ヒラリー・クリントンは必要とあらば激しい論戦も辞さない。だが、2016年米大統領選挙に向けた民主党候補者の初の討論会では、最後まで冷静な態度を崩さず、他の候補の追い上げを許さなかった。
現地時間の13日夜ラスベガスで行われた討論会には、クリントン前国務長官のほか、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)、マーティン・オマリー前メリーランド州知事、ジム・ウェッブ元上院議員(バージニア州選出)、リンカーン・チェイフィー前ロードアイランド州知事が参加。最有力候補のクリントン相手に、4人の対抗馬は次々にパンチを繰り出したが、クリントンはいずれも危なげなくかわして見せた。
政治の場では異例のことに、最大のライバルであるサンダースがクリントンに助け舟を出す一幕もあった。
クリントンは国務長官時代に私用のメールアカウントで公務のメールをやりとりしていた問題で質問攻めに遭ったが、冷静に対応して拍手を浴びた。このときサンダースが驚きの行動に出た。「これは偉大な政治とは言えないかもしれないが、言わせてもらおう。クリントン前国務長官は正しいと、私は思う」サンダースはそう言うと、クリントンのほうを見て、声のトーンを上げた。「あなたの電子メールをめぐるくだらない話には、アメリカ人は飽き飽きし、うんざりしている。もっと重要な問題を話し合おう」
実際これは、サンダースにとって最も偉大な政治手法だったかもしれない。圧倒的に多くの民主党員は、共和党がクリントン攻撃のために電子メール・スキャンダルを利用していると考えている。その証拠に、サンダースの発言に聴衆は長々と拍手を送り、クリントンは彼に握手を求めた。このとき空気の読めないチェイフィーは、私的なアカウントを使用したことでクリントンの判断力が疑われたのは無理もないと発言。討論会を主催したCNNの司会者アンダーソン・クーパーがクリントンに何か言いたいことはあるかと水を向けると、クリントンはにっこり笑って「ノー」と答え、さらに大きな喝采を浴びて、満場は笑いに包まれた。
個人攻撃ばかり目立つ共和党とは大違い
驚くほど穏やかなムードは幕切れまで続いた。意見が対立する場面もあったが、罵り合いとはほぼ無縁で、個人攻撃が目立った共和党の過去2回の討論会とは好対照をなした。刑法改正、有給休暇の法制化、格差の是正などでは、候補者たちの立場はほぼ一致。5人は互いを尊重しつつ、礼儀正しく意見を交わし、足の引っ張り合いに終始する共和党との違いをアピールした。
移民問題については、「みなさんがこの場で聞くすべての見解と共和党の候補者から聞くことには大きな違いがある」と、クリントンが発言。これを受けてオマリーは、移民排斥論者として知られる共和党の最有力候補ドナルド・トランプを「共和党カーニバルの客引き」と非難した。
討論が白熱し、和気あいあいムードが吹き飛ぶ場面もあったが、クリントンは落ち着いた態度を貫いた。銃規制、外交、財政改革などの争点をめぐり、おもにサンダース、クリントン、オマリーが舌戦を繰り広げた。サンダースとオマリーがよりリベラルな立場でタッグを組み、クリントンと対立する場面が多かった。しかし銃規制では、サンダースが過去に銃の製造業者の訴追免除を支持したことを弁明する羽目になり、失点を喫した。
外交政策では、サンダースはクリントンに助け舟を出さず、2002年に当時上院議員だったクリントンがイラク侵攻に賛成票を投じたことを批判。イラク戦争は「この国の歴史上最悪の外交政策の失敗」だったと述べた。
金融規制改革では厳しさをアピール
クリントンは賛成票を投じたのは誤りだったと既に認めており、この問題で批判されるのを予想して反論を準備をしていた。2008年の大統領選予備選で敗れた相手であり、クリントンがイラク戦争に賛成したことを批判した人物、つまりバラク・オバマ大統領を引き合いに出したのだ。
「(イラク戦争に賛成票を投じたにも関わらず)選挙後、国務長官になってくれないかと言われた」と、クリントンは言い、自分の判断能力をアピールした。「オバマは私の判断力を貴重と考え、(ホワイトハウスの地下にある)シチュエーションルームで何時間も議論をして過ごした」」
クリントンがより強硬なシリア政策を主張していることをオマリーが批判すると、オマリーは2008年の大統領選では自分を支持したではないかとやり返した。
金融規制改革に関し、オマリーは、銀行と証券の間に垣根を設けたグラス・スティーガル法を復活させる必要があると論じた。
移民には優しいほうが有利
クリントンは、ウォール街の監督規制問題については最近、ライバル候補たちの提案よりも「包括的で厳しい」提案を発表したと言った。同提案は、保険会社や投資銀行といったシャドーバンキング(影の銀行)業界にも規制の網をかけるものだという。クリントンに言わせれば、シャドーバンキングは今後の経済の安定性にとって大きな脅威になりうる。
サンダースは、不法移民を合法化することを柱とした2007年の移民制度改革案に反対票を投じたことで弁明を迫られた。ラテン系移民の票はもはや望めないのではないか、と司会のクーパーからも突っ込みが入った。「法案に反対したのは、労働条件についての条項があまりに酷かったからだ。人権団体の南部貧困法律センターは『奴隷制度に近い』と呼んだほどだ」と、サンダースは語った。
サンダースには、自分が極左でないことを民主党支持者に証明するという使命もあった。リベラル過ぎれば、本選で共和党候補には決して勝てないからだ。
その点を明らかにするべくクーパーは、総司令官として米軍を指揮し戦う用意はあるか、と尋ねた。サンダースの答えはこうだ。「私は非戦主義者ではない。アフガニスタン戦争も支持したし、シリア空爆や、大統領がしようとしていることを支持した」
2時間の討論会を支配したのはオマリー、サンダース、クリントンの3人だった。オマリーは支持率で後れを取っているが、全米に放送された討論会が追い風になるかもしれない。だが少なくとも1回目の討論の時点では、クリントンとサンダースの優位を覆すような兆しはほとんどなかった。
エミリー・カデイ
現地時間の13日夜ラスベガスで行われた討論会には、クリントン前国務長官のほか、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)、マーティン・オマリー前メリーランド州知事、ジム・ウェッブ元上院議員(バージニア州選出)、リンカーン・チェイフィー前ロードアイランド州知事が参加。最有力候補のクリントン相手に、4人の対抗馬は次々にパンチを繰り出したが、クリントンはいずれも危なげなくかわして見せた。
政治の場では異例のことに、最大のライバルであるサンダースがクリントンに助け舟を出す一幕もあった。
クリントンは国務長官時代に私用のメールアカウントで公務のメールをやりとりしていた問題で質問攻めに遭ったが、冷静に対応して拍手を浴びた。このときサンダースが驚きの行動に出た。「これは偉大な政治とは言えないかもしれないが、言わせてもらおう。クリントン前国務長官は正しいと、私は思う」サンダースはそう言うと、クリントンのほうを見て、声のトーンを上げた。「あなたの電子メールをめぐるくだらない話には、アメリカ人は飽き飽きし、うんざりしている。もっと重要な問題を話し合おう」
実際これは、サンダースにとって最も偉大な政治手法だったかもしれない。圧倒的に多くの民主党員は、共和党がクリントン攻撃のために電子メール・スキャンダルを利用していると考えている。その証拠に、サンダースの発言に聴衆は長々と拍手を送り、クリントンは彼に握手を求めた。このとき空気の読めないチェイフィーは、私的なアカウントを使用したことでクリントンの判断力が疑われたのは無理もないと発言。討論会を主催したCNNの司会者アンダーソン・クーパーがクリントンに何か言いたいことはあるかと水を向けると、クリントンはにっこり笑って「ノー」と答え、さらに大きな喝采を浴びて、満場は笑いに包まれた。
個人攻撃ばかり目立つ共和党とは大違い
驚くほど穏やかなムードは幕切れまで続いた。意見が対立する場面もあったが、罵り合いとはほぼ無縁で、個人攻撃が目立った共和党の過去2回の討論会とは好対照をなした。刑法改正、有給休暇の法制化、格差の是正などでは、候補者たちの立場はほぼ一致。5人は互いを尊重しつつ、礼儀正しく意見を交わし、足の引っ張り合いに終始する共和党との違いをアピールした。
移民問題については、「みなさんがこの場で聞くすべての見解と共和党の候補者から聞くことには大きな違いがある」と、クリントンが発言。これを受けてオマリーは、移民排斥論者として知られる共和党の最有力候補ドナルド・トランプを「共和党カーニバルの客引き」と非難した。
討論が白熱し、和気あいあいムードが吹き飛ぶ場面もあったが、クリントンは落ち着いた態度を貫いた。銃規制、外交、財政改革などの争点をめぐり、おもにサンダース、クリントン、オマリーが舌戦を繰り広げた。サンダースとオマリーがよりリベラルな立場でタッグを組み、クリントンと対立する場面が多かった。しかし銃規制では、サンダースが過去に銃の製造業者の訴追免除を支持したことを弁明する羽目になり、失点を喫した。
外交政策では、サンダースはクリントンに助け舟を出さず、2002年に当時上院議員だったクリントンがイラク侵攻に賛成票を投じたことを批判。イラク戦争は「この国の歴史上最悪の外交政策の失敗」だったと述べた。
金融規制改革では厳しさをアピール
クリントンは賛成票を投じたのは誤りだったと既に認めており、この問題で批判されるのを予想して反論を準備をしていた。2008年の大統領選予備選で敗れた相手であり、クリントンがイラク戦争に賛成したことを批判した人物、つまりバラク・オバマ大統領を引き合いに出したのだ。
「(イラク戦争に賛成票を投じたにも関わらず)選挙後、国務長官になってくれないかと言われた」と、クリントンは言い、自分の判断能力をアピールした。「オバマは私の判断力を貴重と考え、(ホワイトハウスの地下にある)シチュエーションルームで何時間も議論をして過ごした」」
クリントンがより強硬なシリア政策を主張していることをオマリーが批判すると、オマリーは2008年の大統領選では自分を支持したではないかとやり返した。
金融規制改革に関し、オマリーは、銀行と証券の間に垣根を設けたグラス・スティーガル法を復活させる必要があると論じた。
移民には優しいほうが有利
クリントンは、ウォール街の監督規制問題については最近、ライバル候補たちの提案よりも「包括的で厳しい」提案を発表したと言った。同提案は、保険会社や投資銀行といったシャドーバンキング(影の銀行)業界にも規制の網をかけるものだという。クリントンに言わせれば、シャドーバンキングは今後の経済の安定性にとって大きな脅威になりうる。
サンダースは、不法移民を合法化することを柱とした2007年の移民制度改革案に反対票を投じたことで弁明を迫られた。ラテン系移民の票はもはや望めないのではないか、と司会のクーパーからも突っ込みが入った。「法案に反対したのは、労働条件についての条項があまりに酷かったからだ。人権団体の南部貧困法律センターは『奴隷制度に近い』と呼んだほどだ」と、サンダースは語った。
サンダースには、自分が極左でないことを民主党支持者に証明するという使命もあった。リベラル過ぎれば、本選で共和党候補には決して勝てないからだ。
その点を明らかにするべくクーパーは、総司令官として米軍を指揮し戦う用意はあるか、と尋ねた。サンダースの答えはこうだ。「私は非戦主義者ではない。アフガニスタン戦争も支持したし、シリア空爆や、大統領がしようとしていることを支持した」
2時間の討論会を支配したのはオマリー、サンダース、クリントンの3人だった。オマリーは支持率で後れを取っているが、全米に放送された討論会が追い風になるかもしれない。だが少なくとも1回目の討論の時点では、クリントンとサンダースの優位を覆すような兆しはほとんどなかった。
エミリー・カデイ