を支払わなければならないが、Internet.orgはフェイスブックを介して無料で利用できる。フェイスブックは携帯電話会社と提携し、「ゼロレーティング(ユーザーに課金なし)」のサービスを提供している。これは「ネットワーク中立性」(どんなユーザーも平等にデータ通信を利用でいるべきだという考え)に抵触しないのか。

 米当局がついて議論を始めた当初は、ゼロレーティングに関する配慮はほとんどなく、議論の対象になったのは通信速度の平等だった。だが今はゼロレーティングによる料金体系の不平等のほうが重視されはじめた国もある。例えばインドでは、ネットワーク中立性に関する懸念を理由に2社がInternet.orgへの参加を見合わせている。

「ネットワーク中立性の議論の根本にあるのは差別の防止だが、防止だけでは不十分だ」。Internet.orgプロジェクトを発表する動画のなかで、ザッカーバーグは語る。「われわれは一歩進んで、社会的弱者の地位を引き上げる必要がある。(中略)インターネット料金を支払えない人がいるのであれば、たとえそのアクセスが限られたものであっても、まったくできないよりははるかにましだ」

1日のユーザーが10億人を突破

 しかし小規模企業や起業家は、フェイスブックのような巨大企業が通信事業者と極秘で有利な取引を行なって、無料のアクセスを提供するだけでなくコンテンツも選別するのではないか、と警戒する。行きつく先は、ユーザーのさらなる囲い込みだ。

「大手に対するハンディをなくさない限り、世界は、第二のフェイスブックやグーグル、ツイッターからの恩恵が受けられなくなるだろう」と、ブラウザの「ファイヤーフォックス」で知られる米モジラ・コーポレーションの商務・法務担当部長のデネル・ディクソン=セイヤーはブログで言う。

 先月、フェイスブックは重要な節目を迎えた。1日のフェイスブック・ユーザーが初めて10億人を超えたのだ。競争相手が懸念するのも無理はない。

ローレン・ウォーカー

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