Infoseek 楽天

日本の若者の貧困化が「パラサイト・シングル」を増加させる

ニューズウィーク日本版 2015年10月20日 16時0分

「パラサイト・シングル」という言葉がある。学校卒業後も実家で親と同居する独身者のことで、家賃や食費等の基礎的な生活費がかからないため、給与のほとんどを自分の遊興費などにあてられる。

 一見優雅な生活のようにも見えるが、このような生活が続くと実家を出て結婚しようというモチベーションがおきなくなる。女性の場合、現状と同レベルの生活を保証してくれる男性がいないと、結婚する気にならない。しかし今の時代、そんな男性は滅多にいないので、理想の相手が見つかるまで親元での生活を続けることになる。日本の未婚化が進んだ原因をパラサイト・シングルに求めるという説もある(山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』ちくま新書,1999年)。

 この「パラサイト・シングル」、若者の何%くらいいるのだろうか。日本以外の国ではどうか。国際比較の統計は無いようなので、作ってみた。2010~14年に実施された『世界価値観調査』のデータをもとに、25~34歳の若年層のうち親と同居する未婚者が占める割合を計算した。<表1>は、比率が高い順に58カ国を並べたランキングだ(英仏は調査に回答せず)。



 日本は42.2%で7位となっている。儒教社会の韓国も比率が高い。上位にはチュニジアやモロッコなど北アフリカの国があるが、これらの農牧社会では家族労働が多いのが理由だろう。「親に依存する独身者」という表現は適さないかもしれない。シンガポールは、国土が狭いので住宅の取得が困難なのではないだろうか。

 なお欧米諸国では、親と同居する未婚者の比率は概して低い。ドイツは15.1%、アメリカは9.6%、スウェーデンはわずか4.6%だ。成人後は親元を離れるのが一般的な欧米諸国から見ると、日本の現状は奇異に映るかもしれない。

 しかし「パラサイト・シングル」の顕在化は、日本の深刻な社会状況の変化を反映している。昨今の経済条件の悪化によって、若者が実家を出たくても出られず、パラサイトせざるを得ない状況に陥っているからだ。

 25~34歳の男性就業者に占める非正規雇用の割合は、1992年では6.5%だったが、2012年では16.4%にまで増えている。これに伴って平均年収は402万円から350万円へと減り、年収200万円未満のいわゆる「ワーキング・プア」が占める比率は6.3%から14.3%へと増加した(総務省『就業構造基本調査』)。

 これは日本全国の数値だが、地域別にみるともっと凄まじい値が出てくる。<図1>は、若年男性の都道府県別の「ワーキング・プア」の比率が、この20年間でどう変化したかを示したものだ。



 日本列島全体で若者の貧困化が急速に進んでいる。これが「失われた20年」のリアルだ。2012年では26の県で15%、13の県で20%(5人に1人)を超えている。最高の沖縄県は4割という惨状だ。

 このような経済状況の変化が、若者の自立を阻んでいることは間違いない。若年層に対する経済的支援、とりわけ生活の基盤である「住」に重点を置いた支援策が必要だろう。ヨーロッパでは政府が低家賃住宅を提供している国もあるが、日本ではそうした物件は少なく、賃貸住宅のうち公営住宅が占める割合も極めて低い。若年層が新居を構えることができれば、それが家財用品の消費の増加や、結婚・出産の増加につながり、社会全体の経済活動が活発になる。

 若者のパラサイト化の進行の背景には、この20年で急激に悪化した経済状況がある。現実には自立したくてもできない人が少なくない。若者がこうした現状から脱却できるよう、自立を促す様々な条件を整える政策が急務だ。

<資料:『世界価値観調査』(2010~14年)、総務省『就業構造基本調査』(2012年)>

[筆者の舞田敏彦氏は武蔵野大学講師(教育学)。公式ブログは「データえっせい」、近著に『教育の使命と実態 データから見た教育社会学試論』(武蔵野大学出版会)。]

≪この筆者の記事一覧はこちら≫

舞田敏彦(武蔵野大学講師)

この記事の関連ニュース