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VWだけじゃない、排ガス不正

ニューズウィーク日本版 2015年10月2日 11時0分

 フォルクスワーゲン(VW)に何年もだまされ続けてきた規制当局が反撃に出た。同社が09年から15年まで排ガス検査を組織的にごまかしてきたことを認めると、米環境保護局(EPA)は先週、車両検査の強化を宣言。今後はVWが使用していたような、検査時だけ有害物質の排出量を減らす不正ソフトウエア「ディフィート・デバイス(無効化装置)」の摘発にもっと力を入れるという。

 環境保護団体シエラクラブの政策アナリスト、ジェシー・プレンティスダンはこの動きを歓迎する一方、長期的な対策として「検査の在り方を刷新する必要がある」と指摘する。

 現在は自動車メーカーが自社で検査を行い、結果を当局に報告する形になっている。EPAは車両の抜き打ち検査を実施しているが、そのための人員や予算は心もとない。

クライスラーもGMも現代も

 消費者団体の自動車安全センターのダン・ベッカーは、検査をメーカー任せにせず、実施主体を当局の監督下にある研究機関に移さない限り、排ガス基準を守らせることはできないと主張する。「今の体制は、キツネに鶏小屋の管理を任せているようなものだ。絶対にうまくいかない」

 この種の違反は1970年にEPAが創設され、大気浄化法の下で自動車の排ガス規制が導入された当初からあった。VWは73年、2万5000台の車両に規制逃れの機能をひそかに搭載したことを認めている。

 翌年には、クライスラー(現フィアット・クライスラー・オートモービルズ)がラジエーターに同様の機能を搭載していたことが発覚。80万台以上のリコールに追い込まれた。

 90年代に入ると、大きなスキャンダルが相次いだ。ゼネラル・モーターズ(GM)は95年、エアコン使用時に一酸化炭素の排出量を規制値の3倍近くにするコンピューターチップを50万台近くのキャデラックに搭載していたことを認め、4500万ドルの制裁金支払いで米司法省、EPAと和解した。

 98年には、建設機械大手キャタピラーなど3社が、トラックに同様の機能を搭載したとして10億ドルの支払いを受け入れた。

 最近では昨年11月、韓国の現代・起亜自動車が120万台の燃費性能を誇張していたことを認め、3億ドルを支払うことで司法省、EPAと和解した。

改革を阻む共和党の壁

 シエラクラブのプレンティスダンは、抜き打ち検査の回数を増やすだけでも抑止効果が期待できると語る。実際、EPA交通・大気汚染管理局のクリス・グランドラー局長はAP通信に対し、近いうちにそうする可能性もあると語った。

 ただし、グランドラーは排ガス検査の具体的な強化策については明言を避けた。「彼ら(自動車メーカー)にそれを知らせる必要はない。車両検査の時間と走行距離を少し伸ばすことだけ理解してくれればいい」

 自動車安全センターのベッカーは、監視の強化は好ましい変化だが、規制当局は検査データをメーカーに依存する現状からの脱却をさらに進める必要があると指摘する。「自動車業界が信頼できないことは過去の実績が物語っている。メーカーが『うちの車は基準に適合しています。すべて問題なしです』と言っても、EPAは信じてはいけない。当局は検査体制を改善し、メーカー側の数値に依存しないようにすべきだ」

 規制当局が内部で検査を実施するか、それとも当局の監督下で独立した研究機関に検査を任せるべきか、改革案の詳細はベッカーにも分からない。いずれにせよ、メーカーを検査に関与させないことが重要だという。その場合、検査コストの一部は形式的に納税者の負担になるが、最終的に大半の費用をメーカーに負担させる仕組みが必要だと、ベッカーは言う。

 こうした案には産業界寄りの米共和党が反対する可能性が高い。これまでもEPAは、米議会の共和党から目の敵にされてきた。10年に比べ、予算は20%(約20億ドル)削減された。今月も、共和党の下院議員20人がジーナ・マッカーシー長官の弾劾を提案している。

 環境団体の天然資源保護協議会(NRDC)のルーク・トナチェルは、こうした共和党の行動がEPAの足を引っ張っていると主張する。「EPAの予算や人員が削減され続ければ、ごまかしを行うメーカーの摘発はますます困難になる」


[2015.10. 6号掲載]
コール・スタングラー

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