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値上げが中小企業を幸せにする4つの理由(後編)

ニューズウィーク日本版 2015年10月21日 6時30分

 2017年4月に消費税率が10%に引き上げられるが、その際の軽減税率導入をめぐって激しい議論が交わされている。軽減税率がどう決着するにせよ、消費増税は刻一刻と迫る。だが、それで世の中が自動的にインフレに転じるとは限らないし、モノの値段が勝手に上がるわけでもない。

 商品やサービスを売るビジネスの現場では、そう単純な話ではない。「個々の会社や店が意志を持って値段を上げ、それをお客さんに受け入れてもらうことが必要」だと、多くの中小・中堅企業を調査してきた経営コンサルタントの辻井啓作氏は言う。

 辻井氏は著書『小さな会社・お店のための 値上げの技術』(CCCメディアハウス)で、デフレ・インフレに関係なく、経営者も従業員も取引先も顧客も幸せにできる手段として、値上げの必要性を説く。「1割の値上げができれば営業利益は2倍になる」「値段のしくみを知り、条件を整え、勇気を持って値上げせよ」と辻井氏。

 ここでは、本書の「第1章 どうして値上げが必要か」から「値上げが中小企業を幸せにする四つの理由」の項を抜粋し、前後半に分けて掲載する。

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『小さな会社・お店のための 値上げの技術』
 辻井啓作 著
 CCCメディアハウス


※値上げが中小企業を幸せにする4つの理由:前編はこちら

◇ ◇ ◇

3.値上げは取引先(仕入先)を幸せにする

 有名な和菓子店の店主さんが「材料を仕入れる取引先には絶対に値引きを求めず、その分、最高の材料を手当てしてもらっている」と話していました。長年の取引で培った信頼関係が感じられる言葉です。

 その和菓子店の商品は決して高額な値段ではないのですが、それでも他の店に比べればやや高い値段がつけられており、それらが次々と売れていくのです。やや高い、という程度の値上げでも、そこから生じる余裕が、材料の価格を惜しまないという姿勢を生んでいます。そうすると、材料を提供する卸売業者の側にも余裕ができ、よりよく材料を安定して提供できるようになります。

 推測ですが、きっと卸売業者の人も、多くの取引先が値下げを要請する中、値段ではなく品質を求めるこの和菓子店との仕事にやりがいを感じていることでしょう。そして、そのことがさらに良い材料を提供することにつながっているに違いありません。

 もちろん、取引の際に相手を甘やかすのがいいというわけではありません。仕入れる原材料は品質と価格の両方で納得できることが重要です。でも、この和菓子店は少しだけ高い値段で売れる商品を持っているからこそ、値段より品質を重視できるのです。おそらく、卸売業者の側でも、この信頼に応え、良い材料を適切な価格で提供し続けていることと思います。

 値上げができれば、自分の店や会社だけでなく、その幸せは取引先にも広がっていくことがよくわかります。

4.値上げはお客さんも幸せにする

 意外に感じるかもしれませんが、実は上手な値上げは、お客さんも幸せにします。

 もちろん、同じ商品・サービスをそのまま値上げされて幸せを感じるお客さんはいません。でも、値上げすることで商品やサービスの内容を充実させることができれば、喜ぶお客さんも出てくるでしょう。

 また、値上げしたことで広告に費用をかけられるようになり、今までその商品やサービスを知らなかったお客さんにとっては、新しい商品やサービスを知って買うことができるという幸せが得られることになります。

 そして、もっとも重要なお客さんの幸せは、「気に入った商品やサービスを買い続けられること」にあります。

 気に入っていた商品が売られなくなってしまったり、行きつけの店が潰れてしまったりということを、多くの人が経験し、悲しい思いをしていると思います。

 商品がなくなったり、店が潰れたりするのにはいろいろな理由がありますが、たいていは利益が出ていないことが原因です。もう少し高い値段で売っていれば、しっかりと利益がとれて、売り続けられたのに、値上げをしなかったばかりに売り続けることを諦めなくてはいけない、こんな状況は珍しくありません。

 本当にその商品を気に入っているお客さんは、少しくらいの値段の差は気にせず買うものです。もちろん、安いに越したことはありませんが、それよりもその商品がなくなることのほうがもっと困ることなのです。

 少し前のことですが、私はある地方にある養鶏場で売っている鶏肉が気に入っていました。普通のものに比べて、肉に歯ごたえがあり味が濃く感じるのです。養鶏場が直売していたので、値段も通常の肉屋さんで買う鶏肉と変わらないものでした。

 ところがある時、その養鶏場が廃業してしまったのです。聞いてみると、跡取りもおらず、鳥インフルエンザなどのリスクが高まったので廃業するとのことでした。

 その後、幸いなことに、私は気に入っていた鶏肉とほとんど同じ味のものを見つけることができました。同じ地域の別の養鶏場でも歯ごたえのある鶏肉を売るようになったのです。ただし値段は、以前の養鶏場に比べておよそ2倍しました。

 2倍になったといっても、有名なブランド地鶏などに比べると割安なので、私は時々、新しい養鶏場で鶏肉を買っています。正直なところ、そんなに不満はありません。でも、もともとの養鶏場があと何割かでも高く鶏肉を売っていれば、利益が出て、跡取りも見つけることができただろうな、と考えてしまいます。鶏肉を値上げしてくれていたほうが私にとっては幸せだったのです。

※続きの「値下げが中小企業にもたらす5つのリスク(前編)」はこちら

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