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フレックスタイム制をうまく機能させる方法

ニューズウィーク日本版 2015年10月29日 11時31分

 遠足バスを手配し忘れ、ミスの発覚を恐れて狂言騒動を起こした大手旅行会社の社員。コンペにより選ばれた大会エンブレムのデザインが盗作だと非難され、撤回した著名デザイナー。ネットの機械翻訳そのままであるかのような原稿に気づかず、翻訳書を出版した出版社の編集者......。

 産業の空洞化が日本経済の問題としてよく指摘されるが、それ以上に、ビジネスパーソン1人ひとりの「スキルの空洞化」のほうが実は深刻だと、コンサルタントで日本タイムマネジメント普及協会理事長の行本明説氏は言う。

 ジョブローテーションから組織のフラット化、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)、ノー残業デーまで、日本にはびこる「間違いだらけのマネジメント」が、現場のスキルを空洞化させていると訴える行本氏。

 行本氏は新刊『ワーク・コントロール 仕事に振りまわされないための[スマートマネジメント]』(CCCメディアハウス)で、データと理論に基づいてその間違いを正し、ホワイトカラーの生産性を劇的に上げる新しいマネジメントモデルを提唱している。ここでは本書から一部を抜粋し、4回に分けて掲載する。

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『ワーク・コントロール
 ――仕事に振りまわされないための[スマートマネジメント]』
 行本明説 著
 CCCメディアハウス



※抜粋第1回:「働きやすい制度」が生産性を下げてしまう理由 はこちら

◇ ◇ ◇

「音声情報」がフレックスタイム制を機能させる

[ロジック] 「他人と共同でやる仕事」の生産性を上げる

 フレックスタイム制も、期待どおりの成果をあげていません。その最大の理由は、フラット型組織と同様に、組織内のコミュニケーションの悪化といえます。

 その理屈について、もう一度確認しておきましょう。

 どんな人にも、「自分ひとりでやる仕事」と「他人と共同でやる仕事」があります。また、自分ひとりでやる仕事には専門知識、他人と共同でやる仕事にはコミュニケーションスキルが必要です。そして一般的には、この2つの仕事は4対6の割合です。つまり、私たちの仕事の6割以上はコミュニケーション絡みなのです。

 一見、働きやすいフレックスタイム制ですが、「自分ひとりでやる仕事」への方策にはなっても、仕事の6割以上を占める「他人と共同でやる仕事」に対しては無力です。

 こうした基本を知らないままフレックスタイム制を導入すれば、他人と共同でやるコミュニケーション絡みの仕事で、さまざまなトラブルを引き起こすのは当然です。

 生産性向上を目的としてフレックスタイム制を導入するなら、さらに綿密な検証が必要です。つまり、どうすればコミュニケーションの「質」を上げたり、「量」を増やしたりすることができるのかを考えなくてはならないのです。

 たとえば朝、チームのメンバーが揃わないため、情報共有が遅れたとしましょう。それは業務の遅れに直結し、生産性の低下を招きます。

 また、「メールで情報のやりとりをするから大丈夫だ」と主張する人もいますが、実際には音声情報の不足がコミュニケーションの精度を落としています。

[ノウハウ] コミュニケーション・ロジックを理解する

 このように、「仕事のしくみ」からフレックスタイム制の弱点がわかったら、次はコミュニケーション・ロジックをしっかり理解してください。コミュニケーションのしくみを知って、効果的に情報を伝達するのです。

 具体的に説明しましょう。



 まず、「言語コミュニケーション」と「非言語コミュニケーション」について――。

 現代人のコミュニケーションは、その約80%が身振りや表情、あるいは匂いや手触りによって行われています。言葉を音声や文字で表現する「言語コミュニケーション」は、約20%に過ぎません。思いのほか、動物的な五感を頼りにしているわけですが、なかでも視覚が重要な位置を占めています。人間がコミュニケーションをとるとき、大脳の視覚野が活発になることがわかっています。

 とはいえ、ビジネスの現場では、やはり言語コミュニケーションが中心になります。「相手の瞳をじっと見つめて......」などという場面はめったにないでしょう。

 そこで、言語コミュニケーションについて、詳しく見ていきましょう。

 まず、言語コミュニケーションには4つの技術があります。すなわち、「聞く」「話す」「読む」「書く」という4つの言語スキルです。そして、これらが使われている頻度は、それぞれ45%、30%、15%、10%という比率です。つまり、言語コミュニケーションのなかで半分近くが「聞く」ことにあてられているのです。相手の話を上手に聞くことがいかに大切か、これでよくわかります。

 次に、この4つの言語スキルを両極併存の発想で検証してみましょう。

 そうすると、「音声情報」と「文字情報」に分けることができ、その割合はそれぞれ75%、25%となります。

 1人1台のパソコンで全員がメールアドレスをもったとしても、劇的にコミュニケーションがよくなることはありません。

 なぜなら、メールでカバーできる文字情報は、言語情報の25%でしかないからです。残りの75%の音声情報を、どのようにマネジメントするかが大きな課題になります。

 さらに、コミュニケーションを「受信」と「発信」に分けて考えることもできます。「聞く・読む」で60%、「話す・書く」で40%ですから、その比率はおおむね6対4になります。

 多くのマネジャーがコミュニケーションで苦労しているのも、このあたりに原因がありそうです。発信と受信の「量」が逆転すると、効果的なコミュニケーションから遠のいてしまうのです。発信が受信を大幅に上回るコミュニケーションには、なんらかの問題があると疑ったほうがいいでしょう。

 こうしたロジックを押さえたうえで、フレックスタイム制を導入するなら、生産性向上も十分期待できます。

 逆に、フレックスタイム制が機能していない組織は、制度導入の是非を問う前に、社内コミュニケーションの実態を把握する必要があるでしょう。

[ツール] ボイスメール

 ボイスメールが強力なサポートツールとなるはずです。本書がボイスメールにこだわるのは、見落とされがちな音声情報の重要性を再認識してほしいからです。

 すでに述べたように、音声情報は気持ちや微妙なニュアンスを伝えるのに格好のツールなのです。丸紅テレコムでの商品供給の再開を願うばかりです。

※抜粋第3回:会議を減らすだけでは生産性が上がらない理由 はこちら

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